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3話 魔性

 大治の町を国府に向けて、商人が旅立つ。

 2台の牛車は人用の物が1台、荷物用が1台である

 護衛は6人ついている。

 門を出るとすぐに女が護衛に話しかけてくる。

 女は護衛に言う

 「お願いがございます。途中まで一緒に旅はできませんか。」

護衛は、本来なら見ず知らずの者は近づけたりしない。

 しかし、護衛は愛想よく答える

 「旦那様に聞いてやる。」

牛車を止め、護衛は雇い主に言う

 「女が旅を一緒にしたいと言っています。」

 「なにを言っている。盗賊の罠かもしれないぞ。」

 「一度、会ってはもらえませんか。」

護衛は引き下がらない。

 商人は仕方なく女に会うことにする。

 女に会った商人は快く同行を認めるどころか、牛車に乗るように言う。

 女は、妙齢に見え美女であった。

 商人は骨抜きにされる。

 商人は女に言う

 「私は、国府で呉服を貴族相手に売っている。」

 「そうですか、すごいのですね。」

 「国府へは、何用で行くのですか。」

 「私は、四宮へ行くところです。」

 「四宮はやめて、国府で私と暮らしませんか。」

 「あなたには、ご家族がいるのでしょ。」

 「大丈夫です。新しい屋敷にあなたを迎い入れます。」

 「私を(めかけ)にしたいのですか。」

 「確かに私には妻がいますが、毎日あなたのもとに通います。」

 「困った人ですね。」

商人は、国府に着くまで女を口説き続ける。

 女は、国府に着く直前、妾の話を受け入れる。

 商人は、女の所に通い続ける。

 商人の噂は、たちまち広がる。

 商人の妻は、商人に言う

 「女を作って、通い詰めているそうですね。」

 「何を言っている。私は忙しいんだ。」

 「商売をさぼって、何が忙しいのですか。」

商人の妻は、番頭と謀って店を乗っ取る。

 商人は財産と家族を失う。

 しかし、商人は女がいると女の所に行く。

 女をかこっていた屋敷は無人になっている。

 商人は全てを失ったのだ。

 女は独り言を言う

 「人間の男は、少し魅了するだけで、すぐに自滅してしまうわね。」

女は国府の門の外で次の獲物を探す。


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