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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
遊戯世界からの蜂巣X編

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84/115

先に行ってください!後から絶対に追い付きますから!

 

 ◆二時間前。荒谷高次元素材研究所。研究区試験運用場。




「なーに、こんな奴ら俺が軽くぶちのめしてやりますよ!」


 半壊した有人ゴーレムから聞こえる男の声は明るく「ちょっと散歩にいってくる」と告げるような気軽さがあった。

 絶望的な戦力差が見ただけでわかる金色の機械巨人を五体も前にしても、その声は一切震えておらず。幼い声に内心感じている恐怖をおくびにも出さない。


 周囲は破壊されている。不思議と火の手が見えないのは敵がなぜか消火活動も行っているため。

 ドーム内の研究施設や住居は無惨に砕かれ、粉砕された建物の残骸は周囲を数えるのも馬鹿らしい程の夥しい数で空中を蠢く大蜜劣蜂(プチハニービー)の群や、巨大な花の頭部を持つ不気味な花人達がかき集めている。


 かき集められている建材はドームの中心で、街一つを研究施設に改造して覆ったドームを支える大黒柱の天辺。この施設の要である【Gハイブ】が沈められている蜂蜜プールがあった場所に運ばれている。


 そこには、今も巨大化しつつある巨大な蜂の巣が増築されていた。


 彼……安田が身体を張って逃がそうとしている敬愛する上司の荒谷や、対峙しているも彼も見知った、ゲシュタルト製の幹部専用サンダーフォーリナーに酷似した金色の機械巨人達は、今は蜂の巣で隠されているその場所を突き破って突如出現した。

【Gハイブ】の正体を考えればこの事態の原因は間違いなくあの黄金の蜂の巣だが、そんなことに思いを馳せる余裕は安田にはない。


 運ばれる建材は同僚が乗っていたゴーレムも含まれている。


 味方は全滅。自身の武器も大半は壊れている。

 この施設で生存している人間は一体どれくらいだろうか?

 自分達以外は全滅していてもおかしくないと安田は考えている。


 そしてそれは正しい。


 彼等が目視できる範囲に居ないだけで罠蜜劣蜂プチブラックハニービーの呪術で、蜜を生み出す花人に改造された人間の数は六千を越えている。

 彼女達が火事を消して回っているのは、炎熱耐性を持つ種族である大蜜蜂(ハニービー)や花人本体はともかく、花人が生み出す蜜は熱に強くないためであった。


 孤立無援。

 敵は強大で数もあちらが上。

 相棒である機体は半壊している。

 それでも安田は仲間達に背を向け、勝てるどころか生き残れるかどうかも怪しい、無慈悲な敵に立ち向かうために機体を動かす。


 荒谷班のゴーレム試験運用担当を長年勤めあげた彼は……本物の勇者だった。


「来いよ!キンキラリン!ここから先へは一歩も通さない!」


「やすだぁぁぁ!」

「貴方は一体何処まで……!」


 重い金属で殴り合う激しい戦闘の音が周囲に響く。


 荒谷達が緊急脱出用の外部に通じるエレベーター前に辿り着く頃には、隔壁越しでも施設を揺るがす振動として聞こえていた戦闘音は聞こえなくなっていた。




 ◆




 ◆現在。荒谷高次元素材研究所。東搬入ゲート前。




 ゴッ!殴り付けられるような轟音に荒谷は現実に引き戻される。


 音の正体は大鬼の両肩に内蔵されたレールガンだ。

 幾つかのスライムに詰め込まれた二百余りの花人を磁力の鉄槌が粉々に吹き飛ばしたのである。

 衛星を狙撃できるその威力は、地球上の物質ならどんな物でも粉砕できる断言できる。


「えぐっやすだは……やすひっぐだば、ぼぐだちをにがずうぇためにぎせいになってぇ……」


 涙や鼻水で顔をグシャグシャに汚す荒谷。武装隊員に制圧されて乱暴に浅谷達がいるトレーラーに運び込まれた彼と、元荒谷班の古株達は土まみれだ。


 ドンッ!とレールガンとは比べ物にならないが、知識以外は幼子そのもの荒谷「ひっ」とを怯えさせるには充分な音。浅谷が苛立つままに尋問用に用意した机を叩いた。

 思っていたよりも勢いがついてしまい手が酷く痛む。彼は糸目を歪めて眉間に皺を作った。


「んなこたぁ、どうでも良いのですよ!」


 浅谷の無情な言葉。命を捨てて自分を守ってくれた長年信頼しきっていた部下を蔑ろにされた上に、ショックを受けていて元々の情緒不安定さが酷くなっている荒谷は一瞬で激昂する。


「き」

「何を呑気に死神に愛の告白しているんですかぁその人はぁぁ!

 こんなMP(マナ)が溢れる場所でんなこといってたら死ぬに決まってるでしょう!

 この世界には成型して変なバグが起きないようにしてくれるジョブもスキルシステムも無いんですよ!?正確には機能していないのが正しいですが!言霊の簡易呪術成功し放題ですよ!?

 そんなデスフラグ建築野郎死んで当然なんです!

 あぁぁぁぁー恐ろしい!!!下手したら巻き添えでこの辺一帯が死の大地になりかねない!ゲルさんがそれで死んでしまったらおまえどうする気だ!?」


 感情のままに叫ぼうとした荒谷の台詞を遮って浅谷が叫ぶ。


「ひうっ」


 その剣幕に荒谷は怒りを忘れ、完全に萎縮してしまった。

 生き残った荒谷班の四人の簡易尋問室となっているトレーラー内に「ふーふー」と興奮と長台詞を捲し立てた浅谷の息使いのみが聞こえる。


「それで」


 俯き荒い息を整えていた浅谷の細目が薄く開き、上目使いでギロリと荒谷を鋭く睨む。見た目が中学生くらいなのに鷹のように鋭い眼だ。


「ぴっ……」


 その鋭さに怯え、実は脱出前からずっと我慢していた彼の股間が暖かい液で濡れていく。


「ゲルさん……木陰蜜八はどこですか?

 想定の百倍は切羽詰まった危険な状況なので、貴方達に人道的な対応をしている余裕がない。正直に手早く教えていただきたい」


「びゃぴ」


 鼻孔に感じたアンモニア臭で、より険しくなる浅谷の表情を前にした荒谷からは、人の言葉が失われてしまったようだ。


「はぁぁぁぁ……しょうがないですねぇ」


 まともに会話できそうに無い。少々自身も昂りすぎて失敗してしまったと、浅谷は内心思ったが今回は本当に余裕が無い。


 トレーラーの外では『……破片を残らず焼け!』『タイチョー!燃えません!』『やっぱり熱に超強いよコレ』『……なら凍らせろ!』『凍るぞぉ!!』『よし!更に砕け!』『粉にしろ粉に』『スライムちゃん我々の運命は君にかかっているぞ!』『一杯お食べ!』と。

 思っていたよりも戦闘が簡単に一段落し、安堵のためか岩波らレガクロス戦闘部隊が少し緩んだ声で会話しているが、未だエレベーターシャフト内には始末した倍の数がひしめき合っている。


 事態は急を要した。応援を待っている暇はなく、例え目標のゲルドアルドの確保が不可能だと判明しても、ドーム内への突入は決定事項だ。少しでも情報を集めたい。

 幸いなことに荒谷はどうしょうもないほど子供で、齢百四十を越えているとは思えない老練さの欠片も存在しない男だが、頭の出来は浅谷よりも上である。


 それは非常に悔しく、彼は認めたくなかったが事実だ。




「すみませーん!【頭を覗くん】を持ってきてくださーい!」


 その気の抜ける地球産のマジックアイテム名が出されたその時、トレーラー内が陣営問わずざわめいた。

 床に縛られて放置されている塩戸が思わず「誰か!終わるまで耳を塞いでいて欲しいニャ!?」と懇願する。


「まっ待ってください!?」


 荒谷の隣。緊張と恐怖から耳と尻尾の毛が逆立ち続けている猫の獣人……【花原】が震える声で浅谷を制止の声をかけた。その瞬間周囲のフルフェイスの武装隊員からMPライフル一斉に向けられるが、彼女は気にしている余裕は無い。

 荒谷を守るためには最悪撃たれても、名前とは裏腹に使用した対象に恐ろしい末路を辿らせる【頭を覗くん】の使用をなんとしてでも防がなければならなかった。


 普段は「主任くん」と茶化して呼んだりしているが、銃で武装した隊員に囲まれている恐怖に打ち勝つ忠誠を持っていた。別の場所に押し込められている残りの研究員も同じ行動を取るだろう。それだけの恩義があるのだ。


 それと荒谷は恐怖で余裕がなく気付いていないが、彼女は確認しなければならない気になることがあった。何故こんな時に既に死んでいる木陰蜜八……つまりゲルドアルドの安否を気にしているのか、荒谷班の生き残りにはさっぱりわからなかった。


 その件は報告済みの筈だ。


「んー?この糞が……じじいに付き合える精神性以外は特にこれといって誉めるところの無い、研究員としては並の貴女には、付き添い以外の用事は特に無いのですが?」


 大陸アニメートアドベンチャーで、浅谷がオゾフロを看板にして作った生産ギルド【ゲシュタルト】は、荒谷の作った生産ギルドを技術の暴力で叩きのめして吸収した。

 それでも微妙に残る劣等感の原因である荒谷を消し去るついでにその知識も技術も全て頂戴できる良い機会だと、灰暗い喜びを感じ、こんな非常事態だが少しウキウキしていた彼の声のトーンが露骨に下がる。


 その目は彼女を人として見ていない。


「……っ!いえ、さ、先程から浅谷様は意味のわからないことを仰っています!何故、木陰蜜八の安否を今更気になさっているのですか!」


「この後に及んでしらばっくれる気ですか?笑えませんねぇ」


 正直、持ってきたのは良いが、こんな非人道的なマジックアイテムを使うチャンスは無いだろうと浅谷は考えていた。

 今の状況なら事後承諾でもどうとでもなるので、彼はこの道具をとても荒谷に使いたかった。


「しらばっくれるも何も……気になさっている木陰蜜八の安否は……三ヶ月前に判明しています!死亡したと報告済みの筈です」


 周囲から失笑が漏れた。荒谷班の関係者以外が今更何を言っているんだと雰囲気で語っている。


 ゲルドアルドが生きていることは、三時間前に大陸アニメートアドベンチャー内で、この場に居る浅谷、塩戸、岩波の三人が会って確認済みだ。

 その三人が会って話をしていたのは、この場には居ないが大勢のゲシュタルトギルドメンバーが証言できる。


「どうやら貴女もこの【頭を覗くん】の餌食になりたいようですね?貴女の頭脳にはなんの興味も価値もありませんが」


「んや、やめろ!そんなものをはなはらにちかづけるな!!」


 大事な部下のピンチに我に帰った荒谷が、武装隊員が嫌そうに持ってきた美しい白い箱を近付けてくる浅谷を威嚇する。全く迫力はないが花原の忠誠心が上がった。


「こかげみつやはしんだ!うんえいにとってとてもだいじなじんざいだったがしんだのだ!したいだってみつけ……ひぃ!?」


 精一杯両腕を広げ、花原を庇い浅谷を小動物のように威嚇していた荒谷に白い箱……【頭を覗くん】が近付けられた。悲鳴をあげるが庇うのは止めない。

 白い箱からは「ミミミミミミミミ」と規則的でいて、鳥の鳴き声にも聞こえる奇妙な音が聞こえてくる。


「嘘は行けませんねぇ、私は今朝大陸アニメートアドベンチャーで元気な姿で遊んでいるゲルさんと会話しているんですよ」


 その言葉と同時に浅谷は端末を取り出すと二人に画面を見せ付ける。

 画面映し出されているのは、三時間ほど前のゲシュタルトシティでのゲルドアルド、ウミネコ、ダイ・オキシンが会話する姿だ。


「「え……?」」


 お互い庇い合っていた二人が映像を見て硬直。

 その様子を見た浅谷は、私怨で濁る瞳で訝しんだ。


 今朝の日付が画面の隅に表示されているこの映像は、様々な理由で絶対に加工ができない代物だ。捏造も出来ないにで、ゲルドアルドが死んだという嘘八百を完全否定できる。

 なのに二人の反応は悪いことがバレた人というよりは、有り得ないモノを目撃し頭で処理できずに固まった反応である。


 想像とはだいぶん違っていた。


 目の前に、どういうアイテムか知るものからは、見るのも触るのもおぞましい悪魔の箱と評判の【頭を覗くん】をちらつかせても、二人は全く反応しない。


「ミミミミミミミミ」


「ば、ばかな……じゃあ、あそこにあるものはいったいなんなんだ」


 その言葉を待っていたかのように、トレーラーが凄まじい衝撃と音に襲撃され、浅谷らの天地がひっくり返った。



次回の更新は未定です。たぶん来月になります。


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[一言] ついにゲルさんが意味不明な状態であることがバレる?
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