誰でもかんたん!お料理教室
「当面は手ずから調理したものを、自分で食べれば問題ないだろう。ボスは、他者から提供されたものを警戒せよと言っただけだ。」
詳細を聞いたネモは、そうロコトに言った。
「ああ。」
そういえば、とネモ以外の三者は初めてそれに気づく。
無理もない。飲食をしなくとも死なない身ゆえに、「じゃあ食べなければいいじゃん」と考えるのが普通だったのだ。
ネモは、食堂の調理場を見る。
飲食するものもいないので、調理担当もいなくなっている。
恐らくはみな、待機場にいるのだろう。比較的戦闘向きでないものが、調理場には詰めていたのだ。暫くは皆、サポート役で派遣業務にあたることだろう。
「ここは食堂だ、材料なら申し分ないほどあるだろう。ロコト、お前料理の経験は。」
ネモにそう聞かれ、記憶を掘り返すロコト。
「研修のときにデータだけは。着任以後は、シネンセに任せていたので実技に関してはカラキシです。」
「そうか。では、ホットケーキミックスでクッキーを作るくらいなら大丈夫だろう。混ぜて伸ばして、型ぬいて焼くだけだ。来なさい、教えてやる。ああ、チョコチップなどの既製品はないから、全部プレーンになってしまうが。」
ちなみに小麦粉や砂糖といった原材料は、検査済みなので安心してご使用いただける。警戒すべきは、調理人や提供者である。
「構いませんよ、食えるならなんでも。腹に入れば、みな同じです。」
「ケーキ職人が聞いたら、ブチギレそうな台詞だな。粉でも食ってろと、言われたことはないか。」
「先程、空腹に耐えかねて小麦を食べようとはしていましたよ。」
ネモの言に、シネンセが答える。
「生で?」
「生で。」
シネンセは首を縦に振りながら、応答した。
「小麦の粉は、しっかりと消毒されているわけではないから絶対に生では食べないように。腹を壊す。」
調理場に置いてあった青いエプロンを着用しながら、ネモは言う。
ロコトは調理場の戸棚を漁り、ホットケーキミックスを探していた。
「生体でもロコトは、腹など壊さないような気がしますけど。」
前のカウンターに座り、調理場をのぞき込みながらシネンセがそれに応えた。彼女は、調理に不参加のようである。
食べ物よりもお酒が欲しい、と彼女は密かに思っていた。
ロコトほど渇望しているわけではないので、声には出さない。
イトーは、といえば休養が必要であろうと食堂の長椅子で寝ていた。
寄り添うように、セロがその隣に伏している。
「否定はしないがね。腹痛で死ぬ可能性も、ないわけではない。我らが生体でなかろうとも、ヤバいものを口にすれば何が起こるかわからないということは覚えておけ。」
「うっす。」
ようやく見つけたのだろう、ホットケーキミックスを手にしてロコトが応えた。
結局粉を五袋ほど消費して、百枚程度作成できた。
そのすべてが、ロコトの胃袋へと消えたのである。
「総評として手際が良かったな。元来、器用なのだろう。」
エプロンをたたみながら、ネモはそう評した。ロコトは心なしか、嬉しそうである。
はじめて母親の手伝いをして、褒められた子のようだ。
「これからは腹が減ったら、自分で作れ。」
「姉上の方が、味は良かったですよ。」
お前は、作るのが面倒くさいだけだろう。
腹に入れば、みな同じです (´-uー`)
(#°Д°)=○)Д`)




