9話 鬼柳、現れる
翌日、役人が捕えた華妖仙を庭に運ぶ。
彼女は四肢を切り落とされているので身動きができない。
庭には、菊、清音、千代音、美代がいる。
俺と弥次郎、達郎、宗七、影平は少し離れたところにいる。
華妖仙は四肢が無くても男の天敵なのは間違いない。
菊が華妖仙に言う
「あなたが鬼人なのはわかっています。目的は何なのですか。」
「雌どもに話すことはないわ。」
清音が、華妖仙の両腕を取り出す。
彼女の前には赤々と燃える炭がある。
「腕をこの中に投げ入れたらどうなるかしら。」
清音は面を付けているため表情は分からない。
しかし、声は低く本気のようだ。
華妖仙は叫ぶ
「やめてー」
清音はためらう様子もなく、右腕を燃える炭の中へ投げ込む。
しかし、腕は燃えることはなかった。
何者かが空中で受け取り、華妖仙の傍らに立つ。
俺たちは殺気だつ。
鬼柳儀幽が現れたのだ。
鬼柳は言う
「私の妻を返してもらうよ。」
鬼柳はいつの間にか華妖仙の両腕両足を抱えている。
清音と千代音、美代が持っていたはずであった。
俺と美代が鬼柳に力の刃を投げ切りつける。
鬼柳はよけることもなく、華妖仙に手足をつけていく。
力の刃は鬼柳を切り裂くがすぐに傷口がふさがる。
華妖仙は四肢が元に戻ると屋根の上に飛び上がる。
鬼柳は俺たちに言う
「妻がお世話になったね。礼はいずれさせてもらうよ。」
鬼柳は姿を消す。
華妖仙も姿を消している。
俺たちは、戦慄する。
手足を気づかれずに取り返すことが出来るということは、いつでも首を取れるということである。
華妖仙は鬼柳に言う
「どうして皆殺しにしないのですか。」
「一気に殺せるのは3人までだよ。」
「それでも勝てたのではないですか。」
「私が君の横に立った時には、6人とも刀を抜いていたし、つなと美代は技を繰り出すところだったよ。」
「あの者たちは何なのですか。私が失敗するなど・・・」
「私たちの天敵だよ。」
鬼柳は華妖仙を抱きしめる。
菊は俺たちに言う
「今日は惜しかったですね。」
俺が菊に言う
「一歩間違えれば、清音たちは殺されていましたよ。」
「それでも6人で鬼柳を取り囲むことが出来たのです。」
「そうですが。」
「後は、あの神出鬼没の種を明かすだけですね。」
菊は笑う。
しかし、俺たちは笑うことはできなかった。
菊は、華妖仙の情報を帝と扶桑の良房に送る。




