塞ぐ
いつまでも、こうしていられるだなんて、思ってはいなかったけど。
「ねーっ。一緒に帰ろう?」
「ごめん。ちょっと――に相談があるから。先に帰っててくれる?」
うん、知ってた。
知ってても、言わずにはいられなかった。
「……了解っ。それじゃ、また明日。」
「あっ……、」
何か言おうとした君。
でも、気づかないフリ。
良いでしょう?もう少し逃げても、今は。
何度目だろう。君からこうして逃げるのは。
始まりは、もうずっと前で、君が君の気持ちに気付いてしまってから。
あれから、君はあの人ばかり心配することが増えた。周りから見れば、なんてことはない、当たり前の光景。
でも、分かってしまったから。それが特別な感情を孕んでいることに。
だって、気付いていたから。君が知るよりもずっと、ずっと前から。
知らずしらず、君の全てを目で追っていた。
何をするにも、君が気にかかった。
いつでも、君の存在を近くに感じていたくて。
話をすれば嬉しくて、触れられたらどきどきして。
君に通じる感情の全てが愛おしかった。
だから。
だからこそ、真っ先に気付いてしまった。
君の視界にいつも存在する人。
それは当然私ではなく、私の位置から、とても良く観ることが出来た。
私では敵わない。
それを知ったとき、浮かんだのは、嫉妬も、それを伴う痛みすらこえる『安堵』。
もう、
2人のことで悩んだり、
無駄な希望を期待したり。
全部を理解って《わかって》いることに、罪悪感を感じることも無い。
君が、言いたい言葉の先は、もうとっくに見えているから。
だから、言わなくても良いのに。
酷い人。
無知な人。
優しくて、
その優しさ故に締め付けられる。
それを知らない君。
だから、私が耳を塞ごう。
2人の言葉が聞こえない様に。
君がその声を消さなくて済むように。
柔らかく塞がれたのは、
感情の掃け口。
この想いごと、閉じてしまおう。
未練がましく縋る指先。
触れられない背中。
塞ぐのは
昨日の記憶。
小牧です。今回は初挑戦の悲恋ものです。詩的要素が強く、私情入りまくりで申し訳ないです……。初めての試みなので、感想を頂けると有り難いです。お読み頂きありがとうございます。