Story10「裏切りとトキメキ」
人は悪魔に成り切れるのか?そんな迷いの中、
たった一つの裏切りによって、
どんどん心の中を掻き乱されてゆく純。
彼の心はこのまま崩れ去ってくのだろうか?
それとも・・・。
最近気持が少しばかりだが、楽になった気がする。なぜなら日々の恐れも又
不安感も俺自身の中で、随分薄らぎ始めていたからだとそれを心の中で確信していた。
悠々と楽しい人生の真っ只中にいて、尚且つ3人からは常に感謝されている立場。
俺はまるで、神の様な存在だっ!そんな自分勝手な確信にも、今ではもう揺らぎすら
感じない。有頂天の中にいて決して止まったりはしない。この幸せは永遠に終わらないっ。
ある意味、そんなカルト的な俺自身に、時々は恐れを感じていたとしても、それ以上
の喜びの方が大きかったからっ。
あれから約一年が経った。今でも変わらない生活を続けている俺達。
周囲は誰も、俺になんかに興味すら持たないっ。それがこんな形で生きるとは夢にも
思ってもみなかったぜっ。
それに俺は、今の生活に全く持って不満はないっ。とそんな、平穏な日々を送って
いるさなかの事・・・突然大きな問題が、勃発してしまったのだ。
ドニーとティオが元来た船に乗って、何も言わず勝手に国へ帰ってしまったのだっ。
しかも、俺の有金を殆ど持ってっ・・・。
<困った事になってしまった。俺はもう人を信用なんてしないと誓ったのに
こんな形で又もや裏切られるだなんて、俺はてんでお人良しだとでも言いたいのかっ。>
俺のダイスは、又振り出しへと戻されてしまったのだ。
<ちくしょ〜っ。ムカついて眠れやしないっ!折角ここまで築き上げて来たモノが全て
水の泡になっちまったじゃね〜かっ。アイツらだけは絶対に許さね〜っ。>
それでも矢張りまだ、俺の人生が終わった訳ではないっ。又やり直せば良いだけじゃね〜かっ。
今迄現に、こうやってここまでやって来られたんだからっ、何っ簡単な事さっ。
そんな俺を、傍で黙って見詰めるだけのジョー・・・。
しかしそれは俺に対する憐みなのか、それとも心配なのかはハッキリとは解らないけれど、
唯そんなジョーの姿をを見ていると、身勝手ながらにも沸々と込み上げて来た怒りを俺は
抑えられなかったのだ。
純「おおいっ、ジョー。」
ジョー「はいっ」
純「オマエも遅かれ早かれ、俺の事を裏切るんじゃね〜のかっ?
いやっ、絶対っそうに決まってるっ。」
ジョー「いいえ・・・そんなつもりではっ。」
純「解ったっ、もう何も言うなっ。オマエの言いたくない事も企みも全てお見通しさっ。
身勝手な俺なんかにずっと扱使われて来た事に対し、オマエが不満を感じない訳など毛頭ないだろう。」
ジョー「いいえっ・・・。」
これも全部、いつかはジョーに裏切られる。そんな気持ちが、常に俺の心の中を掻き乱し続
けて来たせいなのだろうかっ。そしてついに俺は決意を決めたっ。そうなんだっ俺は到底完全
な悪魔には、成りきれやしなかったっ。いっそこのまま裏切られる前に、ジョーを自由にしてやろう。
そう思って、ジョーにきちん話を付ける決意をした。そしてその夜・・・。
純「ジョー話があるんだっ。少し付き合ってくれないかっ!」
俺はジョーの部屋の前で静かに語りかけた。そうするとジョーは、部屋のドアを開けて
出て来た。
純「突然で悪いと思ってはいるが、もうオマエの滞在日数も優に越えているし、このまま
じゃ何れはオマエ自身も追われる身となるだろう。そのうちここも嗅ぎつけられて見つかっち
まう可能性だって否定出来ないっ。だから今月一杯で国へ帰って欲しい。本当に身勝手で申し訳ない
とは思っているんだけれどっ、もう俺には成すすべもなく、これから又何か事を起こすにも、疲れち
まったんだっ。なっ解ってくれよっ・・・。
最後にオマエが無事に帰れる手筈だけは、してやれる目途は付いているんだっ。だからさっ
今のうち頼むっ、言う事を聞いて帰ってくれっ。」
ジョーはしばらく黙ったまま、俺に背を向け何かを考え込んでいる様だった。
しょうがないっ、これが最後に俺からジョーにしてやれる精一杯の事なんだからっ。
そんな事を心の何処かで考えながら、俺はジョーの返事を待っていた・・・。
とその時・・・。
ジョー「アナタを、決して裏切りはしません。何故なら他の人達とは
違うからです・・・。」
純「なぜそんな、確証もない事が言えんだよっ。もしかして
俺を馬鹿にでもしているのかっ!」
ジョー「いいえっ」
純「じゃ〜聞くけど、オマエが俺を裏切らないと言う確証でもあったら
それを見せてくれよっ!でないと、何も信じる訳にはいかね〜んだよっ。」
ジョー「はいっ」
そう言って俺に近寄って来たジョーはっ・・・。
ジョー「純さん、アナタの事を愛しているからっ。」
純「ええ〜っ?ちょっと待ってくれっ、行き成り何を言い出すんだよっ・・・。」
ジョー「だから、アナタを好きになってしまったんです。」
そう言って俺の胸に飛び込んで来たジョー。一体・・・なにがなんだかどうなってんだっ。
今何が起こってんだっ。俺は状況を把握出来ないままっ、その場にただ立ち尽くす事しか出来なかった。




