表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冴えない才女とサウナと酒場  作者: 城築ゆう
32/51

5-1

 真琴がトルマリンの扉を開けたのは、大阪に帰ったその当日だった。

 荷物を置きに家に帰ってから、お土産の紙袋を両手に提げて店に出向く。

 聖子ママが開店準備を始める十八時半、真琴はいつもより軽々と扉を開ける。

「おはようございまーす。聖子ママ、長らくお休みいただきましてありがとうございました」

「まこちゃん!お休みはもういいの?もう帰ってきてくれるの?!」

 聖子ママはカウンター後ろに並べてあるボトルにはたきをかけていたのを止めて、文字通り手放しで喜んだ。カウンターからパタパタと足音を立てながらかけより、真琴をまじまじと見つめる。

「あら?なんだか……一段と綺麗になったんじゃない?」

 聖子ママの言葉に、真琴は髪を耳にかける素振りをしながらしなをつくり「まあ、色々と」と答えた。


 その日来店がわかっている客のボトルを用意したり、氷を割ったりと開店準備を手伝う真琴に、聖子ママは切り出した。

「あのね、まこちゃん。永瀬さんのことだけど」

 眉根を寄せ、顎を引き、先ほどとはうってかわって落ち着いた声色に、真琴はグラスを拭く手を止めて聖子ママの目をまっすぐ見返した。

「ひとまず、待ち伏せというか、出待ちというか、ストーカー、みたいなの……については、私から釘を差しておいたから」

 聖子ママの形の良い口は横に引き結ばれているが、目元はいつもと変わらず柔和で穏やかだった。

「まこちゃんがお休みに入った初日、またお店の前にいらっしゃってね。『女の子が怖がるから出待ちのようなことはやめてほしいです』って、まこちゃんの名前は出さずに言ったの。そしたら永瀬さん、次の日お店に来てくれて。いつものお土産より豪華な菓子折り持ってきてくれてね。永瀬さんも、悪い人じゃないのよね……」

「律儀な良い人ですね」

 しかし聖子ママは少し目線を落として、でも、と付け加えた。

「だからちょっと、厄介というか。ねえ」

 真琴にはあまりピンとこなかったが、聖子ママは目線を落としたまま口をへの字にしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ