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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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百三話 家族を失う恐怖

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「キント兄、ヒタチに居たマサードを襲撃したの!?」

「あぁ。ここでアイツをブッ飛ばせば全部簡単に終わると思ったんだよ......」

「エタケも兄上の案を1つの選択肢として認めてしまいました。申し訳ありません」


 敵の大将が大した護衛も連れずに居れば誰だって飛びついてしまいたくなるだろう。

 仮にそこで倒せればキント兄の言ったようにこの反乱は一気に終息したはずだ。

 此度の反乱はマサードが真皇を僭称していることが一番の原因なのだから。

 マサードが討伐もしくは捕縛されれば側近たちとて反乱を諦めるに違いない。


 それにキント兄がシウさんとの婚儀の為に早く帰りたいと思っているのは俺もエタケも知っている。

 頭を潰せば終わりの戦なのだから、一緒に居たのが俺だったとしてもキント兄の突貫を認めていたことだろう。


 しかし、問題はそこではない。

 全力のキント兄の一撃を受けて平然としているなど常人には不可能だ。

 これでも兄は腕力だけなら皇京の中でも上位には入る実力がある。

 肉体強化魔法を使えば猶更だ。

 それを受け止めて殴り返すなど本物のマサード並の力が無ければ難しいだろう。

 というか本物でもそこまでの力を持っているのかと疑いたくなるほどだ。


「キント兄は怪我しなかった?」

「おう。ルアキラ殿が持たせてくれた御守りのおかげで結界が助けてくれたんだ。腹に拳を受けて吹き飛んだから、もしまともに喰らってたら骨どころかハラワタまでやられてたかもしれねぇ......」

「その後気絶しそうになってた兄上を天馬で回収してなんとか帰還したのです......」


 キント兄は何故か笑いながら割れた三昧耶形の描かれた木札を見せて来た。

 サダ姉の時といい、今回御守りを渡してくれたルアキラ殿には本当に頭が上がらない。

 

 ヒタチ国で出会ったのが本物のマサードだとすれば、コウズケの拠点には居ないと考えてまず間違いない。

 そしてマサードが居ないのであれば黒鉄の鎧への魔力供給が行われていない今ならば突き崩せると考えるのも自然な流れか。

 それでもサモリ殿の気が逸っているように見えるのは何故だろうか?


「兄様、ヒタチで処刑されていた役人の中にコウズケ介クニカ・イラ様がいらっしゃったのです……。サモリ様のお父上です」

「!! それでか......」


 俺の疑問を読んだエタケが小さな声で教えてくれた。

 たしかマサードがコウズケの国府を襲撃した時に捕縛されていたんだったな。

 誰もが同じイラ姓で遠縁のため命までは取られまいと考えていたようだったが......。

 そのままヒタチまで連れていかれて民衆の前で殺されたのか。

 肉親を殺されたせいで今すぐにでも敵地へと向かおうとしているのだな。


 俺はヨリツ父上やサキ母様が同じ目に合うことを想像してしまい怖気が立った。

 自分がその境遇に立たされたら間違いなく狂気に駆られ復讐に走ってしまうだろう。

 手を下したマサードだけでなく、反乱に加担した将兵のみならず、その一族郎党全てを殺し尽くしても止まれないかもしれない。

 全身を血に染めてなお殺戮を続ける自身の姿を想像して激しく身震いした。 


「兄様......? 大丈夫ですか? エタケたちが居ない間に大蛇と戦っていたとお聞きしています。まだ疲労からお加減が優れないのであればお休みになっていてくださいね? 本陣の守りにはエタケや父上、兄上と姉上も居ますので」


 いつの間にかエタケが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 よほど酷い顔色をしていたようで、俺を見つめる瞳が少々涙ぐんでいる。

 気付くと硬く握った拳のせいで掌に血が滲んでいた。


「ああ、ごめん。もう大丈夫。心配してくれてありがとな」


 いつものように頭を撫でて笑みを返そうとしたが、自分の掌が血で汚れているのでぎこちなく笑ってその場を後にする事しかできなかった。


 想像したくも無いが実際に戦場ではいつ誰が命を落とすか分からないのだ。

 それは大人だけでなく大切な父兄姉妹たちやテミス家の顔見知りということも有り得る。

 人を殺す覚悟と自分の命を賭ける覚悟はしていたつもりだが、大事な人々を失う覚悟だけは出来そうにないな……。


 俺に殺される人々にも大切な者は居るだろうけれど、悪いがあくまで他人で俺には関係がないと割り切れる。これは単純なエゴだ。

 割り切れなければこんな所には来ない。

 屋敷か山で籠ってみんなの無事を祈ることしか出来ずに居ただろう。

 だが、それでもし大切な人が命を落としてしまったら俺は何のために転生したのか分からなくなる。

 俺にやれることは全部やる。

 それが人の道に背くような惨い行いであっても。

 今世では家族を守り全力で生きると決めたのだから。


 激しく動揺していた心をなんとか落ち着かせると俺はミチナ様の下へと向かった。



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