ドス黒い蜂蜜の底から・1
ポイント、コメント、ブクマありがとうございます!
「うぉぉぉぉぉぉ寒い!」
「いや、寒くはないだろう。防護服は完全防寒だぞ」
「気分の問題だ!生きた心地がしないんだよ!わかっていてもな!」
軽口を言い合う二人。僅かな身動ぎで彼らから白い粉や塊が落ちていく。
炎熱耐性持ちの大蜜劣蜂を排除するための噴射装置で部屋の中にばら蒔かれた液体窒素。
その効果で表面に生まれた霜や氷である。
防具服に付着した水分が凍っているのだ。
この装置の対象である大蜜劣蜂は小さいため。
より確実に凍死させる仕掛けとして、この部屋……【対大蜜蜂冷凍セーフティルーム】は高い湿度が結界で維持されている。
その効果は覿面。二人の周囲には半ば氷に閉じ込められて身動きひとつしない白い霜に覆われた罠蜜劣蜂達が散乱していた。
「っ!こんなにも居たのか!?」
「おっかねぇな、おい」
その数は、最低でも五十はいたように二人には見えた。
入ってきた大きな入り口は閉まり、自分達以外は動くものが存在しない霜と氷だらけの部屋の中にバキバキと、突然鈍い音が響く。
音に驚いた二人は、音がした方向に素早く振り向くが、鉱人の男が床を覆う氷に脚を取られて横転。悲鳴を上げてしまう。視覚的に寒すぎる部屋の様子に身体が強張っていたのが災いした。
「何やってんだよ……」
横転した同僚の鉱人よりも早く、音の正体確認し、安全だと確認した綠人の男は緊張を解き鉱人起き上がるのを手伝った。
そんな二人の側を、壁の専用の入り口から出現した小型のゴーレムが通りすぎる。
先程の音は壁が変形し、その表面の霜や氷を粉砕して壁の内部に収納されていた五体のゴーレム。その出入口が形成された音である。
丸い胴体の四つ足、長く自由に曲がる蛇腹ホースのような腕を持ったゴーレムは、貴重な検体である氷付けの罠蜜劣蜂を回収しに出てきたのだ。
勝手に驚き、安心した二人を無視して、見た目が子供の彼らと同程度、幅は倍はあるゴーレムは、腕を氷付けの罠蜜劣蜂に向けると内部の機構が作動し、彼女達を吸引し始める。
壁から次々と現れる五体のこのゴーレムたちは胴体が冷凍庫、腕が吸引用のホースになっているのだ。
現実からMPが失われて以来、存在しなかったモンスターである彼女達は、地球では同じサイズの金よりも高価な素材である。
尚、日本には魔法技術を利用して改造された、尽きない金鉱山なんてファンタジーが存在するが、輸出を行うほどは採掘出来ないので高価であることには変わりない。
「監視室!チェックは終わっただろう?早く出してくれ!」
壁と一体化しているが、位置は把握している監視カメラに向かって鉱人が大声を上げた。
怒鳴る彼等の横では、ブォォォォォと吸気音を鳴らしてゴーレムが己の目的を果たし続けている。
蛇腹が刻まれた間接の無い腕に凍てつく空気と一緒に吸い込まれ、ゴーレム胴体の冷蔵庫の中に転がり落ちる。
「………はっ?開けられない?どういうことだよ!」
「早く出してくれ!邪魔な虫共はもう居ないだろ!」
防護服の通信装置で会話している二人の耳には慌ただしい監視室の様子が聞こえてくる。Gハイブを監視するGハイブ監視室はそれどころではない異常事態を目の当たりにしていたのた。
◆
「なんなんだアレは……」
監視室の責任者が驚愕の声を漏らす。
周囲に矢継ぎ早に指示を下し終えた彼は、慌ただしく関係各所に連絡や記録、解析を行い始めている周囲を尻目に呆然とソレを見る。
視線の先には壁に設置された幾つもの映像を移すディスプレイがあり。
Gハイブを様々な角度、プールの外と中から、映像や発する熱放射等をリアルタイムで記録、監視している映像が映っている。
その映像に突如、不気味なドス黒い物体が出現したのだ。
蜂蜜に満たされた深いプールの底から、滲み出るように不自然に出現した不気味な物体は、底に設置してあった幾つかの監視カメラ呑み込み映像が途絶する。
「Gハイブが!?」
誰かが上げた悲鳴が響く。
人が落ちて呑み込まれると、その粘度で身動き一つ出来なくなるだろう蜂蜜の中を物ともせずに蠢く物体。
それは、研究者も兼ねている監視スタッフの目の前で、体積を急速に増やしそのままGハイブを飲み込んでしまう。
Gハイブを呑み込むと光を一切反射しない黒い物体は、激しく振動し始めた。
振動はプールを満たす蜂蜜をかき回し、波打たせ、生まれた無数の波紋がプールの周囲を蜂蜜の飛沫で汚していく。
激しく振動するドス黒い物体は、一際激しく振動すると大きく膨れ上がった。
膨らみは内側から突き破られ、先端が鋭く尖った、物体と同じくドス黒い円柱をこの世に産み落とした。
プールの周囲を蜂蜜の飛沫で更に汚し、勢いよくプールの外へと先端を露出させたドス黒い円柱。外側に全体を傾かせた柱はプールの縁に過重をかけて歪ませながら制止する。
一見すると花弁に見える配置だ。
その配置事態は偶然であったが、円柱内部の存在を考えれば、花を象ったのは必然と思える。
花を模すように並ぶ円柱の花弁が弾け飛ぶ。円柱の内部からは蜂蜜が溢れだし、五つの無機質な六角形が空中に躍り出た。
躍り出た五つの内、二つは突然形を崩して床へと落下し、ガラスのような残響を残して沈黙したが、三つはそのまま浮かび、プールの上空をゆっくりと旋回している。
時折、明滅し、周囲を探るように旋回するその動きは、板から削りだしたような無機質な六角形の姿に反して、能動的でまるで生物だった。
「…………………………」
次々と起こる異常事態の末に出現した存在を目の当たりにして、騒がしかった監視室ば静まり返る。
全員が、想定外過ぎる存在の出現に揃って驚愕。
絶句していた。
「は、蜂蜜精霊……」
一人が絞り出すように、十五万年ぶりに地球上に出現した下級精霊の名前が紡がれる。
監視室の大画面に映し出されているのは、蜂蜜色を纏うハニカムを思わせる極薄の六角形。時折ゼリーのように不安定に形を変えるその姿は、ここにいるスタッフ全員が事前に目を通しているGハイブ関連の資料に載っていた蜂蜜を司る下級精霊そのものだった。
自分達が神秘と魔法で栄えた、沈んだ大陸の末裔であること知る者達にとって精霊の出現とは、この世に神秘が帰ってきた証であり。
先祖から受け継がれてきた夢へと大きく一歩近付いた証拠であり、福音だった。
しかし、これから起きることは悪夢としか言いようがなかった。
突如、地球上に復活した下級精霊である【蜂蜜精霊】は自然発生した精霊ではない。
この施設の人間所か、ゲルドアルドすらも全く把握していないが、彼等は大陸の中に存在するゲルドアルドの蜂の巣から、女王罠蜜蜂のディラックによって、現実の世界へと送られて来た存在だ。
当然それは、魔法が存在する事を知っている運営から見ても異常である。
彼等の最終目標の一部が、大陸が沈んだ際に残されしデータから再生されたに過ぎない、唯のモンスターの手によって達成されてしまったのだ。
偶然にも異世界に落ち、帰ってくる事に成功したゲルドアルドという常軌を逸した起爆剤があったとは言え、尋常ならざる偉業だ。
現在、現実の地球と大陸を行き来する方法は、ダイブギアを通して、世界精霊によって作られたウツシミに意識を投影する方法しかない。
MPですらリソースという形でしか回収することは出来ず、現在のMPをGハイブから直接回収できる現状も、二度と起こらないと断言できる程の特大の奇跡としか言いようがないの状態なのだ。
なのに精霊はやって来た。
帰ってきたのだ。
沈んだ大陸の残骸と、魔人王と呼ばれた六人の最後の魔人族が、その命を、MPを犠牲にして作られた大陸から。
運営にとって、本来は諸手を上げて歓迎すべき出来事だ。
残念ながら精霊達と精霊を送りつけた彼女達は、運営どころかこの地球の存在すら危うくする危険な目的を無言で掲げている。
正真正銘のモンスターである彼等と彼女達の目的は二つ。
Gハイブの奪還。
Gハイブ周辺の安全確保。
つまりは、巣から無断で蜂蜜を搾取する、蜂蜜泥棒は皆殺しである。
次回更新は明日の昼12時の予定です。
ポイント、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。




