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セイデンキ‐異世界平安草子‐  作者: 蘭桐生
第一伝:幼少期~バンドー叛乱編~

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九十九話 進軍

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「ミチナ様。例の物は採集次第随時運ばせております。しかし本当にこのような物に効果があるのでしょうか?」

「さぁ? どうだろうな。まあ黒鉄の鎧とはまともにやりあっても勝てなかったんだ。今はヨリツが指示する通りにやらせておけばいいさ。効果が見えずとも働いている間はウチの連中の士気が下がらねえだろ」

「サモリ様、ミチナ様、ご心配なく。戦上手な父上の策ですので必ずや成功するでしょう」


 敵本陣への奇襲から5日経った。

 青毛天馬のヒテンでの空からの偵察によれば前回の奇襲により本陣が壊滅したマサード軍は一度シナノ領内から大きく後退し、コウズケとムサシの境であるウスイ川とツクモ川の合流地点辺りに土魔法で固めた強固な拠点を築いているようだ。

 おそらくそこでムサシ守の戦力と合流をする腹積もりなのだろう。


 今俺たちはミチナ様と共に五百の手勢を率い東正鎮守府を出て、マサードの軍勢が本陣を構えていた場所よりも奥のウスイ峠の手前に陣を敷いている。

 守りではなく攻めに転じているのだ。

 次に黒鉄鎧の軍勢と相対した場合の準備も着々と進めている。


「ミチナ様、近くの村民に話を聞いたところウスイ峠に毒を持った大蛇が出現しているようです。空からでは確認できませんでしたが陸路を進むには退治しなければならないかと」


 陣に入って来た父上が村民から聞いた話としてウスイ峠の報告をした。

 どうやら峠に厄介な魔獣が居座っているらしい。


「マサード軍はここを抜けて撤退したのだから奴らの置き土産と考えるのが妥当だろうな。しかし黒鉄の軍勢だけでなく魔獣を操る者まで居るとは人材が豊富で羨ましいことだぜ!」

「命令を受けたといえど魔獣のみをその場に居座らせ続けるのは不可能でしょう。操り手も近くに潜んでいると考えるべきです」


 ミチナ様とサモリ殿の意見に同意だな。

 マサード側の準備が整うまでここで時間稼ぎをする気だろう。

 

「細い峠道な上に毒を使うとなると大勢で挑むのは危険だな。すまねぇがトール家に処理を任せて構わねえか? ウチの娘共がお前の策の要となるのなら本番までは温存させておきてぇ」

「承知しました。では私とツナ、サダの三名で討伐して参ります。キントとエタケには引き続きヒテンで周辺の国司や館にマサード討滅の詔を写した書状をバラ撒かせておきます」


 討伐指令を承諾した父上は軽く頭を下げるとミチナ様の傍に控えていた俺に付いて来いと目で合図を出した。

 父上の後を追って陣地から退出すると溜息を吐かれた。


「まったく。私の策として献策したのは構わぬが、お前が集めさせているアレをどう使うつもりだ? 先日も説明されたがにわかには信じられん」

「父上。補充された兵の全員が黒鉄の鎧を着けていたわけではないところから察するに、マサードが生み出しているであろうあの鎧の数は有限のようです。つまり大量に使えなくすればその分だけ相手の戦力は激減します」


 マサードの軍は奇襲でやられた数百人を補充して再び二千人ほどになっていた。

 だが、初日の段階では鎧の数が足りておらず、補充された兵達は通常の鎧を身に纏っていたのだ。

 マサードが黒鉄を生み出せるとしてもそれを鎧に加工するのに時間が掛かるのだろう。

 それに気付いたのは土魔法で固められた新たな拠点のおかげだ。

 防御力を最大に発揮させるには全てを黒鉄で作れば良いはずなのだが、門や柵等の一部にしか使われていなかった。

 これによりマサード自体も黒鉄を複雑な形で生み出すのは難しいのだろうと判断したのだ。


 しかし拠点や二千の兵に毎日魔力を補充していると考えると、やはりマサードは人外の域に居ることが伺える。

 ミチナ様や爺ちゃんですらそんな事を継続するのは不可能だろうから、魔神に力を与えられたことは明白だろう。


「それでアレがどう黒鉄の鎧と結びつくのだ?」

「父上はニオノ海ではなく普通の海をご存じ無いですか? その周辺での暮らしで困ることを存じて居らねば、実際に見てもらうまでは説明が難しいですね」

「む。そうなのか......」


 父上は何やら思案している。

 俺は今持っている実験に使った黒鉄の一部で説明したとしても、マサードの力で強化されていないからだと言われれば反論のしようが無いこともあり、余計なことを言わないようにした。


「まあ、よかろう。それよりも今は峠の毒大蛇だな。生き延びた村人の話では毒蛇は毒の息を吐くようだ。それを吸った者たちはすぐに苦しんで倒れたらしい。あとは現れる時は辺りが闇に包まれると言っていたので陰属性を持っておるのだろう」

「陽魔法の使い手か巫女でも同伴させますか?」

「いや、陽属性は貴重な回復要員だ。少数で向かう我らでは狙われた際に守るのが難しい。我らが毒を受けた際にすぐ浄化を行えるよう峠口に守りを付けたうえで待機させる手配はしておこう」


 その懸念は正しいだろうな。

 今回の相手はただの魔獣ではなく魔獣使いが操る毒大蛇なのだ。

 巫女が居れば的確に狙ってくるに違いない。

 峠口であれば万が一そちらが狙われても本陣からすぐにミチナ殿も出て来れるから安全だ。


「それではサダ姉様を呼んで参ります。準備が整い次第峠口に集合でよろしいでしょうか?」

「うむ。任せた」


 俺は女性兵の調練を手伝っていたサダ姉を呼びに向かい、毒大蛇討伐の命を受けたこと等を伝えると自身の装備を整えに戻った。



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