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原作を改変したら殺されます  作者: 葵陽
五ノ章 目次
71/98

※この作品の登場人物は九割がた偽名です

客間の娘は最初、お嬢さまとお呼びするのが適当な娘だと思った。


客間に待機させていた遣い、白サモエドの方がリビングルームにあたしを呼びに来たのでもうひとりの娘、アンも連れて客間である和室へ行く。

アンという娘は、気丈なように見えて実のところ小心者。そして、ひとを信じやすい気質にあるようだ。さぞや、良い人間に囲まれて育ったのだろう。他人に騙されたことがないのだ。あたしは謀ったつもりもなく真実を話したが、それでも初対面のあたしの言を信ずるには早計過ぎる。優しい、と言えば聞こえはいいが。


 

その娘は、おっさんにも負けないくらいに(いびき)をかいて客間に寝ていた。肥満体や持病持ちというわけでもなさそうなので、多分相当疲労しているせいなのだろう。

アンなどは娘の鼾に驚愕して、襖の側で突っ立っていた。

念のために診察をするが、特に外傷もない。ぐっすりと眠っているだけだ。

此処が仮想空間でも、五感や身体的特徴を忠実に再現しているため疲労や筋肉痛もいくらかは、反映されてしまう。

もちろん実際の肉体にも、少なからず影響してくる。仮想空間だからといって、過度な運動やストレスを受けてしまえば命にもかかわるのだ。

だから必ず、処方や被験は本人か家族の合意を得て、医者が付き添い行われる。

『疲れない、病気にかからない、めったなことでは死なない』。そんなうたい文句でブラック企業どもに計画を売り込もうとした研究者(ぶたやろう)がいたのだが、即刻クビを切られた。

電脳空間で仕事をさせていたとしても、過度に労働させたら死んでしまうのは同じだ。

やはりこの国の老年の大半は若者を、モノとしか見ていないのだろうな。若者の自殺者率が高いのも、頷けるというものだ。あんなおっさんどもに使いつぶしにさせられるくらいなら、自決した方がマシだと思うのだろう。

あたしは自決に反対、ではある。

自決したい人間を、止められるほどの正義面はしていない。でもあたしはあたしが大切だと思うから、他人にも自分を大切にしてほしい。死んだら辛いこともなくなるだろうけど、楽しいこともなくなってしまうではないか。それはあまりにも、あまりにも損だ。漫画、小説、映画、音楽、研究、玩具、世の中には楽しいことはたくさんあるのだから。


漫画一冊読んでから、音楽一曲聞いてからでも、遅くはないじゃない。


ちなみにあたしのオススメは、宇宙映像を見ることだ。地球にいる人間全員がちんけなゴミムシに思えてくるから、スッキリする。お前の悩んでいることは、ゴミのようにちんけなんだと思い知らされる。




娘の心音を、聴診器で確認する。規則的なリズムで、ビートを刻んでいた。心拍数、心音ともに正常範囲だ。やはり娘は過度に疲労しているだけだった。

あたしは娘の肩に手を添えて、ゆっくりと揺らした。

「起きや、遅刻するえ。」


ゆらゆらとした振動に、薄ら目を開けるアリス。瞬間、遅刻という言葉を理解したのだろう、ガバリと布団から上半身を起き上がらせる。

「え、遅刻、嘘、今日、期末考査だ。やばい、英語勉強してない!」

起き上がったと思ったら、そんなことを口走る。アリスは未だ、寝ぼけていた。

「お前さんは、英語が苦手か。」

黒衣の女がはなしかけると、アリスは目をぱっちり開いて傍らを見る。

「えー、どなたさまですか。」

暫しの沈黙のあと、アリスは女に訊ねる。


「あたしはミネルバと、とりあえずはお呼び。もちろん偽名だが。」

「あ。アリスと申します。」

もちろん偽名です。


もちろん偽名です (゜∀゜*)ゞ



死んでお終い さようなら

死ぬるは 損と 酒を飲み

死ぬるは 損と 飯を食む

死んでお終い あまりにも

かなしきかな かなしきかな


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