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冴えない才女とサウナと酒場  作者: 城築ゆう
29/51

4-2

「真琴は何を落ちこんでんの?整理して聞かせてみな」

 午前一時。客は、コッコと私のほかに数人しかいない。

 比較的温度の低い炭酸泉に、二人並んで浸かる。

 冬の夜に長時間さらされた体の冷えは頑固だが、それでも温泉にはかなわない。指先までぽかぽかして、同時に言いようもない苦しい気持ちも少しだけ和らぐ。

「一樹……あいつ、好きだった女に振られたから私と戻りたくなったんだって」

 思い出すと心がひりつく。言葉にすると一層、自分が代用品であることを認識させられる。

「私が距離を置きたいって言ってすぐに、その女とは連絡取らないっつったの。そのスクショわざわざ私に送ってきて、なんかの証明みたいに。でも一週間もしないうちにまた女に連絡寄越してたよ。やっぱり僕は千冬さんを諦められませんって」

 コッコは何も言わずに、ただ小さく頷きながら聞いてくれている。その様子を見ると、昂る感情がやや落ち着く。

「そんでしばらくはまた仲良くLINEしてた。てか相手の女、あいつに私がいたの知ってたっぽい。満更でもなさそうにして。ことあるごとに、『元カノさんは宮部くんのこと大好きなんだし、一緒になれば』って。『私みたいなバツイチのおばさんとじゃ幸せになれないよ』って」

 それまで静かに聞いていたコッコが、水面を叩くようにして言った。水しぶきがかかる。

「なにそれくそむかつく」

「でもあいつ、それ言われるたびに『千冬さんは優しいね』って、それから『そんな悲しいこと言わないで』って」

 コッコは大きくため息をつき、「しょーもな、きっしょ」と言って吐く真似をした。

「あいつ都内から埼玉に引っ越したんだけどさ、それも千冬様目当てだったみたい。千冬様は浦和に住んでんだって」

 屈辱やらなんやらでまた涙が溢れて来るのを見られたくなくて、顔を洗うふりをして顔面を濡らす。

「真琴、今は辛いかもしれないけど、そんなくそしょーもない男と女のラブゲームに落ち込んでたら、それこそあんたがオバサンになったとき後悔するよ。若い時間を無駄なことにクヨクヨして浪費したーって」

 ズケズケ言うコッコの言葉にはかなりの破壊力があった。

 次の言葉が見つからないでいるとコッコは「あんたは自分のこと大事にしないと」とバツが悪そうな顔で付け加えた。フォローのつもりらしい。

「あんたのこと大事にしない人の言動を、あんたが後生大事に抱えてちゃダメ」

 コッコはいつだって、私に必要な言葉をくれる。

「ねーもう、聞いてるだけであったまきた!サウナで汗かいてスッキリしよ!」

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