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青春時代の歳の差なんて~中高生の歳の差恋愛物語~  作者: 九傷


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第63話 お弁当 (塚原 元)



 俺は席を立って二人を迎えに行く。



「こんにちは、朝霧さん。それと、麻生さんもこんにちは」


「こ、こんにちは」


「こんにちは、先輩。あの、今日は前島先輩は……?」


「ああ、前島さんは今日お休みらしいよ。体調が悪いんだとか」



 普段朝霧さんは、前島さんに付いてくるかたちで一緒に教室に入って来る。

 しかし、今日は前島さんがいないので、二人だけで教室に入って来るのは流石に勇気が必要だったのかもしれない。

 ……いや、朝霧さんだけであれば普通に入って来れそうな気がしないでもないが。



「そうだったんですか……」



 朝霧さんが心配そうに呟くのを見て、俺は少し微妙な気分になる。

 それは俺が、前島さんの休んだ理由を知っていたからなのだが、内容が内容なので朝霧さんには伝える気になれなかった。



「……それで、今日はなんで麻生さんも一緒なの?」


「それは、その……、塚本先輩に、お礼がしたくて……」


「ああ、成程ね。おーい! 塚本!」



 俺は机で不貞腐れている塚本に声をかける。

 塚本は気だるげな動きでこちらに顔を向け、硬直する。

 しかし次の瞬間、飛ぶように跳ね起き、ダッシュでこちらへとやって来た。



「麻生ちゃん! なんでこんな所に!?」


「こ、こんにちは、塚本先輩」



 塚本の余りの勢いに、麻生さんは若干引き気味である。

 塚本自身はそれに気づいていないようだが……



「あ、あの、塚本先輩、さっき机に伏せていましたけど、もしかして体調が悪いんでしょうか?」



 麻生さんをフォローするように少し前に出て、朝霧さんが質問を投げかける。



「いや、全然大丈夫! ちょっと世の中の不条理に嘆いていただけさ! それより、今日はなんで麻生ちゃんも一緒なの?」


「それは、たまちゃんが塚本先輩にお礼をしたいからって……。ね? たまちゃん」


「は、はい……。先日は、本当に、助かりましたので、その、お礼がしたくて……」



 朝霧さんがそう声をかけると、麻生さんは少し顔を赤らめ、小さい声でポツポツとお礼を言ってくる。

 塚本はそんな彼女を見て、目頭を押さえて何かに耐えるような顔になった。



「あの、塚本先輩……?」



 その反応を訝しんだのか、朝霧さんが心配そうに声をかける。

 しかし、塚本はそれを手で制して首を横に振るだけであった。

 困った朝霧さんが、こちらに視線で助けを求めてくる。



「大丈夫、ちょっと感情の処理が上手くいってないだけだから、すぐに元に戻るよ」



 塚本とは長い付き合いであるため、この反応が何を示しているかくらいは当然察することができた。

 簡単に言ってしまえば、これはある種の照れ隠しなのである。

 ここまでオーバーリアクションになるのは、単に感情の起伏が激しいせいであった。



(まあ、気持ちはわかるんだがな……)



 先程の麻生さんの反応は、俺から見ても相当に来る(・・)ものがあった。

 女子に対する免疫力が余りなく、かつ感情の起伏が激しい塚本にとって、あれはほとんど凶器にも等しいものだったのだろう。

 つまり、緩みそうになる表情を押さえつけるため、物理的に行動を取っただけなのであった。



「り、理由はわかったよ。それにしても、わざわざ高等部まで礼を言いに来るなんて、その、怖かったんじゃないか?」


「それは、少し……。でも、柚葉ちゃんが一緒に行ってくれるって言うから、平気でした……」


「たまちゃん、それより、今日の目的をちゃんと伝えないと。塚本先輩にお礼を渡す(・・)ために来たんでしょ?」


「???」



 塚本は二人のやり取りが理解できなかったのか、怪訝そうな表情を浮かべる。

 しかし俺は、立ち位置の関係から色々と見えているため、なんとなく察することができた。



「で、でも、やっぱりいいよ……。その、迷惑かもしれないし……」


「たまちゃん、それは駄目だよ。折角頑張って作ったんだから、ちゃんと渡さないと」


「ゆ、柚葉ちゃん……」



 麻生さんは、朝霧さんの後ろに隠れるようなかたちで喋っている。

 そのため、塚本からは死角となっており見えていなかったのだ。

 彼女が左手で抱え込んでいる、二つの弁当袋が……



「…………あの、塚本先輩。その、お礼と言ってはちょっと粗末なものかもしれませんが、お弁当を作って来たんです。もし宜しければ、頂いてくれませんか?」



 やがて諦めがついたのか、覚悟が決まったのか、麻生さんからお弁当が差し出される。

 それを見て、塚本は完全にフリーズしていた。

 そして、数秒固まったた後、今度は顔全体を手で覆ってしゃがみこんでしまう。

 ……その反応は、俺ですら初めて見たものであった。





 ◇





 俺達は場所を変え、屋外のオープンスペースへと向かっているところだ。

 流石にあの場所に留まるのは、悪目立ちが過ぎたからである。



「なあ塚原、俺は夢でも見ているのだろうか?」


「……いや、残念ながら夢じゃないぞ」


「そうか……って、何故残念ながらなんだ?」


「……俺からは、何も言えん」



 塚本は無自覚のようだが、あの反応が周囲に与えた印象は中々に大きい。

 ……はっきり言ってしまうと、ドン引きされていたのである。

 あれは一見すると、中等部の女子相手にフラれて号泣でもしているような状態にも見えたからだ。

 俺は慌てて三人を連れてその場を退避したが、周囲に少なからず誤解を与えたことは間違いないだろう。

 塚本は後々、その現実を受け止めることになるに違いない。



「ね、ねえ、柚葉ちゃん……。これは、どこに向かっているの?」


「えっと、多分あっちにあるオープンスペースかな。先輩とは、たまにあそこで食事しているの」



 朝霧さんの言う通り、俺と朝霧さんは時々オープンスペースで食事をとることがあった。

 いつも同じ所で食事をすると悪目立ちするため、場所を分散するのが目的だ。



「この時期あそこはあまり人気がないから、丁度いいと思ってね」


「そうですね。たまちゃんも、その方が良いよね?」


「うん…………ってあれ? も、もしかして、先輩達と一緒に食べるの!?」


「もちろん、そうだよ?」



 さも当然とでも言うような朝霧さんの反応に、麻生さんは目に見えて狼狽(うろた)え始める。

 しかし、そんな彼女の動揺をあざ笑うかのように、次々に展開は進んでいく。



「あれ? 塚原君じゃない?」



 そう声をかけて来たのは、少し強引そうに杉山のことを引っ張る、藤原先輩であった。






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