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第2話 敵襲

「あ、あはは!またまた御冗談を!」

「いいや、冗談などではない。」


 いたってまじめな顔でギルドマスターは続ける。


「ギルドマスターの私も年を取ってしまってのう、この錬金術師ギルドを務めるのもちと不安になってきてな。そこで賢者のお主に頼みたいのじゃ。」

「は、はぁ。ギルドマスターですか…。」


 …どうやら雰囲気的に錬金術師でも位の高いクラスのことを賢者と呼ぶらしい。

 だが、隠し通すわけにもいかない。俺は出身から今までの経緯まで、事情をすべて説明した。


「あ、あの…実はこれ…。」


 ………………。


「ええっ!?じゃあ君はたまたまそのSランクがドロップする首飾りを拾っただけってことですか!?」

 レナーテが驚く。

 それはまぁ、目の前でモンスターを不思議なアイテムに変えていたのを見たレナーテなら驚くのも無理はないだろう。

「そ、そうなんです…。すみません…。」

「…なぜ最初に話してくれなかったんだい?」


 周りの皆は驚いているが、ルーナはいたって普段通りのしゃべり方で問いかける。


「は、話すタイミングを失ってしまって…アハハ。」

「なんということじゃ…。まさか賢者ではなくギルドも所属していない一般人じゃったとは…!」

「ほんとに申し訳ないです…。」


 しばしの沈黙。正直なところもうこの首飾りを置いて逃げたい!

 そう思っているとき、その静寂を破ったのはルーナだった。


「ちょっとその首飾り、見せてくれるかい? 大丈夫、いきなり盗んだりなんかしないさ。」

「あ、この首飾りですか?」


 …そういえば俺もよく見たことがなかったなぁ。

 そのずっしりとした重みのあるフレームから鈍い銀色の光を放っているそれは、不思議な月の紋章を描かれていた。

 俺は首飾りを外し、皆に見せようとした。

 ひょっとしたらこれが何なのか、分かるかもしれない。


「あ…あれ? 外せない!?」

「え?それ外せないんですか?ちょっとそれ貸してください!」


 力ずくでレナーテが外そうとするも、それはただ俺の首を絞めるだけであった。


「ンググ…グルジイ…!」

「あっ!すいません!」


 レナーテがパッと手を離すと、俺はその束縛から解放された。

 こんなに死ぬかと思ったのは久しぶりだ。この人、錬金術師見習いなのに結構怪力だな…。

 うーむ、と少し考えたのちルーナはギルドマスターに話しかけた。


「…ギルドマスター、これはまさか呪いの装備では?」

「ああ、間違いないじゃろうな。」


 ギルドマスターは朗らかな表情から一変、表情を曇らせていた。

 俺は彼女らに質問する。


「…あの、呪われた装備っていうのは、鎧とかが外せなくなるやつですよね?」

「うん、その認識で間違いないよ。」


 ルーナは紅茶を片手に説明を続ける。

 どうやらレナーテも興味津々のようだ。


「よくダンジョンで手に入った古代の装備が呪われていて、教会で解呪してもらうっていう話は聞いたことはあるかい?」

「ああ、よくその話ならギルドでも聞いたことがあります。確かその装備はバラバラになって使えなくなるとか…。」

「その通りじゃ。つまりその首飾りの効力を生かすとなると…お主とその首飾りは一心同体ということじゃな。」


 …なるほど。つまりこの首飾りを外すために解呪するとなると効力はなくなっちゃうのか。

 ってことは俺はこの妙に重たいコイツを付けたまま生活しなきゃいけないってことか!?


 俺には荷が重すぎる…。いろんな意味で。


「となると、ほかのギルドに情報が入っているとなるとまずいね…特に奴らには知られたくないね。」

「奴ら、ですか?」

「ああ、ちょっとした問題をうちが抱えていてね。」


 俺はルーナに質問する。

 先ほど話していた敵対ギルドだろうか。

 

「実は私たちの錬金術にはほとんど高価なアクセサリーや宝石の類を利用して錬金していてね。…それでうちの物資を強奪しようとしている盗賊ギルドがいるんだ。」

「…そんな盗賊ギルド、本当にあるんですか!?」


 ルーナの代わりにレナーテが答えた。

 今までの明るい雰囲気を残しつつ、少し暗い雰囲気で口を開いた。


「うん、書類上は傭兵ギルドらしいんだけどね…。裏でそういう家業をしているギルドも多くないんだって。」

「…じゃあ俺がそいつらに襲われるとまずいってこと?」

「ああ、残念だけどうちのギルドのように歓迎はされないよ。奴ら、きっと首を切ってでもあんたの首飾りを盗もうとするだろうさ。」

「く、首っ!?」


 予想以上にまずいことになった…!

 超楽してギルドマスターになったぜ!って思ってだけなのにまさか最悪命を取られることになるとは。

 これからは、あまり人目につかないように行動するべきか。


 そして、この暗い雰囲気を破ったのは衛兵のドアの開ける音だった。


「ギルドマスター!ルーナ様もいらっしゃいましたか!」

「どうしたんだい?今はお客様の前だよ。」


 ルーナはいたって冷静に答える。


「はっ、大変申し訳ございません。」と正気を取り戻すと、衛兵は急ぐように告げた。


「敵襲です、ルーナ様。敵兵はおよそ数百人程度かと。」

「数百人だって?…さては奴ら、もうこの情報を聞きつけたんだね。」

「数百人って…だ、大丈夫なんですか!?」


 いまいち現実感のない状況に、俺は驚愕した。

 まさにピリピリとした雰囲気がこちらにも伝わってくる。


「皆さん、外です!外を見てください!」

「外…?」


 俺は恐る恐る窓を覗いた。

 そこには先ほどの衛兵が伝えた通り、屋敷の防壁の周りを数百人の蛮族が囲んでいた。


 な、なんだこれ…。皆、この首飾りを目当てに…?


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