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冴えない才女とサウナと酒場  作者: 城築ゆう
23/51

3-5

 永瀬さんはいつも通りジャスミン割をちびちび飲んで、酔ってきた頃に「これ、お土産」と言ってコンビニで買ってきたシュークリームをくれる。

「うれしい! 生クリームとカスタード、両方入ってるやつ!」

 微塵も嬉しくはないが、喜ぶ演技も最早お手の物だ。

「まこちゃんがカスタード好きって言ってたの覚えてたんだよね。こんな甘いもの食べたら、また太っちゃうね〜」

 永瀬さんが私の目を覗き込んで「食べないの? シュークリーム」と言って私の代わりにシュークリームの袋を開け、あ~んと間抜けな声を出しながら私の口元にシュークリームを近づける。

 永瀬さんの顔が近づく。永瀬さんの手が、私の手を包むように上から被さり、指が絡められそうになる。

 そこで、目が覚めた。


 今までの永瀬さんが来店したときの記憶のつぎはぎみたいな夢だった。

 あれから永瀬さんは店に飲みに来てはいない。けれども退勤時に外で見かけることがよくある。待ち伏せされている。

 最初の二回は聖子ママに言ってオーナーの車で送ってもらっていたが、三回目からは、二人への申し訳なさ半分と、ただ立ち尽くしているだけの間抜けな後ろ姿への慣れ半分で、永瀬さんの目を盗んで店から出て、自転車を静かに漕いで帰るようになった。

 慣れはしたが、何も悪いことなどしていないはずなのにこそこそとしている自分には腹が立った。お給料をもらっているからこそ愛想よくしている相手に、お給料が出ないところでどうにかなれると思われているであろう自分に腹が立った。


 永瀬さんの待ち伏せが始まって三週間、私は聖子ママにトルマリンをしばらく休みたいと相談した。聖子ママは理由を聞かなかった。その代わり、クリスマスイベントは参加してほしいと言う。

 年末は特に忙しくなる時期と聞いていたので、「忙しくなる頃にはお手伝いできるよう戻ります」と答えると、聖子ママはかぶりをふって「違うの。クリスマスイベントはどうだっていいから、このまま真琴ちゃんと会えなくなるのは嫌なのよ」と目線を落とした。

 私はその一瞬、ひどく動揺した。他人から求められることは今までの人生でそう多くなかった。

 就活もうまくいかなかったし、元恋人の一番はずっと私以外の誰かのものだったようだし、仕事だって引き継ぎが一週間で事足りてしまうような、簡単に他人が取って代わることができるものだった。

 だから、そうやって強く求められることが嬉しかった。例え人手が足りないからという理由がそこにあったとしても。この熱量で迫られて嬉しくない人がいるならば教えてほしいとすら思う。


 今日はやたらに客が多く、酔っ払いたちがみんな会計を済ませて帰るのを見届け、深夜一時三十分と少し遅めに店を閉めた。

 しばらく聖子ママやゆあちゃんたちと喋って、二時を少し過ぎた頃に帰宅した。

 その日は久々に永瀬さんの出待ちもなかった。

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