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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
ドーン・オブ・ザ・ゲルドアルド

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99/115

塔が完成してしまった神々の気持ち

お待たせしました。

感想、ブクマ、ありがとうございます。

 

 旧世界目録が言うには。

 ニュースで流れていた金色の巨大なメカ怪獣(ゲルドアルド)は、彼らが用意した地球防衛用の超巨大な最終防衛兵器。


 雹庫県ガハラ市地下の秘密基地にて建造と保全をされていたが、地球を狙う侵略者は何らかの方法でそれを察知して先制攻撃を仕掛けて来たのだという。


「現実すげぇ」


 余りにも荒唐無稽過ぎる。


 信じる根拠は薄いのだが、外を見れば本当に空が琥珀色(彼女は見慣れた蜂蜜色と認識)に染まっており、実に分かりやすい異常事態が手を伸ばせば届きそうな場所で拡がっている。


 オゾフロは、なんだか楽しくなり、無邪気にそれを信じて素直に感嘆の声を上げていた。


 見ていると良心が痛くなりそうな輝く瞳だ。その輝きを持つのがオゾフロなのは恐怖である。

 何故なら、オゾフロが信じ切っているメカ怪獣が秘密兵器などというのは真っ赤な嘘だからだ。


 あれは周囲を省みず、正確にはここ現実の地球などと一片の考えもなく、自分達の敵を滅ぼそうと奮起しているゲルドアルドと愉快な蜜蜂達(ハニービー)+巻き込まれた異界の王族である。


 その起源は旧世界目録にあるのだが完全に独立した勢力。しかも神に等しい起源よりも遥かに強大。


 例えるなら神が邪魔する暇もなく完成してしまったバベルの塔である。


 そして、その事実を旧世界目録に所属するとある人物が、オゾフロの住まうマンションへと出向き告げねばならなかった。


 地球を救うために。


 恐らく、ゲルドアルド達では地球を救うことはできない。

 彼らも敵も、神である旧世界目録がすがり付く、この大地は必要不可欠な存在ではないのだ。

 そんな彼らにガラス細工の地球上で最終戦争をやられては人類は滅びてしまう。


 だから必要なのだ。

 地球を守るための矛と盾として。

 邪神を撃滅した機械仕掛(ゲシュタル・)けの守護神(ゲル・ボロス)が。


 賭けに近い考えだが、本物の魔法と神秘を相手にするには、コチラも大陸アニメートアドベンチャーから召喚するしかなく、それは現状ではゲルドアルドしか実現できない。


 旧世界目録はやらねばならなかった。


 彼らが用意していた「こんなことあろうかと!」な手札達は尽くなんの役にも立たない。

 切り札の一つ。連邦や連合からすれば超兵器である万能戦艦大和や武蔵、他の大和級万能戦艦も今から起きるだろう戦いには参加することもできない。


 それを知る立場にいる大陸アニメートアドベンチャーではダイ・オキシンと名乗る浅谷は、灼熱の火口へと飛び込む気持ちで高級マンションの玄関のインターホンでオゾフロの部屋番号を入力し、チャイムを鳴らした。




 ◆




 突然、部屋中に響く謎の音に驚いたオゾフロは、ビクリと小さな肩を跳ねさせた。


「な、なんだ!」


 モニターの中の非現実的な現実の虜になっていた意識と視線が現実に引き戻される。

 慌てて部屋中をキョロキョロ見回したオゾフロの姿はまるで森で捕食者に怯える小動物の如く可愛い。

 その途中で、聞こえた謎の音がインターホンのチャイムだと彼女は思い出す。


「脅かしやがって……」


 二十年は聴いていない音だった。


 彼女を訪ねてくる友人や親類は居ない。義務教育時代から彼女の友人は大陸アニメートアドベンチャーの中に全員居るし、日本の家庭は一度家を出た子供に対して感心が薄い。


 孫が見たいと急かすことも無い。


 物理的に受け取る必要のある郵便などは、マンションの一回に専用のマシンポストがあり、そこに投函された荷物は自動で部屋までやって来る。


 オゾフロは十五で家を出てから三十年以上直接顔を会わせていない。

 たまにモニター越しでは会話するが四、五年に一回くらいで数分程度だ。


 死ぬまで子供の姿だが、肉体的には全く衰えず二百歳を越えても現役の日本人は、孫を待つよりも再び産むことを選択するし、それができるほど日本は裕福で福祉が整っていた。


 全ては密かに旧世界目録より提供されていた不思議な魔法の力のお陰だ。


 その日本を支え続けて来た不思議な魔法のせいで、今は地球が吹き飛びかけているのは皮肉である。


「うるせーバカッ!こんな非常時に訪ねてくんじゃねぇ!」


 可愛い小動物に見えた幻影はオゾフロが謎の音改め……二度目のインターホンのチャイムに対して上げた、野獣も逃げ出す怒声に蹴散らされる。


 楽しみを邪魔された怒りのまま、彼女は三度目のチャイムの途中でスイッチをオフにした。




 ◆




「まぁ、その可能性の方が高いと思ってましたけど……」


 インターホンに出ることもなく完全拒否された知った瞬間。浅谷の端整な顔に普段張り付けている胡散臭い笑み剥がれ落ちて素顔がクシャリ歪む。

 彼はオゾフロの性格を熟知している。共にギルドを立ち上げた創設メンバー。看板として利用するために近付いたとはいえ長い付き合いだ。

 この展開は予想済みだ。予想済みなのである。気合いを入れても肩透かし喰らうことは覚悟していた。


 しかし、実際にされると地球侵略に来た大蜜蜂(ハニービー)達との予想外の激突で疲弊した精神と身体にズシリと響く。


「吐血しそう」


 怒りも沸いてくるが、オゾフロは旧世界目録のさわりに触れただけの一般人。その事実を煮えたぎる憤怒の鍋に必死に注いで抑える。


 心に虚無が生まれた。


 震える腕でビシッとスーツで決めた懐から通信端末を取り出す浅谷。彼の瞳は緑人族特有の深緑であるはずなのに、今は底無しの暗い穴に見える。


「ぐふっ……ぷ、プランA交渉ならず失敗……プランBを実行せよ」


 しっかりと説明と交渉を終えた上で、オゾフロには未曾有のワールドイベントに御招待の予定だったが仕方ない。仕方ないんだよ……と彼は心の中で言い訳しながら。


 ちょっとくらい酷い目に会ってしまえと。


 浅谷はプランB。別働隊による強硬突入を指示した。

 ちょっと私怨も入ってしまったが時間がないのである。




 ◆




「はっ?」


 再び旧世界目録の情報に集中しようとしたオゾフロだったが、バルコニーに異常を見つけて固まってしまう。


 人が居るのだ。しかも複数。

 姿はまるで映画に出てくる特殊部隊のような、揃いの黒いフルフェイスと要所を装甲で守った服を着用している。


 小柄な日本人がこういう格好をしていると男か女かもわからなくなる。


 バルコニーに不法侵入している、洗練された謎の黒服特殊部隊を見たオゾフロは、他人事のように幹部の一人であるブラウリヒトが鍛えた精鋭ギルメンの動きを思い出した。


「っ!?」


 黒服達が手に持った銃のような物を構えたの見てギョっとして身を強張らせる。

 三人がそれぞれバルコニーとリビングを隔てる三枚のアトミックガラス(対核爆防弾強化ガラス)に向かって自動小銃を連射。

 次々とガラス戸に銃弾が突き刺さり、ヒビ割れたガラスが白濁して外の景色を遮る。


 連邦や連合製なら核爆弾の高熱や爆風も防げるガラスは、旧世界目録の刺客である。特殊部隊保有の魔法で強化された自動小銃が放つ銃弾の前にしては分が悪かった。


「いいっ!?」


 銃弾を放った黒服三人はそのままヒビで白濁したガラスに肩から突撃。最低でも一枚百万以上はするガラス戸は無惨に枠だけを残して砕け散った。


 破れたガラス戸から黒服達が次々と土足でリビングに侵入してくる。

 この時になってオゾフロは慌ててソファーから立ち上がった。


「目標、確保」


 彼女は大陸アニメートアドベンチャーでリアルな荒事に慣れていたが、なまじ全ディセニアン(プレイヤー)の中でも上から数えた方が早い高い防御力を有していたために咄嗟の動きは鈍かった。


 十人の銃で武装した人間がソファーの上で硬直しているオゾフロに向かって殺到する。現実の彼女には【Unlimited】ジョブも幹部専用レガクロスのタイラントアーティザンも無い。


 無力な彼女は成す術もなく制圧されるかのように思われた。




「ぐぎょっ」


 ソファーの上からオゾフロを引き摺り下ろし、床に押さえつけようとした黒服が奇妙な声を上げて仰向けに倒れた。仰向けに倒れた黒服の胸装甲には、クッキリと小さな拳の後が刻まれている。


 黒服達に動揺がさざ波のように広がった。


「てめぇらぁ……人んちに土足で踏入やがって!ぶっッ殺されてぇのか!!」


 中身は皆、外見は子供であるため小柄な黒服特殊部隊に、更に小柄なオゾフロが躍りかかる。

 動揺しつつも対応した黒服の一人が素早く前に出て彼女を制圧しようと構えるが、彼女の動きは想定外に早かった。

 技もへったくれもない喧嘩キックがそんな黒服を物凄い勢いでバルコニーに向かって蹴り飛ばす。


「きょんっ」


 風を切り、小動物のような悲鳴を上げる蹴り飛ばされた黒服は、唯一無事だったアトミックガラスを突き破りリビングから退場した。


「「「ええぇぇぇー!?」」」


 流石に訓練された特殊部隊である彼らも動揺から声を上げてしまう。


 彼らは見た。対戦車ライフルの銃弾を簡単に弾いて中身も傷一つつけない筈の、軽くて丈夫な強化プラスチックの装甲が砕け散るのを。

 大陸アニメートアドベンチャーではよくあることだが、現実の魔法の残滓しか持たない日本人にはそんな力は無い。


「まさか大気中のMP(マナ)濃度上昇の影響をうげびょんっ!」


「「「隊長ぉ!」」」


 兎耳に対応した特異な形状のフルフェイスメット着用した黒服が、低身長を補うジャンプアッパーで顎を殴打されて宙を舞う。オゾフロの戦闘本能が偉い奴を察知したのか、隊長がやられてしまったらしい。


「シッ!」


「つぅ!」


 しかし、腐っても訓練された兵士。しかも精鋭だ。

 隊長の背後に控えていた副隊長が素早くオゾフロに接近。跳躍中で無防備な彼女の脇腹に、鋭い呼吸と共に繰り出された蹴りが突き刺さり、オゾフロは床に肩から叩き付けられる。


「スタンガン!」


 副隊長は周囲に号令。自身もガントレット型の複合武装装甲から銃身を露出させて構えた。床から起き上がろうとしたオゾフロに向かって、圧縮ガスで射出されたワイヤーで銃身本体と繋がったスパイクが飛翔する。


「ギィッ!」


 スパイクはオゾフロの身体に突き刺さると同時にワイヤーを通じてガントレットから暴徒を一瞬で鎮圧する電気ショックが彼女に流し込まれる。


「ウギィィィィッ」!


 通常ならば泡を吹きながら行動不能になる電気ショック受けながら、なんとオゾフロはその状態から立ち上がってきた。


「う、嘘でしょ……」


 歯を食い縛り、脂汗を流しながら恐ろしい目付きでオゾフロが副隊長を睨む。


 そこに別の黒服が二名がガントレットからスタンガンのワイヤースパイクを発射するが、一瞬ビクリと震えても倒れずに彼女は立ち続けた。


「た、耐えてる!耐えてるぞ!?」


「化け物か!?」


 恐ろしい光景である。


「ガアァァァァァァァァ!」


 咆哮しながらスタンガンのワイヤースパイクが三本も刺さっているオゾフロが副隊長に向かって突進してくる。


「ちょっ!まっ!?」


 追加で更に四本も刺さっても止まらない彼女は、そのまま副隊長に抱きついてしまった。


「あばばばばばばばっ!」


「「「副隊長ぉ!?」」」


 電流で踊り狂う副隊長がオゾフロと共に床に倒れ伏す。


 現場は大混乱に陥った。




次回更新は未定。今月に更新する気持ちはあります。

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