Story13「謎の老人」
暗い檻の中で日々絶望の渦に打ちひしがれていった純、その時突然外の世界へと放り出された彼の
運命の歯車は、果たして元に戻せるのだろうか。
暗い牢獄の中でもうすでに昔の事も今の事も、今日の日付さえもどうにでも
良くなっていた。俺は落ちるべき所まで落ちてしまった。そんな心境の中で
もうこれからの人生に置いて何を見たとしても、きっとそこには驚きも喜びもない。
そう思うと、今迄の鬱蒼としていた心の闇が、逆にメラメラ燃え、陽の直射を受けた
かの様に、一気に燃え上がっていった。
<俺にはもう何もありゃしね〜っ。だから何を恐れる事も、怖がる事もあるめ〜っ。
落ちる所まで落ちてってやろ〜じゃね〜かっ。>
とそんな矢先に突然・・・・・・、俺は檻の外に出る事となったのだ。
いったいどうしたと言うのだっ。刑期もまだ終えていないのに・・・。
まさか誰かが、俺なんかの為に大金を積んだとも思えない。
なにがなんだかさっぱり解らないよっ。もしかしてこれは夢なのだろうか?
次に目が覚めると、あの暗い檻の中へ、又引きもどされてしまうんじゃないかっ。
そんな事を考えながら、振り返り先程までいたあの牢獄の建物を見てはふと立ち止った。
そうすると、背後から静かに一台の車が迫ってきたのだ。俺は思わず仰け反った。
<おっとアブね〜ヤツだな〜っ、やっと檻から出られたってのに、こんな所で
死んでは何にもなんね〜っ。>
すでに俺の中では、以前と何処かが違う様に思える。それは、何かが音を荒立てて崩れ
てったせいなのかっ、それとも人生ってヤツを、一度を捨ててしまったせいなのかは詳しくは
解らないが・・・。
とにかく俺自身の中で、何かが違う。・・・とそこに車を止めて、ひとりの男が降りて来たのだ。
<あっあれは、あの時の老人かっ?>
老人「お久しぶりです。」
純「俺も丁度話があったんだっ。な〜っ聞かせてくれっ、俺は何故獄中から出られたんだっ。
オマエが何かをやったとでも言うのかっ?」
老人は眉を顰め、静かに言った。
老人「アナタは、まだ何も知らなくても良いのです。さぁ〜お乗りください。
アナタの家までお送りします。」
俺は不満気な表情を浮かべながらも、その老人の車へと乗り込んだ。
車内はひっそりとしずまり返っていた。窓には外からの目を避ける為なのか、特殊な
コーティングが施されてる様にも見えた。
<なんと殺風景なんだろう。ここから見える景色は、なんだか獄中の生活と何も変わらない気がする。>
そして・・・。
やがて自宅へ到着する。この場に立つのは、何か月ぶりだろうかっ・・・。
果たしてそれ以上、何年ぶりなのだろうか・・・。
それすらも俺の中では、すでにカウント出来なくなっていた。
家賃を引き落としにして置いた事もあり、この部屋だけはしっかりと残っていたのだ。
しかし貯金の殆どが引き落としされていて、もう残りほんの僅かだ。
これじゃ何もしなくても、以前と全く変わらないっ。
しかしもう過ぎてしまった過去には、引き返す事等出来やしね〜っ。
何を後悔しようとも、もう戻れないんだ・・・。
<俺はすでに、落ちる所まで落ちたっ。これは自分を愛しすぎた罰だとでも、言いたいのだろうかっ。>
そして俺は暗く闇に落ちた部屋の中で全く動きだせず、地の底を這う様にひとりもがき苦しんでいた。
もうこの部屋には、絶望しか残っていないのだろうかっ。




