Story8「始動開始」
何もやっても上手くゆかず、夢も希望も持てなくなってしまった世捨て人純、彼のただ自分が生きてゆくだけの為に考えられた地味な計画は大きな犯罪として実行されてゆく。
取り敢えず、たった一か月で、出来るだけの事を考えてはやってみた。
大きな組織にしちまえば、必ず何処かからすぐにでもバレてしまうだろう。
しかし俺は、金を大量に稼ごうとする訳でも無く、ただ細々と自分自身だけが
生きていける方法を模索し、その為にとんでもなく大きな犯罪までもを犯して
しまったのだ。
もう後には、引きかえせない。怯えていたら何も出来ないのさっ。
これはある意味、今迄にウダツが上がらず生きて来た、俺の心の中にある世の中
への反発心が、そうさせたのモノなのかも知れないっ。
そんな俺は無論、今更引き返そうとは思わない。勿論、始動あるのみだっ!
俺は3人が、いつしか本物の俺に成れると思わせる程の指導を、一か月間みっちりとし
そしてその指導は一か月とは言わず、その後も続行された。
その甲斐があって、3か月がたった頃には、ジョーが既に完璧な迄に俺自身だと
思わせる程に仕来あがっていたのだ。
<これじゃ絶対に見訳が付かないっ。ジョーは既に、本物の俺が怖くなっちまう程だぜっ!>
俺は何もせず家にいるだけ・・・。身のまわりの世話を、すべてティオに押し付けて
外ではなんとか入れた会社で俺の保険や年金を支払いながら、ジョーが働いてくれている。
この生活は、きっと傍目には地味で素気ない青年にしか、映らないないだろう。
しかし俺にとってこれ程、面倒臭くない生活は、何処にも無い気がした。
そんな今の生活が、今迄の人生の中で、一番安定している様にも思えたのだ。
<地味だけれど、この日々がずっと続けばいい・・・食い外しはないのだから。>
所詮人とは、現状に満足出来ない生き物だ。きっと何らかの犯罪を犯してしまったなら
更にエスカレートしちまうはずだっ。
例えば、数十人を海外から連れて来たならば、地下に大きな組織を作ってその数を
数百人、数千人と増やし、妖しい仕事をさせ働かせ稼ごうとする連中も、世の中にはいるだろう。
その方が儲かるに違いないからさっ。
ただ俺はそんな事はしない。なぜならば、俺自身がひとり生きていければ
何の問題もないからだ。そうなんだ・・・俺にはそれ以上の欲望もないっ。
ただ俺自身が面倒臭い労働をせずに、生きていけるだけで満足なんだ。
そんなちっぽけな俺を世間は、気に留めたりなどする訳がないっ。
だから一生このまま疲れる事も無く、ずっと暮らしていけるだろう。
<俺は何処までもナルシストで、俺しか愛せないんだからっ!>
今が一番最高なんだっ。そしてこらからも俺の心の中にある、この最高値は
ずっと永遠に続くだろう。
俺は今日も、ただ窓の外の雲を眺めては、しょぼいベッドの上で、何も考えずに
爽やかな風を感じているだけなんだからっ。夢や希望を捨てた人生も、思った以上に
悪くはないさっ。




