そこにいるもの
インターホンが鳴った。
ぼんやりしながら目を開ける間に何度も何度も鳴り、終いにはドアがドンドンと壊れるかと思うぐらい乱暴に叩かれる。
「明里ちゃん、開けて!早くはやくっ!」
美紗の切羽詰まった声だ。
起き抜けに勉強机に置いた小さな時計が夜中の3時前なのを見た。玄関ドアを開けると飛び込むように美紗が入ってきた。
「どうしたの?!」
急いでいたのか呼吸は酷く乱れ咳き込んで床に手を付いている。良く見れば部屋着のままで、なんと裸足だった。
「ごほっ、ここにいさせて、お願い!」
「うん……………大丈夫?」
顔面蒼白でガタガタと震える彼女に、明里は何かあったのだと察した。いや、実は美紗から電話があったのもメールがあったのも気付いていた。でも怖くて知らないふりをしたのだ。
「美紗ちゃん…………」
友人の怯えように罪悪感を覚えた明里は、部屋へと入れてタオルとジュースを渡した。美紗はジュースを持ったまま手元を見つめたかと思うと、ふいに辺りを見回したりと落ち着かない様子だった。だいぶ経ってから明里は何があったか聞いてみた。人は怖くても知りたい生き物だ。
「私、み、見ちゃったの」
そう言って、美紗は何があったか話し出した。
物音がした方を確かめて白い影を見たこと。はっきりと目が合ったこと。そして誰もいない上からの足音がしたこと。怖くてベランダから逃げてきたこと。
思い出して膝を抱えて震える美紗を眺めて、そうか見たんだと明里は納得した。驚きはしなかった。
なぜなら泊まりに行った夜、明里は見たから。
『ぎいいいい』
あの時、奇怪な音を聴いた深夜彼女は一人目を開けた。床に敷いた自分の布団の足元が引っ張られる感じがして目を下に向けた。
そこには白い影があり手らしきものが布団を掴んでいた。
それが鳴く声だった。
『ぎいいいい』
ギョロと目玉だけがはっきりとあり、明里と目が合うと何かを喋った。
『………タ……………ナ』




