推し活は天才魔導具師を育てる
『雷鳴強化ッ! 響けッ! オレの剣!』
「この技には雷石が必要で勇者タソは生き別れの両親に持たされて生い立ちがまた」
抜刀の構えのまま、打ち付ける轟音の雷をその身に纏う。雷の勇者は、雷鳴と共にその身を光速に移し、荒々しい剣を振るう。
画面からも、その荒々しさは、まるでメタルロックをフルボリュームで聴いたかの様な腹に響く一撃すら感じる。そして、勇者推しさんの解説も早口過ぎて雷の速度。
『親愛の炎の君 月の導き 我が心眼に応えよ』
「うわヤバ……魔王きゅん尊ッ」
空を舞う無数お札が声に呼応し、竜がい出る。片翼に紫色の業火を宿した炎の魔王は、不動のまま黒炎の竜を数体操る。
画面からも、その響き渡る詠唱は、まるでイケボ声優添い寝ASMRをこっそり聴いたかの様な気恥ずかしさを感じる。そして、魔王推しさんもう語彙が消失。
”推し”を是非見てくれと、同僚二人に誘われて、鑑賞会に参加する事になった。
異世界の戦いがライブ上映されて久しいが、今は何度も見れる様にと円盤化されているそうだ。
流石何度も見ているだけあって、二人の推しへの愛が凄い。次々と出てくるグッズに、推し活の写真。
でも、勇者推しさん。推し色身に着けたいからって雷雨の時に外に出るのやめようね。
それと、魔王推しさん。魔王きゅんのお札だらけの祭壇は、パッと見呪われた部屋だから。
突如鳴り響く、今までで一番の轟音。荒ぶる数百の雷が勇者タソの剣の雷石に集約する。
色や音も全てが凪ぐ。漆黒の竜が無数のお札に散り、魔王きゅんの背に集まりお札が両翼を形造る。
『真奥義【雷光斬】!!』「勇者タソキタコレこのポーズみてコレ師匠に教わ」
『魔秘術【煉獄の恋情】!!』「……尊死」
大技がぶつかり合い、画面は光で埋め尽くされていく。そして、私は両隣からの推しへの愛と解説で埋め尽くされていく。色々と圧が凄い。
眩い光が収まった先には、勇者タソと魔王きゅんが互いに検討を称えあい、しっかりと抱き合う姿だった。今、勇者推しさんと魔王推しさんは最高潮に悶絶。一体何を見せられているのか……。
しっかりアンコール決闘まで見終わり、帰路に渡された、雷石とお札を模し、同僚が作った同人グッズのアクリルキーホルダー。
その二つを握ると、遠くでゴロゴロと雷鳴が轟き、背中がムズムズしたのは、気のせい……かもしれない。
お読みいただきありがとうございました。私は普段使いのバッグに推しキャラのラバーストラップを付けているのですが、割とギョッとされます……。私の推しを語りたい、推し活を聞いてくれ、という方もそうでない方も、いいねやご評価など良ければお願いいたします。
それと、同じ世界観の別の短編もページ一番上のシリーズとしてまとまっていますので、良ければそちらもお読み頂ければ幸いです。