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青春時代の歳の差なんて~中高生の歳の差恋愛物語~  作者: 九傷


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第29話 体調を崩して保健室へ(麻生 環)



 教室のドア付近で、柚葉ちゃん達が恋愛の話で盛り上がっている。

 私はそれには参加せず、ただそれを眺めていた。

 ……楽しそうにワイワイとやっている三人を見ると、少し寂しい気がしないでもない。

 でも、自分からあの中に飛び込む勇気はなかった。



(まあ、そもそも恋愛なんて、私には良くわからないけど……)



 興味がないワケではないけど、私自身、まだ異性を好きになるという感情が理解できないでいた。

 今まで生きていた中で格好いいなと思う男子は確かにいたけど、それは好きという感情とは別物だったと思う。

 少なくとも、家族に感じるような愛情に近い感情はなかったから……

 それとも、異性を好きになるというのは、もっと別な感情なのかな……?

 もしかしたら、私が子供だから、それを理解できないのかもしれない。



「はぁ……」



 思わずため息が漏れてしまう。



「……ため息なんて吐いて、どうしたの?」



 それを見た隣の席の子が、急に私に話しかけてきた。

 隣の席だというのに、この子に話しかけられたのは初めてのことである。



「え、あの、ごめんなさい……」



 私はびっくりして、思わず謝ってしまう。



「いや……、謝られても困るけど……」



 それはそうだよね……

 すぐに謝ってしまうのは、私の悪い癖だった。



「ご、ごめんなさい……。私にも、よくわからなくて……」



 そして再び謝ってしまう。

 自覚はあるのに、どうして私はこうなのだろう……



「……よくわからないって、何でため息が出たかわからないってこと?」


「う、うん……」


「……それって、あの中に入れてもらえないからじゃなくて?」


「そ、それは違うよ。私が自分から行かなかっただけだから……」


「じゃあ、なんでため息なんか……?」



 そう言われても、私は押し黙るしかない。

 だって、本当に自分でもため息の理由がわからなかったから。



「……ごめんなさい」



 また、謝ってしまった……

 私に話しかけてきた女の子――加山さんも、流石に呆れた表情をしている。

 ああ……、私はまたやってしまったのかもしれない。


 そう思った瞬間、自分の体が強張るのを感じる。

 ここに来る前の嫌な思い出や体験が、にじみ出るように私の中を侵食し始めた。



「……うっ」


「っ!? ちょっと、麻生さん!?」



 私が口を押えて呻く(うめく)のを見て、加山さんが慌てて駆け寄ってくる。

 加山さんは私の顔色を確認すると、私の腕を取って自分の肩に回す。



「保健室、行くよ!」





 ◇





 保健室に到着する頃には、私は大分落ち着きを取り戻していた。

 加山さんが心配そうに私に声をかけるのを見て、少し安心したのかもしれない。



「……ごめんなさい」



 また謝ってしまった。

 でも、今回のは本当に謝罪の気持ちがこみ上げてきたからで、いつものように条件反射で謝ったワケでははない。



「……麻生さんのソレ、癖なんでしょ? 私の方こそ、ゴメンね」


「ゴメンって、なんで加山さんが……」


「だって、私の表情見て気持ち悪くなったんでしょ?」


「っ!? そ、そんなことは!」


「いいって、私も短気なの自覚あるからさ……」



 そう言って、加山さんはハハハと苦笑いする。

 私はそんな風に笑って見せる彼女を見て、ただ凄いなと思った。



「……この学校の人達は、凄い人ばかりですね」


「……どしたの? いきなり」


「柚――朝霧さんに声をかけられたときも思ったけど、加山さんも大人だなと思って……」



 私が前にいた学校は、自分も含めて本当に子どもが多かったと思う。

 それに対し、この学校は柚葉ちゃんや加山さんといった、大人びた雰囲気の人が多く感じる。

 そういった雰囲気は、のどかちゃんや静流ちゃんからも感じることがあるから、本当に不思議な学校だなと思う。



「朝霧さんはともかく、私も!? いやいや、それ勘違いだよ」


「そんなこと、ないよ。だって普通、私みたいな子見たら、怒りたくなるもの……。それを我慢できるだけでも、凄いと思う」



 私自身ですら、自分に対する嫌悪感が強いのだ。

 もし私が別人で、今の私を見たとしたら、きっと何か悪口を言っていたと思う。



「……ん~、大人ねぇ。まあ、そう思われる可能性については、ちょっと思い当たることあるかも。私も朝霧さんも、伊藤や坂本も、初等部時代は同じクラスだったんだけどさ、ちょっとした事件があってね……」



「……事件?」


「……あ~、まあ、その辺は朝霧さんから聞いてよ。友達なんでしょ?」


「うん……」



 まだ友達になって間もないけど、柚葉ちゃんとは良好な関係を築けていると思う。

 私の思い込みである可能性は否定しきれないけど……



「だったら、もっと積極的になっても良いと思うよ。さっきみたいに、遠慮しないでさ」


「あ、あはは……」



 加山さんはまだ誤解しているようだけど、本当にさっきのことは気にしていなかった。

 むしろ、今後もできれば避けたいと思うくらい、あの手の輪に加わるのは苦手だから……

 もちろん、柚葉ちゃん達と話したいという気持ちはあるけど、こればかりは性格の問題なのだと思う。



「気を遣ってくれてありがとうね、加山さん。……これからも何かと迷惑かけちゃうかもしれないけど、その……、宜しくお願いします」


「うん、宜しく……っと、じゃあ私は行くから! また後で!」



 そう言って、加山さんは慌てたように保健室を出ていく。

 それとすれ違うようににして、柚葉ちゃん達が保健室に入ってきた。



「タマちゃん! 大丈夫!?」



 入ってきてすぐにベッドに駆け寄ってくる静流ちゃんと、和花ちゃん。

 柚葉ちゃんだけは立ち止まり、振り返ってお辞儀をしていた。

 柚葉ちゃんらしいと言えばらしいのだけど、何か少し違和感を覚えた。

 もしかして、柚葉ちゃんと加山さん、前に何かあったのかな……?




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