表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冴えない才女とサウナと酒場  作者: 城築ゆう
24/51

3-6

 真琴は立ち尽くしていた。

 ただ呆然と家の郵便受けの前で。体は動かない一方で、手だけは震えていた。

 握った手紙がその手の中でクシャクシャになる。手汗を吸う。

 冷静ではいられない。怒りや情けなさの濃霧の中で、期待と喜びが信号みたいにチカチカしていた。

 「澤田真琴様へ」と書かれた封筒。送り主は、宮部一樹。


 真琴は自室で手紙を開ける。

 ハサミで開けるのがもどかしくて、乱暴に封筒の上辺を破り切りたくなった。

 中に書いていることが何だとしても、自分を怒りに導くものだとしても、そうでないとしても、早く読みたいと思った。早く読んでしまって、どこかに倒れるであろう感情をさっさと倒して着地してしまいたかった。


『真琴様 体調はいかがでしょうか。ベッドの下に、真琴が大事にしていたキラキラのヘアクリップが落ちていました。冷蔵庫に、真琴が今度食べようと買っていたチョコレートがあります。大事においています。真琴が戻ってきたときのためにというわけではありません。そんなことは口が裂けても言えません。でも一点、真琴に言われたことで訂正したいことがあって手紙を書きました。読んだら破り捨ててくれていいからね。訂正したいのは、真琴が孤独を癒やす便利な存在だって、僕の中ではそうだって真琴が言ったことについてです。絶対に違います。これは自信を持って否定します。否定させてください。傷付けてごめんなさい。本当にごめんなさい。ちゃんと謝らせてください。謝った上で改めて僕の気持ちを伝えさせてもらえないでしょうか。チャンスをください。新幹線のチケットを同封しました。不要なら捨ててくれたらいいです。馬鹿な男がいたなと、破って捨ててください。ごめんなさい。僕が大阪まで行くといよいよ本当に迷惑をかけるし、僕の気持ちを伝える方法がこれ以外に思いつきませんでした』


 新幹線の切符が同封されていた。

 新大阪発十一月二十六日。

 その日は、真琴の二十六歳の誕生日。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ