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07 結婚式1

 それから数日が過ぎ、いよいよ結婚式の日がやってまいります。

 お式はゼルネコン領にある、もっとも大きくて格式のある式場で行なわれました。


 場内の最深部には天井に届くほどの大きな女神像があり、その像の足元が新郎新婦の立つステージになっています。

 そのステージはもちろんのことですが、場内はどこも豪華に飾り付けられておりました。


 特に目を引いたのは、天井を埋め尽くすほどに吊り下げられたくす玉。

 そして女神像の両側に翼のように広がり、壁を埋め尽くすほどに巨大な水晶板。


 その水晶板には、式のあいだじゅうスライドショーが映し出されていました。

 というか、わたくしがそのスライドショーを操作する役割を仰せつかっていたのでございます。


 お式のほうはつつがなく進んでいき、いよいよ最後の『おしどりの誓い』となりました。

 ステージの上では、新郎のシューワイツ様と新婦のクルーレ様が向かいあっており、おふたりの間には司会進行役の聖女様がおられます。

 そして女神像の陰のところには、警備としてエアリッヒ様が控えていらっしゃいました。


 聖女様が呪文を唱えると、床に魔法陣が浮かび上がり、ステージ全体が淡い光に包まれました。


『おしどりの魔法結界が張られました。この中での男女の誓いは、女神への誓いとなります』


 ステージには魔導拡声装置が設置されておりますので、聖女様のお声は式場全体に響き渡っておりました。


『それでは新婦シューワイツ・ゼルネコンよ。いま目の前にいる者を、生涯の伴侶として誓いますか?』


『誓いません』


 シューワイツ様のお言葉は、「えっ?」となるものでした。

 それは裏方のわたくしだけでなく、ステージ下の招待客たち、それどころかすぐそばで聞いていた聖女様もそう思われたようでした。


『よく聞こえませんでしたので、もう一度尋ねます。新婦シューワイツ・ゼルネコンよ。いま目の前にいる者を、生涯の伴侶として……』


『誓いません!』


 今度はかぶせ気味の返答で、しかも聞き間違えようのないほどのハッキリとしたお言葉でした。

 シューワイツ様はダンスのようにクルリとターンすると、白い手袋の指をビシッとクルーレ様に突きつけたのです。


『……僕はこんな性悪女を、伴侶になどしないっ……!』


 場内は騒然となりました。

 シューワイツ様が誓いの言葉のかわりに放ったのが、婚約破棄の宣言だったからです。


 『婚約破棄』……それ自体はありえないことではありません。

 しかし結婚式の当日、しかも結婚式の最中、それも最後の『おしどりの儀式』でなされたのは異例中の異例といえるでしょう。


 クルーレ様はショックのあまり、瞳孔が開きっぱなしのまま硬直されておりました。

 震える唇から、かすれた声を絞り出すので精一杯のようです。


『ど……どうしてですか……!? 私は、性悪女などでは……!』


 シューワイツ様は、これが答えだといわんばかりに、ステージの脇から現われた人物を抱き寄せていました。


 その人物は、なんと……!

 クルーレ様より派手なウエディングドレスに身を包んだ、ブリーリ様でした……!


『この僕にバレていないとでも思っていたのか! お前が妹のブリーリを陰でいじめていたことは、とっくに調べがついていたのだよ!』


『そんな!? 私はブリーリちゃんをいじめてなんかいません! お願いブリーリちゃん、ブリーリちゃんからも言って! 私はブリーリちゃんをいじめてなんかないよね!?』


 するとブリーリ様は人見知りする小さな子供みたいに、サッとシューワイツ様の背中に隠れてしまわれました。

 そして潤んだ瞳をなぜかステージのほうに向け、丸聞こえのひとり語りを始めたのです。


『こ……怖い……! 怖いよぉ……! ここで「うん」って言わないと、ブリーリ、またいじめられちゃう……! クルーレおねえちゃんは頭がいいから、いつも証拠を残さずにブリーリをいじめるの……!』


 この時わたくしは、スライドショーをちょちょいっと操作していました。

 水晶板に、ゴミまみれになったブリーリ様の姿が映し出されます。


 すると客席で給仕をしていたメイドたちが、一斉に叫びだしました。


「ああーっ!? みなさん、見てください! あれこそが動かぬ証拠です!」


「クルーレ様はああやって、3階にある自室からブリーリ様めがけてゴミ箱を投げつけていたんですよ!」


「私たちは何度もシューワイツ様に助けていただこうとしました! でもブリーリ様は最後まで、クルーレ様をかばっていたのです!」


 来賓の方たちはステージ上の姉妹にヤジを飛ばしはじめました。

 クルーレ様には、「ひどい!」「なんてヤツだ!」「悪魔みたいな女だな!」と悪罵を。

 ブリーリ様には、「かわいそう!」「なんていい子なの!」「天使みたいな子だな!」と同情を。


 わたくしはというと、水晶板を見上げたままワナワナと立ち尽くすクルーレ様を、そして女神像の物陰で飛び出そうかどうしようか苦悩しているエアリッヒ様を、交互に眺めておりました。


 シューワイツ様とブリーリ様は、ステージの上でダンスを披露。


『僕はここに誓う! このブリーリを、生涯の伴侶とすることを!』


『ええっ!? そんな、いけません! シューワイツ様には、もっとふさわしいお方が……!』


『いいや、キミ以上の女性はいない! なぜならば虐げられてもなお黙っているとは、なんて愚……いや、なんて都合が……! いやいや、なんて心が美しいのだ! さぁ、僕とひとつになろう!』


『は……はいっ!』

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