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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
ドーン・オブ・ザ・ゲルドアルド

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95/115

彼は蜂の巣である

おまたせしました。

 



 ◆???




「頭が凄く痛い」


 砕けた頭を無惨に晒し、泣き言を言う蜂の巣の魔人改め、三番目の始祖竜種ゲルドアルド。


 趣味の悪い厭らしいギラギラとした黄金の輝きに陰りは無いが、丸い筈の頭は歪な三日月のように抉れている。

 頭の断面からは中までも金色。構造を支えるハニカムの奥に多数の大蜜劣蜂(プチハニービー)が蠢いているのが見える。


 それはおかしなことだった。


 彼は【俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)】撃退のためにその頭とファーストジョブを文字通り投棄する羽目になった。頭は無いのが自然である。

 そもそも修理するなり作り直せば良いのがゲルドアルドの特性だ。痛い頭を放っておく必要は無い。


 実際に懸命に中で大蜜劣蜂(プチハニービー)達によって修理が行われていた。


「ぐぅ頭が修理できない……」


(修復。崩壊。謎。不明。困難。)


 修復するそばからゲルドアルドの頭部を構成する蜂の巣は崩れていく。新しい頭を作ってすげ替えて見てもその瞬間に半分が崩れて元通り。

 十メートルの体躯と艶やかな黒い体毛を持つ女王罠蜜蜂クイーンブラックハニービーのディラックも、その謎の現象に頭を悩ませていた。左右の顎の間から伸びる舌や前脚でゲルドアルドの頭部を弄り、呪術で調べるが、まるで改善する様子がないし糸口も見つからない。


 不幸中の幸いと言っていいのか、治した部分が崩れるだけで、それ以上は勝手に壊れない。


「頭が痛いし治らない。早く治したいけど治らない物はしょうがないか」


 喉元を過ぎれば熱さを忘れ、人は何でも馴れてしまう。


 彼が暫定異世界と呼ぶ地に偶然落ちたあの日から今日まで、彼の貧弱な精神は鍛えられていた。特に苦痛に関しての耐性が高い。流石に魂を直接削られる痛みは初体験だったが、乗り越えてしまえばどうってこともないと彼は感じていた。


 我慢しているだけなのでとても痛いがそれだけだった。


「それよりもここ何処?」


(不明。謝罪。)


 ゲルドアルドとディラックは不思議な空間に居た。だだっ広い、全てが蜂蜜で満たされた、馴染みはあるが、二人には見覚えがない場所である。


「外に居た気がするんだけど……」


 屋外という意味でも、大陸アニメートアドベンチャーという意味でも、彼は外に居た。


 そして、何故か、オリハルコンと竜因子の覚醒で巨大化し竜種になった体が、身長三メートル、頭の大きい三等親の異様に腕が大きな幼児体型の姿をした元の蜂の巣の魔人の姿に戻っている。


「蜂蜜で満ちているのは安心できるけど、感覚的にボクの巣じゃない」


(不明。警戒。安心。否。警戒)


 未知の場所に放り出されたというの彼らは落ち着いている。暫定異世界に落ちた直後のゲルドアルドと比べると雲泥の差だ。彼も経験へて精神的に成長している。

 なんとなく出ようと思えば、いつでも出られそうな気がしているのも、落ち着いている理由である。ディラックも思わず落ち着いてしまいそうになる心を慌てて戒めるほど、心地よさも感じている。

 だが、彼女は気が抜けない。愛しい至高巣を傷付けた恐るべき敵(ドラゴンスレイヤー)がまだ生きていると。


 未知の空間の正体。彼らは全く把握してないが、ここは、三番目の始祖竜種になったゲルドアルドの中である。

 つまりは地球に置き去りにされていたゲルドアルドの本当の肉体。二人の周囲を漂っているのは肉体である蜂の巣の規模に合わせて増加した蜂蜜……ゲルドアルドの魂だった。


 では、ゲルドアルドの蜂の巣という肉体の内側。蜂蜜という魂で満たされた中を漂う、頭が砕けたゲルドアルドは何者なのか?


 彼の正体は大陸アニメートアドベンチャーでゲルドアルドが使ってきたウツセミ。彼の認識ではゲームの魔人族アバターである。


 その隣のディラックと共に儀式で地球の肉体の内側に引きずり込まれた二人。その時、ゲルドアルドは自分の魂である蜂蜜の中にゲームアバター(ウツセミ)を置き去りにして始祖竜種として意識が目覚めた。

 そして、【俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)】に相討ってその肉体が気絶したため、魂の内部に放置されていたアバターの中で彼は再び意識を取り戻してしまったのだ。


「一体何が起こっているんだ」


(戦争。敵。強大。)


「マジで」


 ゲルドアルドの視点では、いきなり巣の外に放り出されたと思ったら、頭に痛烈な一撃を浴びて気絶、見知らぬ場所で痛い頭に悩んでいる。全く状況が把握できない上に、最近生まれた娘に敵と戦争中と告げられる。


 大事なレディパールも見当たらない。


 頭の回転があまり早くない彼に思考を放棄させるには十分だった。片目だけになった檸檬型の蜂蜜結晶の目がゆっくりと輝きを増していく。


「じゃあ、殺そう」


 その瞬間は余りの激痛に彼の記憶は混濁していた。それでも、敵がいると、戦争中だと認識すれば、自分がそいつを……正体は知らないが撃退したと曖昧にだが思い出せた。

 大陸アニメートアドベンチャーでは感じなかった、暫定異世界で感じた、ここで死ねば終わると直感がゲルドアルドに囁いているが恐怖は覚えなかった。


 彼は苛立っている。


 自慢の力はティータやタイタニスに突破される。頭は治らない体験したことがない不調。挙げ句の果てに戦争を仕掛けられている。


 我慢の限界だ。


 ゲルドアルドは引きこもっていただけだ。レディパール達がやっていたことは把握していないので、彼本人はそうとしか思っていない。むしろ厄介な母子の相手をしてゲシュタルトやアイゼルフにも貢献していたとも思っている。


 温厚で臆病な彼でもここまでされれば攻撃的になる。


 しかも、思考は頭痛で鈍り、半分抉れて物理的に足りない。長考が難しい状態。本来はその程度のことで思考が短絡になってしまう柔な構造をしていないが、相手の存在を消し去るための呪いで頭部を破壊されたことが響いている。

 更に【俺は永遠を許さない(ドラゴンスレイヤー)】の一撃から身を守るために全身を駆け巡った三十二億の大蜜蜂(ハニービー)の呪詛が傷付いた彼の魂の中で渦巻いていた。


 彼も彼女たちも、戦場となるのは脆い地球だとは誰も知らない。

 躊躇う理由はゲルドアルドの中には無かった。







次回更新は未定。来月も二回ほど更新できたらいいなって思っています。


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[一言] ゲルさんがキレた!!
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