3-6
真琴は立ち尽くしていた。
ただ呆然と家の郵便受けの前で。体は動かない一方で、手だけは震えていた。
握った手紙がその手の中でクシャクシャになる。手汗を吸う。
冷静ではいられない。怒りや情けなさの濃霧の中で、期待と喜びが信号みたいにチカチカしていた。
「澤田真琴様へ」と書かれた封筒。送り主は、宮部一樹。
真琴は自室で手紙を開ける。
ハサミで開けるのがもどかしくて、乱暴に封筒の上辺を破り切りたくなった。
中に書いていることが何だとしても、自分を怒りに導くものだとしても、そうでないとしても、早く読みたいと思った。早く読んでしまって、どこかに倒れるであろう感情をさっさと倒して着地してしまいたかった。
『真琴様 体調はいかがでしょうか。ベッドの下に、真琴が大事にしていたキラキラのヘアクリップが落ちていました。冷蔵庫に、真琴が今度食べようと買っていたチョコレートがあります。大事においています。真琴が戻ってきたときのためにというわけではありません。そんなことは口が裂けても言えません。でも一点、真琴に言われたことで訂正したいことがあって手紙を書きました。読んだら破り捨ててくれていいからね。訂正したいのは、真琴が孤独を癒やす便利な存在だって、僕の中ではそうだって真琴が言ったことについてです。絶対に違います。これは自信を持って否定します。否定させてください。傷付けてごめんなさい。本当にごめんなさい。ちゃんと謝らせてください。謝った上で改めて僕の気持ちを伝えさせてもらえないでしょうか。チャンスをください。新幹線のチケットを同封しました。不要なら捨ててくれたらいいです。馬鹿な男がいたなと、破って捨ててください。ごめんなさい。僕が大阪まで行くといよいよ本当に迷惑をかけるし、僕の気持ちを伝える方法がこれ以外に思いつきませんでした』
新幹線の切符が同封されていた。
新大阪発十一月二十六日。
その日は、真琴の二十六歳の誕生日。