確信
やっぱり明里の家に泊めてもらうんだった。
美紗は広くはないリビングの隅に座り後悔していた。夜中の1時を回ったところだ。今からでも電話しようか?でも遅い時間だし。
つけたままのテレビは深夜ドラマが放映されている。かなりの音量だが、どうせ上の階も隣もいないのだ。朝まで起きておくと決めていた。あんな話を聞いて眠れるはずがない。いや、眠れても何があるかわからない。
リビング、台所、風呂場にトイレまで全て蛍光灯を付けているが、一人でいる限り怖くて仕方ない。
大家さんの話が本当なら、昨夜の足音は上でも隣でもない。階段側は壁が厚いようで上り下りする音は聴いたことがない。
「だったら…………」
何だったのか?どこから聴こえた?もし上なら、どういうこと?
だめだめ、考えるな!考えたら怖くなるばかりだ。
ぶんぶんと首を振る。
カタッと何かの音にビクッとしてリビングと台所を隔てる戸をそっと見る。磨りガラスでもない平凡な白木の戸。
じっと見てしまう。何もないのだと安心したい気持ちがあった。
だが…………ガタッ、再び明らかに戸が向こう側から押されたように揺れ動いた。
「ひっ」
ドッドッドッ、心臓が早鐘を打つ。冷房をしているのに嫌な汗が身体中から吹き出る。
這うようにして戸に寄る。
怖いと思うから何でもないことも気になるんだ。冷房の風か木の自然のたわんだ音だろう。
思いきってガララと勢いよく戸を全開した。素早く見渡すが台所は静かで勿論誰もいない。良かった、そう思い直ぐに閉めようとした時、細くなる戸の隙間の奥…………玄関にうずくまる白い影を見た。
「あ……………」
戸を完全に閉めて思考が止まる。
「あ、あ」
確かに見た。白い影、人間のような形をしていた。白いのに目は、はっきりとこっちを見ていた。目が、合った。
「ひ、ひい」
転がるように戸の横に座り、つっかえ棒代わりにして開かないようにする。
やっぱりそうなんだ、気のせいなんかじゃなかった。
限界だった。
床に落ちているスマホを掴むと震える指で明里に電話を掛ける。
でも彼女は出ない。深夜だから眠っているのは分かっていたが、祈る気持ちで何度も電話を掛ける。
「お願い……………明里、出てよお」
泣きべそをかく美紗の頭上で嘲笑うかのように足音が聴こえ始めた。