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プロローグ 俺が外へ出る理由

「エル、お前さてはまた仕事もせず遊んでるな。」

「いきなり部屋入ってきてなんだよ、俺はギルドの外出ないで仕事する方法を探してるんだ。」


 俺の名前はエル。

 ここのギルド「プレゼンス・オブ・バーサーカーズ」に努める最低ランクの一応”冒険者”だ。

 昔はよく外に出てはモンスターを狩りに行っては少なからず功績をあげていたが、もうそれも2年の月日が流れようとしている。今ではすっかりギルドの自室に引きこもっては昼寝ばかりしている生活をおくっている。


 そして今ここで怒鳴り散らしている図体のデカい男こそ、このギルドを仕切っているギルドマスター「ディアス・レイモンド」だ。力ばかりは強力で力の強さSランク、頭の強さGランクってとこだ。


「もうお前のくだらん理由は聞き飽きた!」


 そういうとディアスは俺の机に一つの書類をバンッと叩きつけた。


「え?なんだよこの書類。」


「中を見てみろ。」とだけ言うと俺の部屋から出て行ってしまった。


「…一体何だっていうんだ。」


 面倒だが、ディアスのことだ。どうせ封を開けないとまたひどい目にあうだろう。

 俺は封を開けた。


「え~となになに…ってこれは!ギルド退職通知…!?」


 …なんだこれは!偽物なんかじゃない、ちゃんとした書類のしるしに魔力の印が込められている。これはこの街の役所でしか発行できない特殊な印だ。

 俺はおそるおそる文書に目を通した。


「エル・シラトゥス殿。貴殿は当ギルド『プレゼンス・オブ・バーサーカーズ』就業条約第4条により退職を迎えられますので、ご通知申し上げます…」


 俺は考えるより先にディアスの部屋を訪れていた。

 ディアスの部屋は2階にある突き当りの部屋だ。廊下で話し込んでいる複数人のグループを突っ切ると、勢いよくに部屋のドアを開けた。


「おいっ!ディアス! なんだよ退職通知って!しかも退職日明日じゃねーか!」

「なんだよって…。そりゃあ退職する前に届く通知だぞ。」

「そうじゃない! どうして俺がやめることになってるんだって話だよ!」


 イライラしながらも俺は問いかけた。


「それはギルドの皆で考えたことだ。 ギルド内最低ランク、最後に倒したモンスターは数年前、ギルド維持費用無払い。いったい誰がお前を養うっていうんだ。」

「うっ…。それはまぁそうだけど…。 ほら、俺も一応働こうとしてたし…な?ディアス、頼むよ。」

「駄目だ。お前をこれ以上ここに置いていけない。それに…。」


 ディアスは一瞬暗い表情を浮かべた。


「…うちのギルドは今金銭面でもカツカツなんだ。皆でやりくりするのが精いっぱいなんだ。 …その、本当にすまないと思っている。」

「そ、そう言われると反抗できないじゃねーかよ…。」


 薄々は感づいていたが、うちのギルドは毎年赤字だっていう話をちょくちょく耳にする。

 聞いていないふりをしていたが、おそらく誰もが知っていたことだ。俺もまさかここで直接その話を聞くことになるとは思っていもいなかった。


「今すぐとは言わない。明日の朝までに荷物をまとめておけ。」

「そ、そんなぁ。」


 俺はじゃあ明日から、無職だっていうのか!?

 突然のことでまったく信じられない。ディアスの部屋のドアを閉じると、俺は先ほどの勢いとは逆にとぼとぼと自室へと歩き始めた。


「一体明日からどうなっちゃうんだよ…」


 長いため息をつくと、ベットに寝ころび天上を見上げた。


「もうこの天井も見ることもないんだろうなぁ。」


 古くなった天上。昔この天上の木目をよく数えてたっけ。

 そんな昔のことを思い出していると、疲れからか、まぶたが重くなってきた。

 今日はもう何も考えられない。俺はそのまま眠りに落ちた…。



 ☆ ☆ ☆ ☆



「今までお世話になりました…。」


 俺は数少ない荷物をまとめ、ギルドメンバーに挨拶していた。

 中には俺なんかに元気でね、と声をかけてくれるメンバーもいたがほとんどはギルドの穀潰しが一人減った、くらいにしか思ってないだろう。


 俺はそんなギルドメンバーを背後に、行く当てもなく歩き出した。

 持っている所持金はディアスから貰った100ゴールドだけ…。これじゃもって1日だろう。


「はぁ。これからどうしよう。腹減ったなぁ。」


 ぐ~っと大きな音を立てるお腹とは反比例して、所持金は少ない。

 この街、イズーリア王国には専門職のギルドから高級宿屋まで幅広く街に展開されており、資格(スキル)が必要な職やギルドばかり。俺なんかのクソザコニートを雇ってくれるところはなかった。


 とりあえず、隣の交易都市アーデンへ向かうことにした。

 そこなら人の出入りは多いし、きっと誰かが助けてくれるだろう。


「だけど、アーデンまで10km先かぁ。馬車を雇う金もないし…。歩くしかないか。」


 とは言ったものの、アーデンまでの道のりは獣道を通ることになる。モンスターと遭遇するのは間違いないだろう。

 護身用として数年前に買ったほぼ新品の短剣を腰に装備しているが、腕のほうはあまり自信がない。モンスターと遭遇したら逃げることも考えなくては…。


「って、いきなり遭遇するのかよ!」


 現れたのは緑色のつやつやした最弱スライムだった。

 普段なら倒す価値もないので無視するレベルだが、ゴールドや金品をドロップするかもしれない。

 生活に追われている今、選択肢は一つだった。


「はぁ…。脅かせやがって。 まさかこんな最弱スライムを狩ることになるなんてな。」


 ふんっ!と短剣を一振りするとスライムは真っ二つに裂け、分裂してどこかへ逃げていった。

 粘液にまみれたスライムがいた跡に何か落ちている…。


「あっ。あれは金貨の袋!?」


 ボロボロだが、ずっしりとした重量感がある。 

 俺は飢えた獣のように袋に飛びつくと中を確認した。


「…嘘だろ。5ゴールドしか入ってないじゃん。」


 俺はあからさまにがっくりした。5Gってお前…。

 中身をすべて取り出すと重量感の正体である月の紋章をかたどった錆びたネックレスが5Gと一緒に入っていた。

 触れば手に錆がつき、今にもバラバラになりそうである。作りこそ繊細ではあるが、素人の俺でもわかる、これは売れない。


「なんだこれ。これじゃ骨とう品屋にも売れないよ。 はぁ、戦い損かぁ。」


 俺は何となくそのネックレスを身に着けた。

 これで能力値が上がって世界最強!?

 …とはならないか。


 だが、一息つく暇もなく、先ほどの分裂したスライムが仲間を呼んできた。ぱっと見10体程度だ。

 俺は先ほどの金貨の件も含め、だんだんイライラしていた。


「あーもう!もうめんどくさいなぁ!」


 俺は再び短剣を装備した。


「だ・か・ら!」

「いくらかかってこようと!」

「無駄だっての!」


 次々と襲い掛かるスライムを一刀両断していく。

 俺の実力を見誤ったのか、恐れをなしたスライムが次々と森へ逃げかえっていた。


「はぁ、どうせ大したもんもドロップしないんだからもう出てくるなよ…。ん?」


 俺は違和感を覚えた。視界には先ほど倒した数十体のスライム全員から明らかに魔力を宿しているアクセサリーややSランク級の錬金素材などがドロップしている。


「あれ…。俺疲れてるのかな。アハハ…。」


 俺は目をごしごしとこするが、目の前の風景は変わらなかった。

 スライムが最高ランクのSランクアイテムをドロップするなんて聞いたことがない…。


 恐る恐る今まで触れたことのないSランクアイテムを手に取ると、そこには確かにSランクの輝きを放つアイテムがあった。幻覚でも幻術でもない。本物だ…!

 これさえあれば1週間、いや、1か月は高級リゾートで遊べるほどの価値だぞ!


「ま、まさかこれって…。 お前のおかげなのか?」


 俺は身に着けているネックレスをもう一度確認した。

 なんの変哲もないボロボロのアクセサリーは相も変わらず鈍い太陽光を反射している。


「つまり…これさえあれば俺は常に最高ランクのアイテムが手に入るってことか!?」


 要するに、これさえあれば夢の大富豪にだって、能力値がプラスになるSランクアイテムも装備すれば政治家にだってなれる…!


 実感がいまだにわかないが、俺は早速一つ思いついたことがあった。

 昔から思いつきは早いほうなのだ。俺のやりたいことは大富豪でも政治家でもない。それは…


「これを使って世界最強のギルドを創立して、俺は奴ら『プレゼンス・オブ・バーサーカーズ』を見返してやる!」


 そうだ。これで俺は超大型の世界最強ギルドを作って俺を追い出した奴らを見返してやる。

 世界を牛耳るのは後でもいいだろう。今はたった今作られた一つの目標のため進むつもりだ。

 俺を追い出した奴らをどうしようか、森の中央で金貨を手にしながら考えていた。


「とりあえず、世界最強のギルド名は…」

「あの…す、すみません!」

「おわぁっ!?」


 気配もなく後ろに立っていたのは俺より若干年下だろうか。

 大きな瞳と茶髪で長い髪を束ねた、小さな女の子が佇んでいた。

 服装はかなり軽装で旅人ではないだろう。腰には魔導書をぶら下げているあたり、見習い魔導士といったところだろうか。


「あっ、突然話しかけてすみません。」

「ああ、大丈夫だよ!全然気にしてないし!」


 正直、ドン引きされているだろう。こんな世界最強だ!とかひとりでに騒いでる旅人を見れば誰だってそうなるだろう。

 俺はなるべく怪しまれないように彼女に話すようにした。


「私は、レナーテと申します、よろしくお願いします。」

「俺は、エル。よろしくな。」


 お互い自己紹介をすると、しばしの沈黙が続いた。

 えっと…彼女のほうから話しかけてきたはずだけど…。


「そ、それで用件は?」

「ええと、その手にもってるブレスレットなんですけど。」


 彼女は申し訳なさそうにこちらを見ている。

 これはさっき倒したスライムが持っていたものの一つだ。

 やはり珍しいものなのだろうか。


「ああ、これ?実はこれ今スライムを倒したら…」


 俺がすべて言い終わる前に彼女は話をかぶせてきた。


「あの伝説の”錬金術師”さんですよね?」

「は、はい?」

「やっと見つけましたよ! さぁついてきてください!父が待ってます!」

「ちょ、ちょっと!待って! 俺には最強ギルドを作る目標が…!」

「言い訳は無用ですよ!」


 そういわれると強引に袖をつかまれ、レナーテと名乗る少女に森の奥へと連れていかれたのだった。

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