8話 四條道隆、動く
国府の門兵に俺は
「菊姫様の使いである。通るぞ。」
と言って町の中に入る。
街中でも馬のスピードを緩めない。
道隆の手の者が捕虜の命を狙っているかもしれないのだ。
城門の前に来ると俺は門兵に官5位の札を見せて言う
「菊姫様から帝に火急の用件で来た。」
「開門」
門兵は門を開ける。
俺たちは、中門まで来ると馬から降りる。
護衛たちは捕虜を連れていく。
俺と清音は、屋敷に入る。
帝の部屋の前の部屋に来ると、清音は面を外す。
俺は部屋を守る兵に言う
「熊野つなと柏森の清音、菊姫様の書簡を預かってまいりました。帝にお目通りを願います。」
兵は無言でふすまを開ける。
俺と清音は部屋に入り、部屋の中央まで来ると正座する。
俺は部屋の一段高い所に座る帝に言う
「菊姫様から書簡を預かってまいりました。」
俺は封筒を出す。
正虎が俺に近づき封筒を受け取ると帝に渡す。
帝が書簡を読む。
帝が俺に尋ねる
「ここに書いてあることは誠か。」
「はい、事実です。」
「四條道隆が菊を襲ったのか。」
「はい。証人の捕虜も連れて来ています。」
「牛鬼を40匹狩ったのか。」
「はい、4人がかりでした。」
「・・・」
帝は沈黙する。
そして、正虎と勝時に言う
「四條道隆を召喚する。」
「はい。」
正虎と勝時は膝まづいて返事をする。
帝は俺と清音に言う
「扶桑からの旅の途中、邪魔は入らなかったか。」
「赤鬼10匹に襲われました。」
「能鬼師を捕まえました。」
「そうか、そなたたちは直ちに菊の所へ戻れ。」
「はい。」
「菊を必ず守っておくれ。」
「一命に代えても守って見せます。」
俺と清音は馬で扶桑に急ぎ帰ることになる。
四條道隆は、ひそかに2000の兵を引き連れて扶桑に向かっている。
道隆は怪しまれないように500人に分け、4つの門から演習の名目で外に出て合流する。
2000の兵は街道を通らず、人が通らない裏道を進んでいる。
彼は俺たちが国府につく前日に出発している。
正虎と勝時たちが四條家に行った時には道隆の姿はない。
道隆が国府を出て3日後、良房が菊を訪ねる。
良房は菊に言う
「姫様、四條道隆が2000の兵で扶桑に向かっています。」
「私の兵500が扶桑に向かっています。」
「扶桑には500の兵しかいません。」
弥次郎が2人に言う
「敵の位置が分かれば私たちが数を減らして見せます。」
「物見がついているので敵の位置は分かりますが、何人で奇襲するのです。」
「私と千代音の2人です。」
「死んではなりませんよ。」
「お任せください。」
弥次郎と千代音が膝まづく。
密偵の案内で、弥次郎と千代音は馬で向かう。
2人は離れたところで馬を降りると気配と足音を消して軍に近づく。
2000の軍は夕方になり、野営の準備をするところである。
2人は暗くなるのを待つ。
見張りの兵に忍び寄り、仕留めていく、4人の見張りを始末する。
2人は音のなく軍の中に入り、寝ている兵の急所を刺して殺していく。
50人程を仕留めたところで、たまたま目を覚ました兵が騒ぎ出す。
2000の軍は、大騒ぎになり混乱する。
弥次郎と千代音は混乱に乗じて軍の中を駆け抜け、さらに10人切り殺す。
襲撃は次の晩にも行われる。
道隆は半分の兵を寝たふりにして襲撃に備えたが、2人は堂々と軍の中に入り寝ている兵を殺していく。
兵が気づいて時には30人程が殺されている。
さらに次の晩には弥次郎と千代音は、大牙の30匹ほどの群れを軍にけしかける。
わざと大牙に追われ軍の中に紛れ込んだのだ。
2000の軍は扶桑に着く前に300人程を失う。
さらに寝られない日が続き士気は落ちてしまっている。




