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金曜日の夜。駅で待ち合わせていたツヅキに連れて行かれた上野にあるキャバクラは、赤を基調にした内装の店だった。
初めて足を踏み入れる場所に、真琴は極度に緊張していた。自分が来るようなところではない、と思った。面接もうまくいくわけがないなどとも考えていた。しかし、すべて杞憂だった。
面接は、時給のほかいくつかの決まりごとを説明されるだけの極めて簡素なものだった。
真琴は、自分が三年前に何度も受けて何度も落ちた就活の面接とのあまりの違いに、呆気にとられる。
「今日からもう働いていかれますか?体入は日払いだし、送りもつけれますよ」
今日から早速お試しで働くことができて、給与は勤務後に手渡ししてもらえるということらしい。勤務終了は午前一時で、終電はとうになくなっている時間だったが、希望すれば家の前まで五百円で送ってもらえるということのようだ。
真琴はええいままよで「働きます」と答えた。
「じゃあ、本日はよろしくお願いしますね。名前はどうします?」
「なまえ? あ、源氏名……彩……アヤでお願いします」
違う名前で呼ばれても反応できる自信がなかった真琴は、耳馴染みの良い、昔からの友人の名を借りた。
「アヤちゃんね、よろしくお願いします」
この店の店長だというスーツに身を包んだ背の高い細身の男の、ぐいと上がった口角とは対照的に、アーモンド形の目はほとんど形を変えない。