10話 菊姫と旅に出る
菊の旅は、3台の人用牛車に俺と清音を含めた20人の護衛からなる。
先頭と後ろの牛車には、菊の付き人が乗り、菊は中央の牛車に乗る。
俺と清音は菊の牛車の両側に着く。城門が開かれ行列は出発する。
城から都市の門までのまっすぐの広い道を通り都市の門から外へ出る。
護衛としてだが、牛鬼討伐以来の久しぶりの旅である。
まずは扶桑に向かう、扶桑は四宮の途中にあるのである。
1日目の旅が無事に終わり、夕方が来る。
俺たちは寝る場所を決めて、陣を張る。
新しく加わった護衛が、火を焚かないのか聞いてくる。
清音が灯りは化け物を寄せ付けると説明する。
深夜になると一つ目が4匹近づいてくる。
俺と清音、古参の3人の護衛は静かにするように言う。
一つ目は陣の周りを嗅ぎまわるが、しばらくして去っていく。
翌朝、出発すると菊が牛車の中から俺に話しかけてくる
「つな様、扶桑の領主、植松良房をどう見ます。」
「世情に明るいです、それに情報網を持っているかもしれません。」
「ほう、なら盗賊の後ろに誰がいたかも知っているだろうな。」
「彼は九条正親が絡んでいると見ています。」
「そうか、私が正親と組んでいることも知れていよう。」
「おそらく。」
「扶桑では楽しめそうじゃ。」
俺は嫌な予感しかしない。
2日目の夕方が来る。
俺たちは寝る場所を決めると陣を張る。
夜中、大牙が3匹近づいてくる。
護衛の1人が何を思ったのか、陣を出て大牙を1匹切り殺す。
2匹の大牙は去って行く。
俺は、その護衛に詰め寄る
「何をしている。」
「大牙は殺せば仲間は去っていきますよ。」
「今のは斥候だぞ。」
「つな様は慎重ですね。」
そうやって話しているうちに大牙の群れがやってくる。
大牙は30匹位いる。
俺はその護衛に言う
「陣を出て、大牙を殺してこい。」
「あんなに居たら無理です。」
「見ていろ。」
俺と清音は陣から出る。
大牙は群れから4匹出て、俺たちを襲ってくる。
清音は刀を抜き、すれ違いざま1匹切り殺す。
俺も刀を抜き、1匹を攻撃を避けながら切る。
刀は、抵抗なく大牙の体を通りぬける。
俺は刀の切れ味に驚く。
残る2匹は群れに戻って行く。
大牙の群れは、かなわないと見たのか立ち去って行く。
清音が興奮気味に俺に言う
「この刀、すごいよ。」
「ああ、すごい切れ味だ。」
俺にも清音の興奮が分かる。
黒い牛鬼の角で作られた刀は、すごい業物である。
俺は護衛に指示に従うように約束させる。
3日目の朝が来る。
清音は夜のうちにさばいておいた大牙の肉を焼き始める。
味付けは塩だけである。
清音はみんなにふるまおうとするが、肉には独特の臭みがある。
食べたのは俺と護衛だけである。
3日目の旅も順調である。
途中、川に出る。
すると菊は牛車から出てくる。
菊はみんなに
「そなたらはここで待っておれ、つな様、清音様行きますよ。」
菊は返事を待たずに上流に向かって歩き出す。
俺たちは、水浴びに良い場所に出ると着物を脱ぎ、水浴びを始める。
俺にとって美少女2人との水浴びは旅の疲れを癒してくれるご褒美である。
俺たちは水浴びを終えるとみんなの所へ戻る。
古参の護衛が俺に聞く
「水浴びか。」
「他の者には黙っていてくれ。」
「分かりました。」
俺が菊と一緒に水浴びをしたことが広まるのはまずいのだ。
4日目から8日目までは何事もなく旅をつづけた。
9日目の夕方、俺たちは寝る場所を決めて、陣を張る。
深夜、俺と清音は地面から伝わる振動で目を覚ます。
まだ護衛たちは気づかず寝ている。
俺たちは刀を手に取り鞘から抜く。
しばらくすると振動の主が現れる。
赤鬼が近づいてくる。
赤鬼は1匹だけである。
今回は能鬼師に操られていないようである。
俺たちは静かにして立ち去るのを待つ。
しかし、護衛の1人が気づき声を上げる。
俺と清音は陣から飛び出す。
清音は奇襲をかけ、赤鬼の左足を切り落とす。
俺は刀に力を乗せて、刀身を伸ばし、赤鬼を横一閃する。
赤鬼は倒れると体が2つに分かれる。
大きな音にみんな起きるが、終わった後である。
翌日の午後、扶桑に着く。




