6話 火種
倭と奴国のはっきりした国境線はない。
大治の西に草原があり佐山の町との境になっている。
忠正の兵は、大治の町の周りを索敵するだけの警戒活動をすることになっていた。
しかし、忠正は索敵場所の指示は出さず、敵兵を見つけることに賞金を懸けている。
当然、忠正の兵は草原も索敵する。
5人の兵が草原の中を索敵している。
1人の兵が言う
「ここは国境線がはっきりしていないから入らない方がいいじゃないのか。」
「何を言っているんだ。」
「そうだぞ、敵を見つければ賞金がもらえるんだ。」
「そうだが、草原の中を索敵しても意味がないと思うぞ。」
「なら、お前は帰れよ。」
「勝手なことはできないだろ。」
5人は草原の中を進んでいく。
夕方になり、5人は草原を出ることになる。
すると2人組の兵に会う。
2人の装備は見たことのないもので倭の兵には思えない。
5人の中の1人が叫ぶ
「なんだ、お前たちは!」
2人組は逃げ出す。
5人は追いかけ、1人を後ろから切る。
背中を切られた兵は倒れる。
5人のうち2人が残り、とどめを刺す。
3人は、残りの1人を追いかける。
追いかけられた兵は
「たすけてくれー」
と叫びながら走る。
3人はなかなか追いつけない。
追いかけられた兵は草原を抜ける。
そこには軍勢がいる。
3人は外に飛び出す。
追われていた兵は言う
「こいつらに仲間をやられた。」
軍勢は3人と取り囲む。
残りの2人も後を追って近くまで来ていたが軍勢を前に手は出せない。
3人は軍勢になぶり殺しに会う。
残りの2人は、その場を逃げ出す。
2人は命からがら町に戻る。
忠正は、2人に気づき声をかける
「残りの3人はどうした。」
「殺されました。」
「どこでだ。」
「草原を向こう側に抜けたところです。」
「何、そこは奴国だぞ。」
「草原の中を索敵中、2人の兵を見つけました。」
「どうしてそこで引き返さない。」
「2人は逃げたので追いかけたのです。そして1人を殺しました。」
「何をやっている。」
「すみません。3人が残りの1人を追いかけたのですが・・・」
「奴国に入って殺されたのか。」
忠正は冷や汗をかく。
自分の部下が戦の火種を作ってしまったのだ。
「その兵たちは、どんな格好をしていた。」
「朱色の鎧を着ていました。」
倭の軍の鎧は黒である。
朱色は他国の軍、つまり奴国の軍で間違いない。
忠正は、領主の氏原勝成に報告に行く。




