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9話 大治にて

 大治に着くと俺は門番に言う

 「洞戸村から帰った。氏原殿にお目通り願う。」

門番の1人が領主の館に走る。

 俺たちは、ゆっくり馬を進ませる。

 俺は菊に聞く

 「大丈夫ですか。」

 「はい、御見苦しいところを見せました。」

菊の手はまだ震えている。

 清音が菊に言う

 「姫様は見苦しくない。よく頑張った。」

菊は黙ってうなづく。

 俺たちは、館に着くと馬を降りる。

 氏原勝成が出迎える

 「菊姫様、ご無事で何よりです。」

 「村人が私の目の前で惨殺されました。」

 「それは・・・生き残りはいるのですか。」

 「いません。」

 「菊姫様が無事だったのが、せめてもの救いです。」

勝成は、俺たちを広間に案内する。

 彼は俺に聞く

 「鬼柳には、勝てたのですね。」

 「いいえ、鬼柳はいませんでした。」

 「それでは、どうして村人が殺されたのです。」

 「鬼柳の手下の残鬼という者がいました。私たちが着いた時には村人は殺されていました。」

 「むごいことをする。」

 「残鬼は、人間ではありません。」

 「では何なのです。」

菊が話す

 「残鬼は自分のことを鬼人と言っていました。」

俺は宗七の話を思い出して言う

 「確か鬼柳は奴国で鬼人とうわさされているようです。」

 「残鬼は、鬼柳のことを頭領と言っていました。」

 「その残鬼に勝ったのですね。」

清音が勝成に言う

 「残鬼の方が私たちより強かった。運が良かっただけ。」

 「謙遜ですよね。」

勝成の言葉に俺は言う

 「清音の言う通りです。残鬼は私たちを見くびっていました。」

 「そうですか。」

俺たちは部屋を借りて休むことにする。

 勝成は洞戸村が全滅したことで処理のため忙しくしている。

 部屋で休んでいると菊は俺たちに言う

 「地獄の光景でした。これまでにも赤鬼に襲われたりしましたが異質のものです。」

 「俺たちがいるから大丈夫ですよ。」

 「死なないでください。」

 「私たちは生きているわ。」

 「いいえ、これからもつなも清音も一緒に生きてください。」

菊は俺と清音を抱きしめる。

 朝になると菊は俺たちに言う

 「国府へ出発しますよ。」

 「菊、今日は休んだ方が良いよ。」

 「菊は疲れているわ。」

俺と清音は菊を止める。

 「急いだほうがいいわ。」

 「どうしてですか。」

 「帝たちが、つなと清音の処分を考えているわ。」

 「それは覚悟しています。」

 「悪い判断になると困るわ。」

菊は俺たちのことを心配しているのである。

 「分かりました。馬を使っての旅になりますが大丈夫ですか。」

 「大丈夫ですよ。」

俺たちは昼前には大治を出発することにする。

 勝成は、俺に書簡と館で退治した黒鬼の角を渡す。

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