すりおろしリンゴの蜂蜜がけ
ふるえるまぶたを持ち上げて、薄くではあるが目を開く。暖かみのある、橙色に染まった部屋が見えた。暖炉の火が、部屋全体を明るく染めている。
木製の壁。丸太を横に積み上げた、所謂ログハウスのような造りの部屋だった。山小屋、だろうかと第一に思った。窓はあるがカーテンはぴっちりと閉められていて、今が昼なのか夜なのかも分からなかった。
次に視界へ入ったのは先程の、靴の音の主だった。かの人は、暖炉の前で火を調節している。なんら私と変わらない、人型の容姿をしていた。身長は私の方が少しだけ、高そうである。そして、結った髪の長さと丸みを帯びたシルエットから女性のようだ。
助けてくれたのが同性だったことに私はまた、ひそかに安堵したのだった。
女性が、私の方へ身体を向ける。私が目を開けていることに気が付いたようで、ゆっくりと私に近づいてきた。そうして静かに、傍らに置いてあった椅子へ腰かける。
今私が横たわっているのは、彼女の寝具なのだろうか。
女性はヨーロッパ、それも中世あたりのひとたちが着るような服を着ていた。レトロなワンピースと、表現してもよいだろうか。現代日本で着ていると、若干コスプレ感はするものの、奇抜さは感じさせないような、そんな服だった。
髪の毛も目も私と変わらない黒色で、容姿だけで言うならば彼女は「日本人」だった。
「あ、」
私は女性に声をかけようとしたものの、喉がひどく乾燥していたようで、かすれた小さな声しか出せなかった。それでも音として、よく出力できた方である。
そんな蚊の鳴くような声でも女性には届いたのか、彼女は傍らにある木机に手を伸ばした。そこの深い皿に盛ったなにかを匙で掬い、私の口もとまで持ってくる。どろどろとした、薄黄色いそれは食べ物なのだろうか。怖くなって私は、口を閉ざしたままそれを受け入れなかった。
「食べろ。すりおろしたリンゴだ。かかっているのは、ただの蜂蜜だ。」
アルト調のすっきりした声で、しかも流暢な日本語で話しかけられた。おそるおそる、黄色いもののにおいを嗅げばなるほど、リンゴと蜂蜜の甘いにおいが感じられる。
「お前の今の仕事は病と、怪我を治すことだ。他の事は考えるな、食って寝ろ。」
お淑やかそうな見た目に反して、男性口調の女性だ。だがどことなく「母」のような雰囲気を、私は感じたのだった。私の母はちゃんと、女性の口調で話していたのだけど。
甘いにおいに、ほどよく食欲が刺激されたのか私はいつの間にか口を開けてそれを食んでいた。しゃりしゃりという咀嚼音が、口内に響く。
先程までぼにゃりと残っていた頭痛と吐き気は、消えていた。
女性は無表情で匙を差し出して、私にリンゴを与えていた。眉一つ動かない、鉄面皮というやつだろうか。まるで機械のように、規則的に、匙を差し出す彼女。
私が完食したのを見届けると、口周りを手拭いで拭ってくれた。
その時少しだけ、彼女の表情が和らいだ気がした。