あっ、ちがいます
着るのは、実に一年ぶりだったと思う。
スーツにネクタイをしめて、俺はひとり応接室のソファーに座っている。ふわふわ、ふかふかしているので尻が落ち着かない。
面接が苦手だった。
品定めしてくる目、無能を見る目、若者はみんな阿呆だと決めつけてくる目。だから俺は、知らないおっちゃんやおばちゃんが苦手になってしまった。無論、良いひとだってたくさんいたのだけど人事につくような壮年層の大人は皆、ゴミを見る目で俺を見てくるのだった。
おかげで、面接恐怖症になってしまった。ひとが怖い訳じゃあないんだ。『面接官』という人種だけが、嫌いなんだ。
ひとり、過去のことを考えていると応接室のドアが開く音がする。俺は咄嗟に、居住まいを正した。
ちなみに此所がどこなのかは、俺自身わかっていない。ポーターに連れてこられたのはいいが、アイマスクを着けさせられたので場所もわからない。此所が番兵の本部なのか、それともただの借りている会議室なのかさえも。
部屋に入ってきたのは白髪で老齢の男性と、利発そうな小学一年生くらいの男の子だった。
俺は男の子の方を、思わず二度見する。二人ともパリッとしたスーツを着用しているので、関係者だということはわかるが男の子の方は七五三の写真撮影でオメカシしているようにしか見えない。
老齢の男性と並ぶと、まさしく孫とお爺ちゃんだ。
「番兵志望の、ワタリの方ですね。」
「あ、はい。本日はよろしくお願いします。」
老人にはなしかけられ、咄嗟にそう答える。
やはり老人が番兵組織の偉いひと、なのだろうか。
「申し遅れました、わたくしは某と申します。ボスの身の回りのお世話と執務のお手伝いを仰せつかっております。
お気軽にじいや、とお呼びください。」
老人、某さんは恭しく俺に頭を下げる。
じいや、とはとても呼べない。
目の前の衝撃に声も出せなくなるが、某さんがボス、と呼んでいるのは此処にいる「坊や」なのである。
「面接を開始しますね。どうぞ座ってください、ワタリさん。」
その坊やは、にっこりとかわいらしく笑みを浮かべて向かい側のソファーに座る。
「ワタリさんは、派遣部門より研究部門を希望なんですね。今の段階でなにか、聞きたいことはありますか。」
俺よりもはるかにちいさな手で、書類を持つ「ボス」。端から見れば、大人の真似をしているようで実に微笑ましいが、はなす言葉はとても、しっかりとしていた。
「ボスは何歳なんですか。」
「え、御稚児趣味があるのですか。」
「あっちがいます、ちがいます。」
危うく不採用になるところでした。
御稚児趣味があるのですか(´ω`;)




