男女逆転婚約破棄 「男女平等」を語る婚約者に婚約破棄してみた~あら、「女のくせに」ってどういうことですの?「男女平等」では?~
婚約破棄は難しい……バカだろこいつ!って思わずツッコんでしまいます。
初めての婚約破棄ものなので、至らない点はたくさんあるかと思いますが、よろしくお願いします。
短めです。
「私はこれから、男女平等な社会を作り上げていきたいと思い、このようなことを――」
わたしの婚約者で、この魔法学園の生徒会長候補である第一王子、ノーラン・ライルが、年に一度の大イベント――貴族全員が来訪する――生徒会長選挙パーティーで演説している。その内容は、「男女平等」についてだ。
この社会、以前と比べればあからさまな不平等はなくなったが、それでもどこかでそういった意識があるので、その意識を完全になくしてしまおうという主張だ。
それは第一王子が発言したこともあり、その意見には生徒会長選挙より前にもすでに過半数の人間が賛成していた。
舞台に上がってその婚約者の補佐をしていたわたしは、ノーランの演説が一段落したのを確認すると、専属侍女のアリアに合図をおくる。
「ノーラン・ライル様!貴方との婚約を破棄しますわ!」
そう言ったわたしの言葉に、さっきまでノーランの演説で盛り上がっていたパーティー会場が静まり返る。
「な、なぜだ!なぜ俺さm――私が貴様に婚約破棄されなければならない!私は悪いことなどしていないだろう!」
本気でそれを言っているのだったらとてつもない阿呆――失礼、頭のネジが緩んでいるとしか思えない発言だ。思わず本当に酒や麻薬を飲んでいないのか確かめてみたくなった。
「本気でそうおっしゃっいますの?……例えば、グレース・スコット男爵令嬢のことで、何か心当たりはございませんの?」
「……は、ははははぁ?こ、心当たりなんてあるわけないだろう。……あ、そ、そういえば、レース……こほん、スコット男爵令嬢はお前がいじめていた可哀想な令嬢じゃないか!思い出したぞ!ハハハ、エイプリル、語るに落ちたな」
グレースさんの愛称と思われるものをノーランは口にし、慌てて訂正する。
「この阿呆!……失礼、ストーカー野郎……こほん、全世界の女性の敵はそんなことを言うのですか。ネタは挙がってるんですよ?貴方がグレースさんにつきまとい、本人の下着を盗んだり、盗聴したりしましたよね?わたくしがグレースさんをいじめるなんてその思考回路が理解できませんわ。あと不快なのでわたくしの名を呼ばないでくれません?」
「ハハッ!そんなのどうせ、証言だけのとばっちりだろう!婚約破棄もののお約束じゃないか!」
「婚約破棄もの」は貴族の中でも一大ブームとなっているので、ノーランも当然知っている。確かに、婚約破棄ものでは主人公が「ざまぁ」するために証言だけのとばっちりを受ける。
「あら、ちゃんと録音魔法と録画魔法で証拠はとってありますの。架空のお話と一緒にしないでくださります?」
そう言ってわたしは録音を再生する。
『ハァ、レースたんは今日もかわゆいなぁ、あ、こっちを向いた!これで一日がんばれるぞぉ。ありがとぉ、レースたん♡』
「 」
ノーランは言葉をなくしている。それはこっちの台詞(?)なのだが。何度聞いても気持ちの悪いことこの上ない。前にいる容姿だけはいい男がこの台詞を吐いたと思うと吐き気がする。
愛らしい容姿を持つグレース嬢はこれに耐えてきたのだから、本当に尊敬する。
「他にも、男子生徒をいじめた罪や横領、賄賂罪や痴漢に窃盗罪、公然わいせつ罪……。よくもここまで一つの人生で罪を犯せましたね?なぜ今まで捕らえられなかったのでしょう」
周りがノーランを見る目が完全に道端に落ちたいるゴミクズを見る目になっている。明らかな侮蔑の眼差しに、空気を読めないノーランもさすがに青くなっている。
けれどどれだけ追い詰められても懲りない、鋼のメンタルを持つノーランは、また自分の首を絞めていく。
「う、うるさいな!俺様は王太子なんだぞ!……そもそも、女のくせに婚約破棄など生意気なんだ!」
「へぇ、そうですか。そうですか、『女のくせに』と性別を持ち出して異性のことを批判するのが『男女平等社会』を語る生徒会長候補の主張ですか。…………貴方様の罪にもう一つ付け足したいのですが、」
わたしはそこで一度言葉を区切り前の婚約者に微笑む。
「もともと、『男女平等』はわたくしが言ったものですよね?」
わたしは、また別の録音を再生した。
『エイプリル、生徒会長の演説、何かいい案はないのか!?』
『まあノーラン様、いきなり淑女の部屋にノックもせずに入ってくるなんて常識知ら――こほん、非常識ですわ』
『うるさい!淑女のなんちゃらなどどうでもいいのだ!何かいい案はないのか!』
『……はぁ。…………そうですね、例えば「男女平等社会」――……』
『それはいいな!さすが俺様の婚約者だ!』
ノーランの「俺様」と、わたしの「常識知らず」が入っていたのはご愛嬌だ。
これでノーランの処刑は決定したも同然。
闇の魔法である録音魔法や録画魔法が使えるわたしにノーランの悪事の証拠を取ってくれと頼んできたこの国の皇帝が、低い声で実の息子の処罰を告げる。
「……もういい、エイプリル嬢、今までご苦労であった。………………ノーランよ、お前は処刑だ。証拠がそろうまで泳がせていたが、もっと早く処罰するべきだった。こんなにも広範囲に被害を与える前に」
婚約破棄するあとの理由は、わたしの婚約破棄への好奇心と、個人的な恨みと、本当の、「男女平等社会」を、ちゃんと貴族たちに考えてほしかったからだった。
ことの発端……というかわたしの好奇心は、少し前の何気ない日常から始まる。
☆☆☆☆☆
「ねぇ、アリア」
「なんでしょうかお嬢様」
わたしは自室で、そばに控えた専属侍女、アリアに呼びかけた。
「なぜ婚約破棄ものって、女が男に婚約破棄されるのでしょうね?」
そう言ったわたしの手元には、ある一冊の本があった。今流行りの、「婚約破棄もの」だ。
身分の高い――公爵令嬢くらいの――女性が、婚約者である高位貴族――だいたいは王子様――にパーティーで無実の罪を問われ婚約破棄されるところから始まる。そして最後は、自分を愛してくれる人を見つけて、逆に王子様の罪を述べて、「ざまぁ」するという筋書きだ。
「そうですね。確かに言われてみれば、男性が女性に婚約破棄される本なんて見たことがありません」
「男女平等の時代の今、このブームは時代錯誤だと思うの。だからわたくし、婚約者のノーラン王子を婚約破棄したいわ。……というわけで、根回しよろしく」
「お嬢様、無茶を言わないでください」
そう言ったアリアの表情も、言葉と違いずいぶん楽しそうだった。
「いいじゃない、ノーラン様もかなりの前科があるから、今がちょうどよい収穫時なのよ。………………それに、わたしは女だからという理由でこんな婚約者に時間を割かないで、公平で平等な、自由で幸せな生活を送りたいの」
婚約者の罪の証拠集めに奔走して時間を取られる生活など、もう充分だった。わたしは自由で幸せな生活を送りたかったのだ。
主の望みには口を挟めないらしく、アリアは黙って目を伏せ、了承の意を示した。
☆☆☆☆☆
わたしは立派にざまぁして婚約者を捨て、晴れて隣国の王子様に溺愛される――――ことはなく、生徒会長になって――婚約破棄したときほとんどの貴族が推薦した――そして、その仕事に忙殺されている。ひどい。
「ねぇアリア」
「なんでしょうお嬢様」
「なんで婚約破棄したら忙しくなったの?そういうものなの?幸せを手に入れられるんじゃないの?聞いてないんだけど」
「……」
婚約破棄して幸せになるはずが、仕事で忙しくて恋愛なんて二の次三の次。自由な生活も、だ。
……こんなはずじゃなかったのに!
エイプリルの心からの叫びは、「次の仕事のお時間です」と残酷な事実を告げる専属侍女の声にかき消されてしまった。
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