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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
遊戯世界からの蜂巣X編

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大鬼出撃

コメント、ブックマーク、ポイント、誤字報告ありがとうございます!

 


 十台のトレーラー荷台が展開。内部のレガクロス【大鬼七式】が姿を見せて片膝立ちから直立する。深緑の装甲が真昼の太陽に照らされて僅かに明るくなった。


 この巨大トレーラーには、日本では通常サイズである六メートルのレガクロスを二機運搬し、簡易整備を行え、約二十人が快適に過ごせる居住空間も備えている。

 このような緊急時に司令室としても使える様々な設備を荷台部分に準備されていた。


『……跳躍で一気に詰める。【天狗】を展開し、クレイボールの一斉射を行う』


『隊長、火属性ではなく土ですか?』


『……あれだけ体液を噴き出しても動きが鈍る様子が無い。植物といえどもあれだけ水分があると燃えにくい、物理で足止めと様子見だ』


 今も花人達は転がりながら無様に走り。仲間同士でお互いを傷つけ合い、血のように体液を噴出し続けている。なのに噴き出す体液の勢いも量も弱まる気配がない。


『……俺の合図で一斉に放て、全機跳躍!』


『『『了解!!』』』


 レガクロス隊の隊長である岩波の号令で、ヴゥゥゥゥゥ低い唸りを上げ続ける大鬼が跳躍する。

 魔法によって、本来の重量から牛一頭ほどに軽減されている機体が、手の平サイズの小型核融合炉の出力で羽のように軽々と空に押し上げる。

 垂直に二十メートルは跳ぶと、腰部ガス圧縮噴射機が冷たく白い圧縮液体窒素を噴射。武器として使用すれば戦車を吹き飛ばす、強烈なガス圧が深緑のレガクロスを空中で弾丸に変える。

 浅谷ら非戦闘員を護衛する四機を残して、岩波搭乗機を含む十六機が空を駆けた。




『……ぬぅ!』


 たった半歩で亜音速に到達するバルディッシュⅣ。それの強化改造された専用機を、ハンモウの名で日常的に乗りこなしている筈の岩波。彼は背後のスライムチェアーに加速で発生したGで押し付けられ苦悶の表情で呻いた。


 現実の彼は、四十を過ぎても諸外国の人間とは違って、見た目は幼い子供の姿をした日本人。しかも、あらゆる物理現象を滑らせる魔法の苔に守られた、石の身体を持つ魔人族のハンモウとは違い、身体能力に優れていない緑人である。


 対Gスーツとヘルメットを着用しているが、使われている魔法技術は大陸アニメートアドベンチャーと違い不完全で、軽減しきれておらず。幼い身体に負荷をかける。

 それでも、たゆまぬ努力と日頃の訓練が実を結び、急加速で失神するなんて醜態は晒さなかった。


 二百メートルの距離は瞬く間に縮められる。背負われ、泣きじゃくりながら何かを叫ぶ荒谷達を軽々と飛び越え、大鬼達は空中で内蔵武装を展開する。


 腕部多機能内蔵型扇刃【天狗】。

 大陸アニメートアドベンチャーで使われる初級、中級攻撃魔法スキルを操れる、重なる刃で構成された扇子型魔法触媒。

 モデルになっているのは、山の神とも言われる天狗が持つ、神通力を操る扇子だ。


 余談だが、妖怪は人里離れた場所で、運営に関わる一族が魔法技術の再現と、実験を行っている姿を一般人が見て妖怪だと騒いだのが殆どである。

「見られたからには生かしてはおかぬ」そんな物騒な時代もあり、神隠し伝説も多数生まれた。




『……クレイボール全機発射!』


 大鬼の太い両手の甲から飛び出し展開する扇刃。

 十六組の両腕が翼のように広げられ、勢いよく前方に向かって両腕が閉じられると、両手の扇刃から迸るMP(マナ)が組み立てられ、バスケットボールほどの暗い茶色の粘土球〈クレイボール〉が横一列に並んで発射された。


 十六機の機体から放たれた粘土球が走る花人達の先頭へと向かい着弾。

 花人に激しく衝突し、へばりつく粘土が次の瞬間には爆発。

 非常に強い粘性を持つ、圧縮されていた粘土が放射状の波になる。

 見た目よりも重たい粘土が花人を押し流してそのまま付着。

 重たく、へばりつく粘土は、一部と接触するだけでも大きく行動を阻害する。


 〈クレイボール〉は〈ファイアーボール〉と違い、対象の行動妨害や拘束に長けている。

 爆発しても暫く存在し続けるこの魔法は、同時に地面を粘土で汚し、足を踏み入れた対象を拘束する粘土地を作り上げてもいた。


 花人には危機回避を行う知能など存在しないようだった。次々と無警戒に足を踏み入れ、粘土の粘着力に捕まり、もがいて更に泥に絡めとられて彼らは停止していく。

 荒谷達を追いかけていたせいか、後続も、漏れることなく粘土地に突っ込んでいった。


 芝生に巨体とは裏腹の静かに大鬼達は着地する。


『……一号から三号機はシャフトをクレイピラーで埋めろ。本当に何千と居るかは不明だが後続を断つぞ。魔法を叩き込んだら維持し続けるんだ。

 四号から八号はレールガン射撃準備、俺の合図を待て……残りは』


 岩波が乗る九号機。

 扇刃が畳まれるのと入れ替わり、両手の五指に備わる、太く鋭い爪が倍以上に伸長。

 灼熱を孕んで赤く輝く、腕部に装備された自在に伸縮する熔断爪ヒートクローだ。


『……クロスレンジで暴れるぞ』


『『『応!!』』』


 浅谷らの護衛。機体両肩の可変レールを伸ばしレールガンの準備をする機体。それ以外の大鬼達が、赤熱で空気を揺らす凶悪な爪を伸ばして、身動きできない花人達に躍りかかる。


(……ぐぅぅぅ!硬い!?)


 予想外に硬い感触。振りきられる筈の腕が鈍く止められ、機体を軋ませ、走る衝撃が操縦者に襲い掛かる。

 真っ先に花人に一撃を食らわせたのは操縦技術により、一歩抜きん出た岩波乗る五号機だった。


 両腕五指に備わる鋭利な爪【ヒートクロー】。

 高出力加熱機の熱。機体の小型核融合炉の膨大な排気熱。それらを伸長して、一本が一メートルになる爪表面に纏わせる兵器。

 熱を纏わなくても機体の膂力、鋭さと強度で、外国の最新鋭兵器の装甲でも切断。そして纏う熱は、接触しただけでドロドロに溶かすほど。

 自国の防衛軍の主力兵器大鬼六式の装甲も無理すれば一撃で引き裂ける。


 そんな爪が、一番鋭利な先端を数センチ埋没させだけで、あまり頑丈そうに見えない、蔦がより集まった見た目の黒い花人身体で止まったのだ。信じられないことに高温の爪に飛び散る体液が触れても沸騰すらしない異常な光景も目に飛び込んでくる。


『嘘だろ!?』


『いってぇ!』


『ぬぁぁぁぁぁ!?』


 次々とレガクロス隊の驚愕の声が通信機から聞こえる。爪を引っ掛け〈クレイボール〉の粘着力で地面としっかり固定されていたせいで、横転する機体もあった。


 大鬼と花人。機械仕掛けの巨人と、見慣れたバランスの日本人体型。両者の体格差は五倍以上だ。重量はそれ以上に大鬼の方が上。

 接触時、爪の先端に軽減していた機体重量を魔法で移動した一撃は、運動エネルギーだけでもミサイル並だ。

 その一撃で引き裂けないどころか、壁でも殴り付けた人のように不自然な体勢で硬直している。


 異様な光景である。

 硬い装甲もドロドロにする筈の熱も効いている様子は無い。

 明らかに熱への強い耐性があった。


「タスケテ!タスケテ!タスケテ!」


 それどころか奇妙な鳴き声を上げて、自身に僅かに埋没した爪が伸びる大鬼の腕を巻き付けてきた。

 一瞬だが装甲をギィッ!と軋ませた事に岩波は戦慄する。

 無理をしているのか、腹部の傷は勿論、蔦を纏めたような全身からブチブチと音が聞こえ、体液を噴き出している。


 今、直面している事態は、想像よりも遥かに深刻なのだと悟った。


「タスケテ!タスケテ!タスケテ!」

「イタイ!イタイ!イタイ!イタイ!イタイ!」

「クルシィィィィィ!」

「イィィィィィィ!!」

「イタイ!イタイ!」

「ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!ヤダ!」


『……うるさい!』


 ヴゥゥゥゥゥ!!低音を響かせ、出力が上げられた機体。花人の身体に僅かに埋没した爪を無理矢理に押し込む。

 そのまま力任せに大鬼が花人を引き裂いた。


「イタイ!イタイ!」


 胸の辺りから引き裂かれた花人が叫ぶ。

 どうやって?そもそも口は何処なのか?どうやって声を出しているのか全くわからない身体が空を舞う。

 空中で回転する身体から体液が噴出して渦を描き、大鬼の深緑の装甲を汚す。


 花人の姿は元が人だと想像させる。

 それも体格からして幼い子供だ。

 しかし、この場に居るものはそんなことは気にしない。

 何故なら、大鬼に乗る彼らも、見た目は外国から見れば子供。死ぬまで子供の姿で過ごす不思議な日本人だ。

 外国からネバーランドと呼ばれる事もあるこの国で、見た目が子供という理由では感情は動き難い。


 全員が成人済み。何十年も戦闘訓練を積んだ荒事のプロフェッショナル。そもそも、この施設には年齢的な意味での子供は確認されていない。

 大陸アニメートアドベンチャーダイアレス(住人)相手に虐殺も経験済みな人材も多い。


 ここに居るのは、ゲルドアルドが猛威を奮ったビースウォートとの戦争や、機神が大暴れし邪神を粉砕した【機神内戦】の戦場で、ゲシュタルトの精鋭としてレガクロスに乗って戦った猛者達である。


 運営側の彼等は知っている。多くの人間はゲームだと思っているが、あの世界にいるダイアレスは本物の人間だと。


 花人(これ)が人間だとしても、派閥違いの邪魔でしょうがない過激派だ。とは言え、これだけの人材を失うのは痛い問題である。

 尤も、それで頭を悩ませるのは円卓の扇動者達(浅谷等)か、その同格の立場の人間である。

 岩波達レガクロス部隊は、敵の攻撃力が大鬼に通じる以上。容赦も躊躇する理由は欠片も無い。


 両腕掴んで引き裂く。蹴り飛ばして爪を抜く。【天狗】で〈スライム召喚〉を行い花人を溶かして食べさせる。


 様々な方法で大鬼達はそれぞれ対処していく。


『……スライムが一番効率良さそうだな』


 スライムに呑み込まれて、もがき「タスケテ!」「イタイ!」溶かされていく姿を見て呟く。

 心は痛まない。普通の鉄と変わらない重量を持つ、動く液体鉄であるアイアンスライムの中で、手足を振り回し喚くことができる余裕に冷や汗を流すだけだ。普通の生物なら呑み込まれた時点で、身動きが一切取れず、圧搾されて死んでいる。


 元人間のような鳴き声を上げる花人に知的な行動は無い。頑丈で力はあるがそれだけだ。


 粘土で動けない状態では、スライムと戦うのは難しいだろう。まだ様々武装を大鬼七式は秘めているが、今はデモンストレーションではない。詳しい状況が不明な以上、迅速にこの状況を終える必要がある。


 そう理解し、判断した岩波は、部隊に〈スライム召喚〉を指示。自由に動けない花人達に、日本人の体格なら三十人以上は丸呑みに出来そうな、召喚されたアイアンスライム達が襲い掛かる。


 大鬼達は自分で撃破するよりも早いと、粘土から引き抜いた花人をスライムに詰め込む作業を始めた。

 機体の握力で鷲掴み何体も圧し潰し。体液を絞りながらスライムに押し込む。あるいは蹴飛ばし。ゴミでも扱うように投げつける。


 思考で操作できる大陸アニメートアドベンチャーのレガクロス程の器用さはないが、これくらいの作業は容易い。


 ズン!ズン!ズン!と機体を震わせる振動。

 震源ではシャフトから這い出る花人達を、上から入り口ごと圧し潰す、粘土の柱が幾本も落下していく光景。〈クレイピラー〉で生み出された粘土柱が後続を断ってくれているのだ。


 二機が油断して、機体の指を折られるアクシデントが発生したが、それ以外は滞りなく、花人の殲滅は進んでいった。

次回の更新は明日の昼12時の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] その先に待つのはいったいどんな光景か!?楽しみです。
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