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青春時代の歳の差なんて~中高生の歳の差恋愛物語~  作者: 九傷


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第72話 告白をしてしまう (麻生 環)



「あの、どうでしょう、か……?」



 私がおずおずと尋ねると、塚本先輩は慌てた様子で口の中のものを飲み込む。



「んぐ、いや、マジで美味いよ! 朝霧さんに匹敵するっていうか、朝霧さん以上?」


「そ、そんなことは……」



 柚葉ちゃんから料理を教わっている私が、柚葉ちゃん以上の味を出せるワケがない。



(……でも、お世辞でもちょっと嬉しいかも)



 塚本先輩としては、要するにそれくらい美味しいよと伝えたかったのだろう。

 それは私にとって、最上とも言える褒め言葉であった。



「いやぁ、でも本当に良かったの? 昨日に続いて今日もって、結構大変だったんじゃない?」


「それは、大丈夫です。私が好きでやったことなので……」



 と、自分が結構大胆なことを言っていると、言ってから気づく。

 急速に顔が熱くなるのを感じ、私は思わず顔を逸らしてしまう。



(って、ああ……、これじゃそっぽを向いたように思われるかも……)



 見事なくらいに空回りしていることを自覚し、なんだか情けなくなってくる。

 幸い塚本先輩は気にした様子はないけど、内心ではどのように思われたのやら……

 ひとまず、変なかたちで会話を切ってしまったため、私から会話の再開を試みる。



「あの、むしろ、先輩の方が迷惑だったりしないでしょうか? こんなお弁当なんか持ってきて……」


「いやいや全然! 迷惑なんてあるワケないじゃない?」


「でも、その……」



 お弁当を美味しいと言ってくれるのは、正直凄く嬉しい。

 でも、やっぱり私なんかが……という気持ちはある。

 今日だってわざわざ教室に尋ねたりして、その、誤解とかされたりとかいう心配が……



「いいかい麻生ちゃん。女子の手作り弁当なんてものは、大体の男が喜ぶ代物なんだよ。それが後輩の可愛い女子からで、しかも美味しいときたら喜ばないワケがない。もし喜ばない奴がいたら……、そいつは俺にとって敵だ」


「っ!?」



 塚本先輩が真面目な顔つきで言うものだからつい聞き入ってしまったけど、その中に信じられない単語があったことに驚く。



(後輩の可愛い女子って……、もしかして、私……?)



 いやいや、そんなハズはない。

 今のは恐らく、ちょっとした例えのつもりで言ったのだろう。

 男子から可愛いなんて、生まれてからまだ一度だって言われたことがないのだ。

 流石に自意識過剰過ぎるだろう。



「……え、えっと、そう言ってくれるのは嬉しいんですが、やっぱり、私なんかがお弁当を持っていったりしたら、ご、誤解とか、受けちゃうかもしれませんし……」



 しかしそれでも、聞かずにはいられなかった。

 もし受け入れてくれるならという、まるで希望にでも縋るような思いが、私に言葉を(つむ)がせた。



「……? そんなの、むしろ嬉しいくらいだけど?」


「っっっっ!!!!」



 そのたった一言で、私の涙腺は崩壊してしまった。



「ちょちょちょちょっと!? なんで泣いて!? 俺、なんかマズいこと言っちゃったか!?」



 慌てふためく塚本先輩。

 でも、それをフォローする余裕は私になかった。

 こみ上げてくる嬉しさが、そのまま涙となり溢れ出て止まってくれない。



「どど、どーしよ……。と、とりあえず、この場合、ハンカチだよな?」



 そう言いいながら、塚本先輩がハンカチで私の涙を拭ってくれる。

 それさえも嬉しくて涙が止まらず、ハンカチは既にびしょびしょに濡れてしまっていた。



「ず、ずいま、ぜん……」



 なんとか謝ることはできたけど、鼻声になってとても恥ずかしい。

 私は涙が止まるまで、もう黙っていようと決めた。





 ………………………………



 ……………………



 ……………





「その、取り乱してしまい、すいませんでした」



 なんとか落ち着きを取り戻した私は、まず塚本先輩に頭を下げた。



「いやいや、いいんだよ! 俺の方こそゴメンね! なんかマズいこと言っちゃったみたいだし……」


「そんなことはありません! 塚本先輩は悪くなんて……」



 どう説明したらいいかわからず、その後の言葉が出ない。

 それを言ってしまえば、それはもう告白と言っても過言ではないからだ。

 ……でも、逆に今こそがチャンスなのではないだろうか。

 この機会を逸すれば、きっと私は、また何も言えなくなってしまう気がする。



「………………あの、ですね、わ、私が泣いてしまったのは、その、嬉しくて、なんです」



 そう思った瞬間、私はほとんど勢いで泣いてしまった理由を口にしていた。



「…………」



 塚本先輩から反応はない。

 その間が、言い知れない恐怖となって背中を駆け抜けていく。



「……えっとさ」



 ほんの10秒ほどの沈黙を挟んで、塚本先輩が口を開く。

 たったの10秒だというのに、私にとっては永遠とも思える時間であった。



「勘違いじゃなければなんだけど、誤解されたらむしろ嬉しいって言ったのが……、嬉しかったってことかな?」


「~っ」



 言葉では返せない。

 私はただ、首を縦に振ることでそれを肯定する。



「それって、俺を好いてくれてるってことで、あってる?」


「っ!」



 やっぱり、伝わってしまっていた。

 ……でも、もう今更逃げることはできない。



「……はい」



 私はなんとか、返事をすることに成功した。

 その返答に塚本先輩は――



「っしゃーーーーーーーーーーーー!!!」



 天高くガッツポーズを決めたのであった。




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