他人にやってもらった夏休みの宿題とか
「ああ、能力のはなしに戻るんだが。スキルとか才能とか、そういう目に見えないものを得るにも対価が必要になる。ただより怖いものはない、というやつだ。
ワタリはそういった甘言に弱い傾向があるが、お前さんも気をつけろよ。まず、対価のないスキル譲渡はあり得ない。それを易々とするということは渡した相手にはなにかしら、悪意があるということだ。」
芥は自然な動きでまた、煙草に火を付ける。ふわりと吐き出した紫煙が、湿気る空間に広がって不快指数が増大した。
悪魔はいつも善人の顔をしている、とはよく聞く。
だがぼくは特に、欲しい能力があるわけではない。だからといって騙されないという、自信もない。
「他人の調教した馬に乗ろうとすれば、振り落とされて命を落とすって感じですか。」
「苦労して得たものには値千金があるが、そうでないものにはビタセン一枚の値打ちもないのはわかるだろう。例えば世界中の女にモテる能力を他人から与えられたとして、実際の本人に甲斐性がなければ空しいだけだ。一体あの女たちは何に惹かれて好きになっているのか、と能力を与えられた本人自身が疑問に思うようになる。まあ無自覚なナルシストは、どうかわからんが。
苦労して好きになってもらうから、相手を特別と思えるようになるのだろうよ。
モテる奴ほど恋人を大事にしないというのはまあ、俺の偏見だが覚えておいて損はないぞ、若人。」
「そういえば芥さんは、今年でいくつです。」
「初対面の相手へ明け透けに年齢を聞くお前さんの姿勢、嫌いじゃあないぜ。」
「さすがにぼくでも、女性には聞きませんが。貴方は不明な点が多すぎて、好奇心が。」
芥さんはひとつ煙草を吸い暫し黙ったあと、口を開いた。
「過ぎた好奇心は、九つの命を持つというネコすらも殺すらしい。
俺たち番兵は基本的に、ワタリへ嘘や隠し事をしない。だが番兵に関する個人情報を詮索するのは、あまりおススメしない。番兵によっては答えてくれる優しいやつもいるにはいるが、あまり触れてほしくない部分ではある。俺にとっては逆鱗、というほどでもないが、番兵によっては逆鱗よりもヤバいだろう。そしてほとんどの番兵はワタリを易々と殺すことが出来る、独断即決で。あとは、わかるだろう。」
芥の瞳が、妖しく光った。義眼であるから眼球が動くことはないが、それでも生きた眼のような印象を受ける。
視線を、感じるのだ。まるで上から押さえつけられているような、重い視線。
多分これ、殺意だ。ごく軽い、戯れのようなものだと思うけど。
「少なくともミフネくんよりは無駄に長く生きている、ということは言おうか。だがせかいや時代という空間を超越しているこの現状の場合、『現在』という概念は存在しない。であればいかに、経験を積んでいるかが基準になってくる。
幼子のようにちいさくとも中身はこどもであるとは限らないし反対に、白髭をモサモサにたくわえた老爺が仙人みたいな物知りであるとは言えんのだよ。」
まるで具体的に誰かのことを言っているような、そんな口ぶりだった。
過ぎた好奇心は、九つの命を持つネコすらも殺すらしい。
(=^・ω・^=)ゴロゴロニャーン




