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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イブの話

作者: 脩由

令和 12月1日 うちのウサギのイブが天国に行きました。大切な家族です。

本当に良い思い出しかありません。


ここに私の懺悔とこれからの新たな決意を綴りました。


彼女が残してくれた大切な思い出を胸に、忘れないように記載させていただきたく思います。


コロナの中で自分だけ痛みだけではなく、他人を思いやれる心が広がりますように。

 出会いと別れは唐突である。


 8才の少女と12才の少年は両親に動物が飼いたいと願った。

 話し合いの結果、クリスマスのプレゼントとして買うことになり、ペットショップへと家族で向かった。

 嫁は乗り気ではなく、始めてペットを買う(飼う)事に戸惑いを覚えていた。

 

 飼育は3人でやること。


 これが嫁の条件だった。

 

 始めに店員から見せられたのは白いウサギで目が赤く、理想のウサギだった。

 しかし、店員が体調点検するとどうもよろしくないような話だった。

 次に見せられたのは凄く大人しい茶色いのネザーランドドワーフの女の子だった。

 背中にハートの形をした毛並みに惹かれた。

 この子なら大丈夫と店員も進めてくれて、飼育に必要な物は一式揃えた。

 

 迎え入れた新しい家族。

 興奮した兄妹。

 たが父親は知っていた。

 別れがいつか来ることを。

 

 父親は覚悟を決めて、これからの飼育料金などを計算しながら家に連れ帰る。

 冬の時期に子供のウサギでは胃腸が弱く寒さに耐えられないので暖かい部屋の環境に置くことにした。柵を買いその中だけで遊ばせる。


 家の中は危険な物だらけだ。

 

 何でも興味を持つ小さなウサギでは、誤った物を口にするかもしれない。過保護までに育てた。


 そして、彼女はいつからかお嬢になった。


 抱っこされるのは自分が機嫌がいいときだけ。

 帰ってきたら挨拶しろと顔を覗かせる。

 嫌いな物はニンジン。好きな物はパパイヤのペレット。


 うさぎ特有の性質もあると思うが非常にキレイ好きで自分のトイレでしかポロポロう○ちをしない。


 2年目を迎えてようやく大きな場所に移されてゲージも広くなった。

 隠れ家もでき悪さも覚えてていく。


 見ていて可愛い娘。

 もう彼女は家族になっていた。


 そばにいて当たり前。


 あの始めは飼うことを渋っていた嫁でさえメロメロだった。

 そんなときに父親に癌が見つかる。


 働くのを制限されていく中で、経済的に苦しくなっていく。

 父親はイブと名付けられた小さな家族を必死で守ろうとした。

 勿論家族全員を守ろうと父親は色々考えた。


 癌の摘出手術も終わったが、胸の痛みだけはどうしても取れずイブの前で痛みから父親は嗚咽を漏らした。

 何度、言葉のない慰めに助けられたか分からない。


 3年目。


 仕事の出来ない身体になった父親。

 痛みとの戦いで、嫁にもイブの世話を手伝って貰う。

 始めに約束内容とは違うが、どうしようもなくそれでも文句もなく嫁には感謝の言葉しかない。


 それはある日の事だった。


 夏。


 急にイブが身体を震わせながら部屋中を駆け回ったのだ。

 

 隅っこに移動して出てこなくなり、無理やり引き出した。外見には特に異常はなく、血尿もなかった。

 夏に出てくる例のあの黒光りする虫を見て驚いたのかもしれない。


 そう思ったのが間違いだった。


 この頃に病院へ行っていれば何か違ったのかもしれない。


 しかし、お金がない。

 お金の話ではないのだが、家族で食べていくので精一杯。

 心配だった。本当に。

 少年から青年に変わりつつある息子も気にかけていた。


 取り上えず、イブの部屋をキレイに片付ける。

 出てきたのは、なにか虫の卵らしき物だった。


 嫌な予感しかしない。

 

 彼女の事を注意深く見ていていくしかなった。


 いつも道理の日常。


 4年目。


 冬になり暖房として動物用のヒーターを設置。

 11月に入り父親は偏頭痛に悩まされる。神経を弄られたような痛みとの戦い。

 イブにかまってあげられる時間がなかった。


 異変に気がついたのは息子だった。

 イブの異常に低い体温。


 すぐに動物病院へ向かった。

 お嬢はもう手遅れだった。


 山場を迎えるのは2~3日と言う事だった。

 まだ生きている彼女を暖めてあげる事しか出来ない。

 体力もなく手術も出来ない。父親はおなかの痛みで震える彼女をひたすらさすった。

 朝を迎えて、すぐに病院に連れていく。


 点滴をしてもらい、連れて帰る。

 父親は覚悟をした。


 が、覚悟をし足りなかった。怖くて怖くて仕方なかった。


 いなくなるのかと。


 この子が何か悪い事をしたのかと神様に問いたい。

 午後7時頃にひきつけをお越し始め7時25分、娘は天に旅立っていった。


 4年間と言う短い間だったが沢山の無償の愛をくれたお嬢様。


 わがままばかり。でも時には優しくいとおしい娘。


 手に残る彼女の痛み。

 父親は覚悟を決めた瞬間からずっと手でイブのお腹をさすった。

 何故もっと安らかな死を叶えてあげられなかったのか。

 それだけが心残りだった。


 家族会議で兄妹はまだ一緒にいることを決めて、彼女の遺骨が入ったペンダントを手にすることにした。

 父親は耐えられなかった。

 もし自分も娘の遺骨が入ったペンダントを手にしてしまったら、泣き続ける自信がある。

 目も痛いぐらいに泣いた。

 それでもまだ涙は枯れない。


 父親の最後のお別れは家の中で行い、火葬には持っていく事が出来なかった。

 もし持って火葬の方に会えば、そのまま火葬をキャンセルして家に連れて帰ると言い出しそうだったから。


 父親の両親はもうすでに他界している。

 勿論火葬場にて手を合わせ涙したが、イブほどではない。

 親不孝な息子である。

 

 それぐらい愛情を注いでいたと気がついた。

 

 両親には悪いが、イブのほうがいとおしくてたまらない。

 まさか自分が飼うことを望んだ訳でもない、ただ子供達の将来の糧になればと飼うことを決めたうさぎにどれだけ愛を注いでいたのか。


 遺骨になって帰ってきた娘にもう泣かないと誓うがまだその誓いは叶いそうにない。


 しかし、この誓いは必ず決着を着けなければならない。何故ならお嬢様はそんな事を俺に望んでいないのだから。

 


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