百一話 姉弟 対 毒息
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ヤツの転移が見破れなかったのはこの周囲を包む闇のせいなのかは分からないが、この闇の中で神出鬼没な敵の存在を気にしながら毒息と戦うのは厄介過ぎる。
「サダ姉! 今は毒息に集中して! さっきのヤツは父上が相手をしてくれていると考えよう!」
「分かったわ!」
俺たち二人は一瞬動揺したがすぐに立て直し眼前の大蛇へと気持ちを切り替える。
毒息は蜷局を巻いて再び口を開くと大きく息を吸った。
そして少し溜めがあった後にその口にある孔から毒の煙が噴出される。
恐らく気管が毒腺と繋がっているのだろう。
それで呼気と共に周囲に毒を撒き散らしているのだ。
俺とサダ姉は左右に別れて毒の息吹を回避する。
その動きを見越していたのか俺の方へと蛇の尾が叩きつけるように迫るが、暗闇でも雷神眼で動きが視えている俺には回避は容易い。
避ける際に腰に佩いていた刀で尾を斬りつける。
「硬いな!?」
「シャー!!」
思っていたよりも硬い鱗の手応えと毒息の胴体に違和感を覚えた。
俺の使っている刀はサイカが打ってくれた直刀で名を石蕗という。
名前の由来はサイカが住んでいた隠れ里に咲いていた植物で、艶のある葉っぱが特徴的で黄色い花を咲かせる植物だ。
刃(葉)に艶があることから石蕗と名付けたのだそう。つまりは駄洒落だな。
この刀はサイカが打った中でもかなり切れ味が良い方なのだがそれで斬れないとは驚いた。
鱗にマサードの強化でも受けているのかと訝しんだがそんな様子は見受けられない。
俺が驚いていると再び蛇の尾が迫る。
次は下から弾くような動きだ。
真横に転がることで躱して、次は突きを放つが浅く刺さっただけで刃が止まってしまった。
鱗だけでなく身も硬い。
これは土魔法と身体強化が掛かっている?
頭の方と戦っているサダ姉の気配をずっと感じつつ戦っているが、毒の息吹は先ほど以降放たれていない。
毒腺の毒を相当量使うのかそうそう連発が出来る物では無いようだ。
「もう! さっきから全然当たらない!」
「サダ姉! 蛇の頭は感覚が鋭いんだ! 身体を狙って!」
たしか蛇の頭には熱を感知するような器官があったはずだ。
雷の玉の熱を感知して避けているのだろう。
「分かったわ! 喰らいなさい! -雷玉-」
蜷局を巻いて鎮座する身体にサダ姉の放った雷の玉が直撃したが、毒息は全く痛みを感じた素振りを見せなかった。
「は? きゃあ!!」
「サダ姉!!」
身体へ直撃させたというのに全くの無傷だったことに呆然としたサダ姉。
その隙を突かれて毒息の尾がサダ姉を弾き飛ばした。
サダ姉を傷つけられたことで頭に血が昇りそうになるが、なんとか落ち着けて思考を回し状況を分析する。
焦るな。考えろ。
頭が雷玉を避け続けていたのはきっと効果があるからだ。
胴体に雷が効かなかったのはやはり土の鎧か何かを薄く纏ってるとみて間違いない。
頭が鎧で覆われていないのは感覚器官を露出していないとまともに戦えないからか?
サダ姉がやっていたように頭を狙うのが正解だったのか。
だが、鋭敏な感覚を持っていて動きの遅い雷玉だと当てるのは難しい。
俺が囮になるしかないな。
俺は石蕗を鞘に納めると背負っていた鉄棍を構える。
身体を殴りつけたところで大して効きはしないだろうが、注意を引くことは出来るはずだ。
サダ姉が立ち上がったことを確認すると、俺は毒息の眼前へと立ちはだかった。
「サダ姉! 俺が毒息を惹き付ける! 母様の得意技で頭を狙って!」
「お母様の得意技!? ……わかったわ! やってみる!」
サダ姉は一瞬驚いていたがすぐに意図を理解したようで意識を集中し始めた。
俺は雷珠を5つ同時に発動し、毒息の眼と鼻の間に位置する孔にぶつけた。
「シャァアアア!!?」
毒息は激しく頭を振って悶えている。
俺が狙ったのは前世の理科の教科書で蛇の解剖図に載っていたピット器官とかいう場所だ。
そこが蛇の感覚器官で最も大事な部分とされている。
雷玉ほどの大きさのものだと察知出来るのだろうが、雷珠のように小さなものがいきなり現れると反応しきれなかったようだな。
威力自体は大した事は無いが、鋭敏な感覚が災いして爪と指の間に針を刺されたような痛みはあったはずだ。
そして今の攻撃で蛇の腹から音が聞こえたことで俺の読みが当たっていると踏んだ。
今の攻撃によってイラついた蛇が殺気を込めた眼で完全に狙いを俺へと向ける。
口を大きく開いてその鋭利な牙で噛み付く気だ。
俺は待っていたとばかりにその口の中へと飛び込んだ。
「え!? ツナ!!?」
牙を避けて蛇の口の中へと入り込む。
鉄棍をつっかえ棒にして咬合できなくすると、次は毒の煙で俺を殺そうと毒息吹を吐くために大きな溜めを作った。
「今だ!!」
「≪天より落つる雷よ 我が敵を断て≫ -雷断-!!」
サダ姉が術を叫ぶと巨大な雷の斧が毒息の頭上に振り下ろされ、鎌首をもたげていた毒息の頭部と胴体を泣き別れにした。
「うおっと!」
ポーンと頭部が飛ばされたせいで口の中の俺は一緒になって転がる。
止まった所でなんとか口内から這い出して蛇の胴体の方を視るが生体電流の反応は内部も含め完全に無くなっていた。
無事に倒せたようだ。
雷玉の灯りに照らされたサダ姉がこちらへと駆けつける。
「ツナ! 大丈夫!? 怪我はない?」
「こっちは平気。サダ姉こそ弾き飛ばされた怪我は大丈夫?」
「ええ。妾の方はこの木札が結界を張ってくれたみたいで平気よ。木札は割れちゃったけどね」
結界魔法を込めれば他人に渡せるじゃないか!
あ、いや違った。以前の俺は結界魔法を教わりたいって言ったんだったか。
今回ルアキラ殿が俺の兄姉妹に結界の御守りを渡してくれたのは、自分で覚えようとしなくても作れる人に任せればいいと暗に教えてくれたのかもしれない。
あの時は結局、零と虚空の話に脱線してしまったからな。
帰ったら作ってもらおう。
って、聖痕の神仏が誰だか判明しない限り俺自身が結界の魔術具を持つのは無理なんじゃ......?
俺は哀しい事実に気付いたが、今回の様に家族を守る分だけでも作ってもらえばいいやと思考を割り切った。
「サダ姉が無事で良かった。それに母様の得意技って言っただけで気付いてくれて助かったよ。切断系の魔法なら素早く力強い一撃を与えられるからね」
「あの回りくどい言い方はどこかで魔獣使いが聞いていると考えたからね? お母様みたいに薄く高密度の魔力の刃には出来そうに無かったから大斧になっちゃったけど、斬れたから問題ないわよね!!」
その通り。あの時に毒息の首を斬り飛ばしてくれと言わなかったのは魔獣使いに聞かれて対応されることを恐れたためだ。
ちなみに我らがサキ母様の二つ名は”咲雷”
もとは”裂雷”らしいが裂という字が可愛くないということで主上に直訴して咲に変えてもらったのだそうで、その豪胆さを買われて近衛職に取り立てられたらしい。
名の通り落雷が大樹を真っ二つに裂くが如く、雷の刃で敵を両断したことから名付けられたというが、咲の字に変わったことで、雷の花が咲き乱れるという名に相応しい新たな魔法まで生み出してしまうのだから凄い人物である。
「さて、後は魔獣使いと父上たちを探さないといけないわね」
「いや、魔獣使いは恐らく死んでるよ。毒息の腹の中で」
「え!?」
そう。俺が毒息に感じた不自然さは体内に別の生体電流を感知したからだ。
そして本来使わないはずの土の鎧や身体強化魔法。
あれは魔獣と文字通り一体になることで意のままに操る類の術だろう。
そうやって魔獣使いが使える魔法を毒息の身体で使っていたのだ。
雷珠を鋭敏なピット器官に当てた際に腹から聞こえた音は感覚を共有していた魔獣使いの叫び声だと思う。
恐らく体内の生体電流も消えていることから、毒息が死亡した際に同時に死んだものと思われる。
簡単に説明するとサダ姉は「だからツナを飲み込んじゃわなかったのね!」と合点がいったように納得していた。
そうなのだ。蛇の口は顎を外して大きなものを飲み込むことも出来る。
腹の中に魔獣使いが居るため口内の俺を飲み込めなかったのだと思われる。
さて、どうやって父上を探そうかと思っていると不意に闇が晴れて辺りの景色が明るさを取り戻した。




