むかーし、むかーし
お待たせしました。
五十万年以上、昔のこと。
魔法で栄える大陸の未来は光輝き、それは永遠に続くと、誰もが根拠も無く思えていた頃。
太古の生物の化石に恋をした、変わり者の魔人族ペロークがおりました。
そのペロークはある日、太古の生物メニヌスと呼称される一メートル程の甲殻類の化石に愛の告白をしました。
「君の子を産みたい!」
当然ながら、生物の骨が長い年月をかけて石化したただの鉱物であるメニヌスの化石は、その魔人族の情熱的な想いに応えることができません。
例え化石じゃなくても不可能でした。
お互いを想い合う魔人族のMPが混ざり合うと子が出現する。そんな不思議な生体の魔人族に子を孕む機能どころか、親の腹から生まれた経験も存在しません。
なのにメニヌスの化石の子を孕みたいと願いました。
それは間違いなく狂気です。
そんな狂気を抱え、不可思議な生殖方法で増える魔人族ペロークであろうと、種族の壁はとても高く聳え立っています。
しかし、その壁を越える方法をペロークは見つけていました。
メニヌスの化石と子作りがしたい狂気の魔人族は、ある奇妙な論文を発表します。
【魔人族と竜種の共通点について】と、簡潔なタイトルがつけられた論文には、タイトルの通り、魔人族と竜種の共通点が並べられ、詳細に纏めてあり、論文の最後の頁でこう締め括っていました。
「竜種とは、魔人族が変化した種族である」と。
竜種は最強の生物にして不老不死。何にでも、それこそメニヌスの化石等の無機物にでも欲情し、子を孕ましたり孕んだりする、色んな意味で究極の種族です。
魔人族は、幼少時代は普人族と変わらない姿をしていますが、成長と共に、五つの属性を獲得し、獲得した属性……火なら火の身体、車ならば車の身体等の性質に応じた、様々な姿へと変化する個体差が極端に大きな不思議種族。
あまり共通点が無いように思えますが、竜種という生物も、親から受け継ぐという違いがありますが、保有している属性によって、魔人族同様、個体によって姿形が大きく違います。
魔人族はどういう属性でも人の形が基本で、竜種もどういう属性でも手足と翼の生えた二足歩行のトカゲのような形が基本。
両者の生態は非常に似通っていました。
更に両者とも寿命が無い生物であり、身体をバラバラにしても生きている強力な不死性を持ちます。
そのような生物は、竜種と魔人族以外では錬金生物のスライムくらいしか存在しません。
竜種は、ダメージを肩代わりする鱗や、死んでも復活が可能な特殊な心臓によって、より不死性が高まっていますが、竜種の能力は魔人族の上位互換のようにペロークには思えたのでした。
それらを根拠に、メニヌスの化石に恋をした、岩肌とペンギンの形を持つ魔人族のペロークは、メニヌスの化石との子を孕むため。
自らの論文と愛を証明するために、狂気の目標、魔人族が竜種になる研究を始めたのです。
当然ながらその研究は困難を極めました。
突飛な内容の論文は、学会でただの笑い者にされ、相手にされません。
それは、当然の事でした。
竜種は人の言葉を理解して自由に扱いますが「自分は元々魔人族だった」と語った事がある竜種はただの一匹も、噂でも聞いたことがありません。
確かに類似した部分はありますが、竜種と魔人族では、生物としての格が違いすぎます。
幾ら魔人族が、魔法文明発展の基礎を築いた、自らの種族の仕組みを利用して【スキルシステム】や【ジョブシステム】を産んだ神秘の種族と言えど、とても信じられることではありませんでした。
遥か昔に、竜種の始祖も、始祖を知る直系の古い個体も、地球から去り、地球にいたのは亜竜から竜種に成った個体しか存在していません。
竜種ですら、己の始まりを知らないのです。
誰の賛同も協力も得られず、たった一人でペロークは研究を進めるしかありませんでした。
ペロークの無謀な研究に決着がつくまで、七千年という膨大な時間が必要でした。
誰もが否定したペロークの論文は忘れ去られ、ペロークを覚えている人物も死に絶えました。
魔人族の知り合いには生きている者も存在しましたが、寿命の無い魔人族であっても、千年単位で交遊の無い相手を覚えていることは難しく、ペロークは誰からも忘れ去れた存在になっていました。
七千年という時が流れていても、魔法文明が発展を続けていたことも大きな理由です。
ある日、ペロークの研究所が跡形もなく消え去りました。
研究所が存在した場所には巨大なクレーターが大地に穿たれています。
一体何が起きたのか……それを知る者はペローク意外には誰も存在しません。
しかし、研究所の消滅以降、ペロークの姿を見た者は誰もいません。
だから誰も知りませんでした。
その研究所には、ペロークが七千年かけて集めた大量のオリハルコンがあったことを。
だから、五十万年後の未来で稼働している大陸にはそれは実装されていませんでした。
例え、魔人族が大量のオリハルコンを集めても、同じことは大陸では決して起こりえないのです。
魔法文明の全てを記憶する精霊王が知らないことは、大陸には存在出来ません。
膨大な魔力とオリハルコンを消費して夢を叶えたペロークと同じことは、大陸にいる限り誰にも出来ないのです。
出来ない筈でした。
本日18時にもう1話投稿します。
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