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08 結婚式2

 婚約破棄の理由、そして舌の根も乾かぬうちに新しい相手を選んだ理由の説明に、このパフォーマンス以上の説得力があるものはそうそうないでしょう。

 もはや婚約破棄に反対する者どころか、飛び入りの新婦に異議を唱える者はひとりとしておりません。


 熱い抱擁を交わすふたりは、黄金の光に包まれていました。

 『おしどりの誓い』の魔法の効果が現われたのです。


 ふたりは輝いたまま、フィギュアスケートのペアダンスにおけるフィニッシュのようなポーズをキメ、クルーレ様を指さしておられました。


『クルーレよ、いつまでそこに立っている! まさか、僕の妾になれるとでも思っているのかい!?』


『ごめんね、クルーレおねえちゃん! シューワイツ様は、ブリーリだけのものなの!』


『お前の居場所は!』『ここにはないの!』『さぁ、立ち去るがいい!』『ばいば~いっ!』


 息の合った言葉のコンビネーションで、三くだり半を突きつけます。

 それがトドメとなってしまったのか、クルーレ様の瞳からは完全に光が消え去ってしまいました。


『……わ……わかりまし、た……私は家をでます。こ……これからは……ひとりで生きていきたいと思います……』


 幽霊のように青白いお顔でウエディングドレスの裾を翻し、死人のような足どりでステージから降りようとするクルーレ様。

 しかしその身体が、力強く引き戻されました。


 『きゃっ!?』と胸に飛び込んでいくクルーレ様。

 その熱い胸板は、他にはございません。


『す……すみません! クルーレ様! 俺、どうしてもガマンできなくて……!』


『エアリッヒさん!? どうして!?』


『俺、クルーレ様のことが好きなんです! クルーレ様は聡明でおやさしくて、ずっと俺の憧れでした! 俺なんかが手の届かない、高嶺の花で……!』


 クルーレ様はエアリッヒ様の好意にぜんぜん気づいていなかったのでしょう、すっかり真っ白になっておられました。

 驚きすぎると全身が動かなくなってしまうのは、クルーレ様の性分のようです。

 しかしその凍りついた身体を溶かすように、熱い愛の言葉がクルーレ様を包みました。


『いまこの手を離したら、もう二度と届かないと思って……! お願いです、クルーレ様! 俺と結婚してくださいっ! 俺の剣術で、あなたを一生守りたい! あなたの算術で、俺を一生支えてほしいんです!』


 算術という単語が出た途端、クルーレ様のお顔が、石にされたお姫様の呪いが解けたように和らいでいきます。

 血の気はすっかり戻り、頬はバラ色に染まっておりました。


『は……はいっ……! わ……私でよければ、ぜひっ……!』


 魔法結界の中で愛を誓ったせいでしょう、おふたりの身体が黄金色に輝きはじめます。

 おふたりは正式な婚姻になるとは思っていなかったのか、最初のうちは目をぱちくりさせていましたが、やがて微笑みあっておられました。


 まさかの、ダブルウエディング……!


 来賓の方たちは戸惑いながらも、めでたいことだと拍手を送っておいでです。

 もう片方のカップルは主役を奪われさぞやご立腹かと思いきや、そうではありませんでした。


 シューワイツ様とブリーリ様は、お腹を抱えるほどに笑っています。


『はっはっはっはっ! はーっはっはっはっはーっ! ここまでうまくいくとは思わなかったぞ!』


『きゃっきゃっきゃっ! きゃーっきゃっきゃーっ! おじゃま虫を2匹、まとめてプチッて潰せちゃいましたね!』


 いったいなにがあったのかと、ざわめく来賓の方々。

 不安そうにするクルーレ様を、さっそくエアリッヒ様がかばっていました。


『ど……どういうことですか!?』


 シューワイツ様の白手袋の指が、今度はエアリッヒ様を貫きます。


『この僕にバレていないとでも思っていたのか! お前がクルーレと浮気していたことなど、とっくに調べがついているのだ!』


 それは衝撃の事実で、来賓の方々も次々と立ち上がるほどに驚いているようでした。


「なんだって、浮気だと!?」


「婚約中の不貞が、どれほど重い罪なのか知らんのか!?」


「しかも、上司の婚約者となんて……! なんてハレンチな!」


 来賓である聖女のおばさまが発した言葉を、『そう、ハレンチきわまりない!』と受け取るシューワイツ様。


『だから僕は考えたのだ! この不貞コンビに、最大級のお灸を据えるのはどうしたらいいのかと!』


 エアリッヒ様より先に、クルーレ様がその答えにたどり着いたようです。


『私たちが結婚するように仕向け、結婚したあとで不貞を明らかにして、私たちふたりを罪に問おうと……?』


 そう。そうだったのです。

 おしどりの誓いは一蓮托生の誓い。たとえ結婚前の功罪であったとしても、夫婦で担うことになるのです。

 仕掛けられた罠にようやく気づいたエアリッヒ様は、必死に言い返しておりました。


『だがそれは、俺たちが本当に浮気していた場合の話だろう! 俺たちは浮気なんかしていない! だいいち、そんな証拠がどこにあるというんだ!』


『証拠ならあるさ! ほぉら!』


 シューワイツ様が手をかざすと、水晶板の画像がジャストのタイミングで切り替わりました。

 というか、わたくしが切り替えたのですが。

 それはさておき映し出されたのは、ふたりっきりのお部屋で笑いあう、クルーレ様とエアリッヒ様のお姿でした。


 水晶板の中のおふたりはとても楽しそうなのに、それを見ているおふたりのお顔は、血をすべて抜かれたかのように蒼白になっておりました。

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