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冴えない才女とサウナと酒場  作者: 城築ゆう
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 手元には小さな地獄。

 他人事のように感じる錯覚と、現実への絶望感が、交互に襲ってくる。

 ドラマだとしたらいくら何でも、手垢のついたメロドラマ的展開。

 こんなの打ち切り必至、面白くない、安っぽい、有り得ない……つまり現実ではないということ?

 ああなるほど、それなら納得。

 といった具合に錯覚が勝って、全てを見なかったことにしてしまおうとしたところ、私はすんでのところで現実に留まった。


 ここは恋人の家。恋人は今日も残業で遅くなるようだから、いつも通り帰ってくるまでの間に家事を済ませようと思った。

 洗濯をしようと思ったけれど、洗剤が切れていた。洗剤のストックは確か買って洗面台の下に収納しているはずだ。観音開きの戸を開けて、洗面台の下を覗き込んだ。洗面台下には、いくつかの日用品のストックがあった。目当ての洗剤は奥の方にある。手を伸ばして洗剤を取り出す。

 するとその後ろに、見慣れない鮮やかな水色が見えた。それは、お洒落とは程遠い家主に一切似つかわしくない、ティファニーの紙袋。もう一度手を伸ばして紙袋を取り出した。

 紙袋の中には、リボンがかけられた小さな箱と、白い封筒が入っていた。封筒には何も書いておらず、封もされていない。

 自分へのプレゼントだろうか、なんの記念日が近かっただろうか。サプライズで用意してくれているものだったら悪いな、と思いつつ、けれども何となく確かめないといけないような気がして、封のされていない真っ白な封筒を開ける。


『小川千冬様 僕の片思いはこれから先、絶対に変わらない。千冬さんの気持ちが変わるまで、僕は永遠に待ち続ける。千冬さんと一緒に暮らしたい。千冬さんに、僕のお嫁さんになってほしい。 宮部一樹』 


 手元には、便箋一枚分の、小さな地獄。

 私の恋人、宮部一樹は、どうやら小川千冬という女性に長らく片思いをしているらしい。

 見なかったことにして、洗面台下には洗剤のストックなどの日用品しかなかったのだと思ってしまえば、何事もなかったも同然なのではないかと錯覚する。

 事実を受け入れて絶望したくなくて、安易な錯覚に逃げてしまいたくなったけれど、ひとまず、つとめて冷静に、手紙と紙袋を元の場所に戻した。

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