冒険者ギルドで登録
翌朝、砂漠の街の鐘がなり目を覚ます。
一晩寝たら体力は万全に回復している。『ビジネス書』を見ても昨晩から何も変わっていなかった。
準備をして一階に降りる。
朝食は予約しておいたから限界まで食べておく。
お金が心もとないから昼飯は抜きだ。
昨日までは豪華な食事が三食当たり前に出てきていた。
でもそれも終わりだ。もう過去は振り返らない。
食事のお礼を言って早速冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドの受付に行くと受付の女性が声をかけてくれた。
「見かけない顔ですね。冒険者の登録ですか。」
「はい。昨日、公国から着きました。冒険者の登録をさせてください。」
女性のネームプレートを見るとニーナ。ギルドマスターと書かれている。
ニーナさんは茶髪で長髪の女性だった。目がくりくりしていて小動物みたい。胸も大きくて、背は少し小さいが姿勢が良い。年齢もオレより少し年上の20歳過ぎくらいだろうか。
冒険者ギルドで偉い人なのだろう。それでもあまりニーナさんは強そうには見えない。
「今、私のことあまり強くなさそうだと思ったでしょう。」
「すみません。ギルドマスターっててっきり屈強な男の人がなるものかと思っていました。」
「面白いことを言いますね。たしかに強い人も居ますけど。こちらが冒険者の登録書です。お書きください。」
登録書に目を落とすと、名前と職業、スキルを書く必要がある。
「嘘を書いてもバレますから、ちゃんと書いてくださいね。」
オレの表情は読み取りやすいのだろうか。心を見透かされている気がする。
名前をレオンハルト=シュタインで書き、職業は剣士。スキルはビジネス書と素直に書いた。
チェックをするニーナさんの手が止まる。
「確認しますので、お掛けになってお待ち下さい。」
シュタイン家に報告するのだろうか。帝国だったらバレないと思っていたが、シュタイン家は帝国でも有名らしい。
席に大人しく座っていると。男のギルド職員から話しかけられた。
「おい、公国の貴族が冒険者になるだって。家出かよ。」
バカにする口調で男が言った。男のネームプレートにはフロイドと書かれている。
「まあそんなところです。」
「あまり冒険者を馬鹿にするなよ。痛い目にあってからシュタイン家に泣きついたって遅いからな。冒険者は全て自己責任だ。」
大きな声でシュタイン家という言葉を口にするとギルド内にいた冒険者たちはこっちを見ながらコソコソと話をしている。
「お気遣いありがとうございます。精一杯頑張ります。」
男は舌打ちして出ていった。オレはもうシュタイン家とは関係ない。
フロイドにはオレが貴族の道楽に見えたのだろうが、オレも生きることに必死だ。
悔しいけど、周りの目を気にしている余裕はない。
◇
数分したらニーナさんが戻ってきて呼ばれた。
「確認しました。嘘は書いていないみたいですね。こちらが冒険者カードになります。Fランクからの開始で、Eランクまでのクエストが受けられますが、クエストを失敗した場合罰金が課されますので注意してくださいね。」
お礼を良い、クエストの掲示板を見る。
Fランクの依頼はゴブリンの10体討伐だけみたいだ。
10体倒して1000G。素材と魔石の買い取りで10体で約2000Gらしい。
生活費を稼ぐだけでも最低10体は毎日ゴブリンを狩らないといけない。
まずはやってみるか。受注書をニーナさんに提出してギルドを出た。
砂漠のダンジョンはピラミッドと呼ばれる建物の中にあるらしく、街から歩いて10分くらいの距離だ。
まずは一階でゴブリンを探す。オレが勝つためには先制攻撃が必要だ。
見つけた。ゴブリンはまだこちらに気がついていない。今がチャンスだ。
オレは駆けて全力で後から斬りかかる。
「ギギギ。」
ゴブリンが振り返り、棍棒を振り回してきた。
普通の冒険者であればゴブリンなんか剣で一撃で倒せるがオレは弱い。
もみ合いになりながらも何度もゴブリンを剣で叩く。
錆びついていて斬れない。
数十分に渡る激闘の末、なんとかゴブリンを倒すことが出来た。
ゴブリンの耳を剥ぎ取ると、魔石がポンッと現れた。
息が上がり座って休息を取る。
一体倒すのに休息込で30分はかかるな。これを後9セット。5時間で一日の生活費を稼げる。
初日はゴブリン15体を倒すことが出来たが、ダンジョンを出る頃には日が暮れていた。
ギルドに駆け込み、クエスト完了報告をして換金してもらった。
人生で初めて自分で稼いだ金額は4500G。
宿代と食事代を支払っても1000G手元に残る。
オレは嬉しくてたまらなくてギルドを出るとガッツポーズをした。
宿で急いでご飯を食べて、部屋に戻り計算をする。
一日1000G稼げる場合、どうなるのか1億円稼ぐためには10万日かかる。年に換算すると、約274年だ。
オレには後363日しかないんだ。
全然足りないじゃないか。途方もない数字でため息が出る。
先程まで有頂天になっていた。たかが1000Gで浮かれるとは自分がばかみたいだ。
気分転換に砂漠の街の散歩をする。ボスにお礼も言いたいし、探してみよう。
街をぶらついているとぼったくりであろう胡散臭い商人に声をかけられたが、オレには買うお金はない。
それに孤児や酔っぱらいが外で寝ている。
砂漠の夜は寒い。心配にはなるがオレには助けられる余裕はない。
「兄ちゃん、元気になったかい。」
「ボス、昨日はありがとうございました。今日から冒険者デビューしたところです。」
「そうか。礼は要らない。冒険者は初級が一番死ぬことが多いんだ。気をつけろよ。落ち着いたら蠍で走りに行こうぜ。」
ボスがオレの肩を叩き、街の外へ出ていった。今日も砂漠で走るのだろう。
ボスと話すと元気が出てきた。宿に戻って明日からの作戦会議だ。
困った時の『ビジネス書』を開く。書物を開くと新しく文字が浮かび上がっていた。
『悩むだけでは何も解決しない。まずは何かをやってみる。』
たしかにその通りだ。昨日までもこの発言に助けられたんだ。
明日にはもっと効率よくゴブリンを倒せるかもしれない。
稼げば装備を整えて、もっと効率よく倒せるはずだ。
今日の経験を踏まえてゴブリンと戦うシミュレーションをする。
明日には今日よりも効率よくゴブリンを狩ってやる。
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【今日の格言】
『悩むだけでは何も解決しない。まずは何かをやってみる。』
借金:1億G
所持金:7500G→所持金6500G+ゴブリン15体4500Gー宿・飯代3500G
残り日数:363日
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