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追放

 「クソ兄貴め。オレをハメやがったな。」


 レオンハルト=シュタインは日が暮れそうな砂漠に立っていた。


 所持品は剣一本にボロボロの銅の鎧。所持金1万G。

 一日の宿代がどんなに安くても1000Gはするんだ。食事を含めると数日しか持たない金額だ。


 俗に言う詰んだ状態だ。オレは学生だし、お金を稼いだことすらないのだから。

 なぜこうなったかなんて答えは簡単だ。家を追放されたからだ。


 シュタイン家は公国の昔からの貴族だ。位は公国内ではもっとも高く公爵の身分ではあるが、シュタイン家は税金の支払いを滞っていて来年の今日の時点で1億Gを支払わないと爵位を剥奪すると通達があったらしい。


 広大な領地と税収があるはずなのだが税金が払えていないというのはどういうことだ。と父が問い詰めると、執事のセバスチャンが数値の説明をしてくれた。


 毎月1000万Gは収益が上がっているはずなのだが、家の宝物庫には100万Gも残っていないそうだ。


 「どういうことだ。セバスチャン説明してくれ。」

 

 「それは………その………。」


 セバスチャンが言いよどむ。

 何か言えない理由があるのだろう。まあオレに関係はないがと思いあくびをしていた。

 

 「セバスチャン、言わなくて良い俺が言ってやる。犯人はレオです。レオがギャンブルで使っていたのです。」


 兄ジーノが鼻息荒くオレを指さした。


 「待ってくれ。オレは関係ない。ただの学生だ。帝国の寮で生活していてどうやって金を使い込むんだ。バカなことは言わないでくれ。」

 「証拠ならある。」


 兄ジーノが紙を机に叩きつけた。


 そこにはカジノの借用書と書かれていて、

 名前はレオンハルト。オレの名前で借り入れ金額は1億Gと書かれている。

 オレに身に覚えはない。


 「決まりだな。レオが学生の身分で金を散財していたというところだろう。」

 「なんと愚かなことを。」


 父ミュラーが手で頭を抑える。


 「決まりね。こんな息子を持って残念だわ。今すぐにでも出ていってちょうだい。」


 ヒステリックに叫ぶのは義母のビビだ。

 父はビビと再婚後、兄ジーノを引き取った。ビビとジーノはオレを嫌っている。

 恐らく執事のセバスチャンもグルなのだろう。心底ヘドがでる。


 「父上、このような暴挙オレは許せません。こいつのスキルも『ビジネス書』というよくわからないものですし、シュタイン家には相応しく有りません。」


 兄ジーノもオレを睨む。


 ジーノがギャンブルに嵌っていた事は知っていたが、まさか責任をオレになすりつけてシュタイン家までも乗っ取ろうとしているとは思わなかった。



 オレのスキルを説明すると『ビジネス書』らしい。

 らしいと言うのは、ビジネス書と呼ばれる本をオレは読めなかった。

 公国や帝国の言葉ではないのだ。読めない本に使い道がなかった。


 スキルが神託として分かるまではシュタイン家の跡取り息子として周囲からチヤホヤされていたのだが、

 スキルがわかった途端に腫れ物扱い。シュタイン家の跡取りまでも剥奪された。


 シュタイン家は公国が独立した時からの貴族だ。武勲を立てたこともあり、

 共和国と帝国に挟まれている地理上、強いことが求められる。

 ジーノのスキルは聖騎士だ。戦闘に特化した能力。

 跡取りをジーノに奪われたことは必然だろう。



 公国では未だに貴族などの出で立ちやスキルで人を判断することが当たり前だった。

 だからこそオレの評価は地に落ちた。要らない子になった訳だ。


 「残念だ。我が息子レオよ。言い訳は聞かぬ。今すぐ我が家を出ていってくれ。学園も退学だ。いいか、金だけはしっかりと返すんだ。返さなければ奴隷として売り払うからな! 」


 実の父がオレを信じてくれなかったことはショックだった。

 それに言われない借金まで出来ただと。ふざけるな。


 オレはカッとなり立ち上がりジーノに殴りかかる。犯人は間違いなくこいつだ。

 ジーノはスキル聖騎士があり、強かった。オレの拳は空を切り、一発腹を殴られてオレはうずくまった。


 「気がついただろう。お前は要らないんだよ。犯人はもちろん俺と母上だ。せいぜい野垂れ死ぬがいいさ。」


 父上からは見えない様にジーノがオレの顔を覗き込みニヤニヤと笑った。




 最後の情けだと言われて1万Gと1億Gの返済命令書を渡された。1億Gの期間は一年らしい。三ヶ月に一度支払う必要がある。

 お願いし、剣と鎧だけは取ったが、それ以外何も持たずに家から放り出された。

 仲良くしていたメイドのアリシアには挨拶もできなかった。

 

 どこに行こうかと悩んだが、公国内ではオレの名と顔は割れている。

 あてもなく歩いていると留学していた帝国領を目指して東へ進んだ。


 どうやらオレはまだ学園に未練があるらしい。もう退学になっているはずだが。

 もう元には戻らない。父ミュラーは一度言ったことは絶対に撤回しない正確だから。


 砂漠を渡り歩くのは思った以上に大変だった。

 留学した時は馬車で運んでくれたから我慢できたが、夜は寒い。


 日が暮れたら凍え死ぬと思い、枯れ草を剣で斬り集める。

 剣がオンボロ過ぎてうまく斬れない。


 草で手を切ってしまい血が出てきた。


 「はぁ。前途多難だ。」


 ファイヤーボールで火を付けて暖を取る。


 「これから、どうするかな。やることもないしステータスでも見るか。」


====================


■ステータス:レオンハルト・シュタイン Lv15

[HP:30/30]

[MP:10/10]

[物攻:5(+5]

[防御:5(+5)]

[魔攻:3]

[速度:5]

[幸運:30]


◆装備

[武器:錆びた銅剣]

[防具:ボロボロの鎧]

[防具:ボロボロの靴]


◆スキル

[ビジネス書]


◆称号

[動物に愛されし者]


――――――――――――――――――――


 シュタイン家として家に居た頃は毎日修行に明け暮れていたが、能力は全然伸びなかった。

 初級学校に通うスキルなしの子どもにも勝てない戦闘能力値だ。

 人より運だけは高いのだが、貴族の家から追放されたんだ。なんて皮肉だ。

 

 「野垂れ死ぬには良いタイミングだったのかもしれないな。」


 能力値の低さとスキルから腫れ物扱いされた人生。

 オレが死んでも誰も悲しまない。むしろ喜ぶ人も多くいるだろう。

 このまま剣で自分を刺せば楽になれる。


 最後に婚約者のメリーとメイドのアリシアとは話をしたかった。


 「せめてこの『ビジネス書』が使えれば、人生逆転できたり…するわけないか。」


 淡い期待を抱くが無理な話か。暇つぶしのために読めないが『ビジネス書』を開く。

 今まで数年見れなかった『ビジネス書』が一ページだけ光って読めるようになっていた。

 なんて書いてあるんだ。


 『今日一日のみを生きよ。過去に囚われるな。人間には"今"しか時間はないのだから。』


 どういうことだ。呪文などが使えると言うわけではなさそうだ。

 それに急に読める様になったのはどういう法則性だ。

 

 たしかにオレは家も追放されて学園生活もなくなり、豪華な生活から転落した。

 惨めでジーノに嵌められたことも情けなくて、死にたい気持ちだった。


 『ビジネス書』を読んでからなにかに励まされているような。

 体の奥底から力が湧き出てくる感じがする。


 遠くから魔獣の鳴き声が響く。周りは漆黒の闇。月も雲に隠れている。

 魔獣に襲われれば、ひとたまりもないだろう。

 

 決めた。オレはどんな人生であれ生き抜く。ジーノやシュタイン家はもう過去のことだ。

 オレはオレの幸せだけを考えて生き抜いてやる。


 オレは立ち上がり砂を払った。

 東へ進もう。砂漠の街があるはずだ。

 誰が望んでいるなど関係ない。オレが決めたことだ。必ず砂漠の街までたどり着いてやる。


 雲が流れて月が顔を出す。

 方角は把握できた。脚がちぎれて動けなくなるまで歩いてやる。



 【今日の格言】

 今日一日のみを生きよ。過去に囚われるな。人間には"今"しか時間はないのだから。


 残借金:1億G(所持金1万G)

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