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原作を改変したら殺されます  作者: 葵陽
四ノ章 みかん
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ゆうしゃは ぼうきれ をそうびした

番兵のやっていることが、第三者に称賛されることはない。やっていることは言ってみればただの監視と、殺戮だ。せかいの、物語の未来を守ったとしても、それはそうなるのが当たり前のことであって、誰かに気づかれることもない。

それが詮無いと、誰に訴えれば我らは助けてもらえるのだろうか。どこかのせかいに、受け入れてもらえるのだろうか。



かさかさと、サトーが歩を進めるたびに草の音が鳴る。


ここは森の北側出口、なんなら国境付近だ。目と鼻の先には、白の帝国が見える。白の帝国は国全体が石造りの壁に囲まれていて侵入はもちろんのこと、おいそれと攻め込むことも容易ではなく。国の入り口には鉄製の落とし格子があり、めったに開くこともない。落とし格子の周りには兵士らしきひとが数人、闊歩している。彼らも『番兵』なのだろう。


休戦協定を結んでいてもこの警戒態勢は、気が休まらんだろうに。


おれは持っていた斧を抱え直す。やはりこれは、持ち運びにくい。もっと刀とか小型銃とか、携帯に便利な得物にすれば良かった。


帝国の門兵に気づかれぬうちに、踵を返す。次は、南だ。


哨戒と言っても特に、なにか脅威があったわけではない。ただこのせかいは、『未完』なのである。未完とは結末がわからない、つまり我ら番兵にも未来がわからないということだ。

これは、なかなかの脅威である。このせかいでなにか起こるたびに、我らは対処を講じなくてはならない。他のせかいでは、基本的にその必要はない。いつ、どこで何があって、誰と誰が死んで、その結果何が起こるのか。それらが番兵には全部わかっているのだから、『なにもしなければいい』。全てが番兵の、手の平の上というわけでもないが。

日々何も起きなければ、番兵も楽というものだが物語という性質上『なにも起こらない』おはなしはない。特に此処は、三勢力がにらみ合っていつ大規模な戦争が勃発するかもしれないせかいだ。

常に気を張っていなければ、我らが殺されてしまうという事態にもなりかねない。

番兵は第三者に称賛されることはなく、また第三者に姿を晒してはいけないのだ。それがたとえ死体であっても。



南の国境付近に行く道すがら見覚えのない、花畑を見つける。

ほら、こうやって予想外や想定外のものを見つけてしまう。青い、ちいさな花は地面をきれいに染め上げていた。

もしかすると未だ、このせかいは製作途中なのだろうか。そうなると未完で放置されているよりももっと、厄介極まりない。作者かみさまの気まぐれで、事態は好転も悪変もするわけで。我らにそれを止める術も、権利もない。



ふと、花畑を見つめていると人影が見えた。嫌な感じはない。多分、はなしの表舞台には出てこないモブなのだろう。おれは急いで隠れることもせず、その人影を観察する。あちらは、こちらに気づいてはいない。

六歳くらいの女児がふたり、花を摘んで遊んでいる。それだけ見れば、なんとも微笑ましい女児の遊び風景だろう。特筆すべきは彼女らの、人種だ。ひとりの女児は健康そうな褐色の肌で、もうひとりは我らと似たような黄色い肌をしていた。ひとりは黒の国、ひとりは黄色の民である。そのふたりが、仲良く花畑で遊んでいるのだ。言っておくと白と黒ほどではないが、黒と黄色の仲もよろしいとは言えない。でなければ今頃共同戦線でも張って、白の帝国へ攻め込んでいるだろう。


大人の勝手で国や民族同士は争ってはいるが、こうして遊ぶことは可能なのか。まあ、こどもは戦争と関係ないのだから至極当たり前かとも思う。


おれには戦争というものが、よくわからない。儲かる、というはなしはよく聞くが。


おれが茫然とその場に立ち尽くしていると、突如尻にちいさな衝撃があった。痛くはないが、咄嗟におれは斧を手にして迎撃態勢になる。そのまま振り返ると、棒切れを手にした少年が蒼白顔で突っ立っている。サスペンダーにニッカポッカという、いかにも良いとこの坊ちゃんというイデダチの金髪少年が微振動して立っていた。おれが殺気を出したので怯えている、ということに気づいたのはそのすぐだった。

少年は透きとおるような、白い肌をしていた。彼は白の帝国の、貴族の息子というところだろうか。青い目がとてもきれいで、将来有望株な容姿をしていた。


「なにをしている。」

はなしかけても少年は、微振動するだけでなにも答えない。だが決して、そこを動こうとしなかった。なにかを守っている、のだろうかと思考したときに思い当たるものがひとつあった。

彼はあの女児ふたりを、守っているのだ。

「あのふたりは、友人か。」

そう問えば、少年は口を開かなかったが首をゆっくり縦に振る。


実に、紳士的な行動だ。毅然と、ではなかったが見知らぬ男に棒切れひとつだけ持って立ち向かう姿は。自分で言うのもなんだが、身の丈以上の巨大な斧を携えた身長二メートルの大男に策も無く攻撃するのは、いくらなんでも蛮勇だろう。


「大人は。」

問うと少年は首を横に振る。大人は、同行していない。親に黙って遊びに行くような年頃、と言ってしまえばそうだが。顔面蒼白でおれを襲ってきたところからおそらく三人は、それぞれの種族に黙って遊んでいる。ロミオとジュリエット以上に、緊張したこの状態で。


ほんとに、戦争というのは糞のようなものだ。

子供が自由に遊べないのはどのせかいでも、どの時代でも喜ばしいことではない。



「自由は制限されるべきではない。」

まっすぐに少年の目を見る。少年は未だ怯えていたが、おれの目を見ると落ち着いたようである。微振動は止まっていた。

「だが今はすぐ帰れ。」


命は大事に。

このせかいが製作途中であるならば、あるいは戦争が終結する結末があり得るかもしれない。


命は大事に。 (`・ω・´)

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