蘇生の炎
カトルことシルヴェトール視点
2日振りに時間が取れたので、ランの所に行こうと思う、どんな話をしようか、どんな悪戯をしようか、今から楽しみだ。
グレンにまたがり道を駆ける、グレンはセキトバという東方に住む魔法動物で以前王都で暴走したのをランと二人で鎮めたのだ、その後飼い主がもう飼いたくないとの事で俺が買い取ったのだ。
王都の外れから約10分程、ランの家、魔法動物診療所に到着した。
中に入るとそこは受付になっていて、ランがばっちゃんと呼ぶ老婆が座ってる。
「いらっしゃいってあんたか、依頼じゃないなら帰んな」
「ハハッ、ランはいるかい?」
「…東の森に行ったよ」
「ありがとうございます、それでは」
礼をして診療所を出る。
東の森か…薬草でも採りに行ったのだろうか、奇獣の件に関わって欲しくないが森に立ち入らない様に何とか言えないかな、そんな事を考えていると森からアルブスの甲高い鳴き声が聞こえて来る。
其れは悲鳴の様だった、嫌な予感がする。
グレンに跨がり指示を出す。
「グレン!飛ばせ!」
グレンは力強く嘶き走り出す、何事も無いと良いのだが。
1分程で森の入り口に着く、歩くとそれなりの距離なのだがやはりグレンは有能だ。
急いで鳴き声がした方に向かう、そこには想定していた中で最悪の状況が広がっていた。
ランが、ランが奇獣識別コード-アルファにその首を噛まれ鮮血が飛び散り、上空から助けようとしているアルブスに尾の蛇が炎を吹きかけている。
ブツリッと何かが千切れる様な音がした。
「グラァァァァァァァァァ!!!」
多重で魔法を発動させる、火、水、風、地、光、それぞれ俺に適性が有る属性の5級の威力だ、奇獣アルファは後方へと吹き飛ばす、カエルとヒョウ、ヘビの頭の全てをえぐりぼろぼろの胴体だけになっても立ち上がり再生し始める憎らしい奇獣、だがランから遠ざけられた。
「死ねよ、ゴミ屑が」
俺の背後に現れるのはフェニックス様、勿論本物ではなく、加護を与えられている者だけが出現させられる分身と言った所か、兎も角無限に再生する奇獣を倒す術は俺にはこれしか無い。
「塵も残さねぇ!消えろ!」
フェニックス様の分身は燃え上がりアルファの方に飛んでいく、アルファにぶつかり眩い赤い閃光となり天にの届きそうな程の火柱をあげる、残ったのは円柱状に地下深くまで続くクレーターのみ。
「ラン!!」
ランの元に駆け寄る、アルブスとシーフフォックスも近づいて来て心配そうに声を上げている。
まだ息はある様だが時間の問題だ、どうする、どうすればいい!!そうだ、診療所にポーションはないか?いや、魔力が高い程ポーションや回復魔法は効きにくくなる、平均的に魔力の高い魔法動物を治療する診療所には無いのでは?彼女を助ける方法が有るとすれば…
「グレン!!」
ランを抱えグレンに飛び乗る、そのまま走り出す。
「グレン、行けるか?」
グレンは当然だと言うように強く嘶く。
「アルブス、ジゼル殿を王都に連れてきてくれ!」
アルブスは一鳴きして飛び立った、俺はそれを見届けてつつグレンに赤く神々しい炎を流す、フェニックス様の加護の力で自分の配下の能力を大幅に上昇させる力だ。
「行くぞ!!」
掛け声と共にグレンの蹄から炎が噴き出て加速する、その一歩一歩が大地にヒビを入れる、速さで振り落とされそうだ、行きは10分程かかった道のりを2分程で走破する、ランの首に空いた穴からヒューヒューと息が漏れる、大丈夫だ、きっと大丈夫だ必ず間に合う、、目的地は王宮だ。
「道を開けろ!!」
街中を速度を落とさず駆け抜ける、人を何人も引いて行ったが、俺は王族らしく皆を気に掛ける事ができる様な大した人間では無い、結局俺は自分と自分の大事なものしか気に掛けられないゴミなんだ、今はランさえ助かれば他はどうでも良い。
王宮に到着した、近衛に止められるが魔法で吹き飛ばして進む、西の館に着くとグレンから降りてランを抱え中に入る。
「兄上!兄上!助けて下さい!」
「どうした、シルヴェトールよ我に要でもあるのか?」
現れたのは俺と同じ赤髪に黄金の瞳を持つ上背の高い男ただし髪は長髪で複雑に結われている。
フェニックス様の加護の中には蘇生の炎と言うものがある、加護を与えられている者の中でもフェニックス様に認められた者しか使えない。
「兄上!!ランに、この娘にフェニックス様の蘇生の炎を!どんな対価も払います!」
「…良かろう、二言は無いな?」
「はい」
兄上、ジークフリート-フィシオゴロスの手から黄金の炎が溢れ、ランの体を包む。
見る見るうちにランの傷が回復していく、ほぼ瀕死であったのが嘘であるかの様に。
俺にも使えれば…
「終わったぞ、暫く目覚めないだろうが命に別状はない」
「ありがとうございます兄上」
深く頭を下げる。
「この娘はジゼル-シャルダン殿の養い子だろう、ヴァッサル上位公爵に引き込み工作を頼んでいたのだが必要なさそうだ」
「なっ!彼女を巻き込むのは!」
「対価を払うのがお前だとは言われていない、それとお前にも払って貰うぞ」
「俺は何でもしますが、ランを巻き込むのは!」
「お前はここに来るまでに街中を魔法動物に乗り全速力で駆けたそうじゃないか、赤い馬に引かれ死人も出ているらしいじゃないか、今回は我が揉み消す、しかし王族とは個の為ではなく集団の為に動く''物''だ、お前の所業は王族の行いか?隠棲して国の為と言いつつコソコソするのも辞めたらどうだ?」
返す言葉も無い…さっきはラン以外はどうでも良いと住民を引いていった、王族の役目を果たさず隠棲して有能な幼馴染み、部下たちを無駄にしている、奇獣の件も騎士団に任せていればこんな事にはならなかったかも知れない。
「分かりました…」
ランは醜い貴族社会に飲まれ、俺は表舞台に戻る事になるだろう。
俺は本当にダメな奴だな。




