雲が綿菓子で出来ているのじゃ……!
調子が良いので突発更新。
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大人びた思考。母親に似てタフネスな戦士の精神。
年齢に不相応な中身を有するティータ姫は、自身の可愛さを理解しあえて子供のような行動をする賢しい少女。
しかし、彼女は感性派であったらしいと、そこそこの長さの付き合いがあるゲルドアルドは初めて知った。
ティータ姫の説明がギュオーンとズバババとか擬音が多く、ゲルドアルドにはまるで理解できなかった。
何とか無理矢理、要領得ない説明を咀嚼すると、彼女はアイゼルフ王国の国宝、時空を操るレガクロスロードの【クロックロード】の能力と、使用者のMPを増殖させる【MP増殖炉】とは違う、MPを生み出す動力炉【乙型MP創成炉】の出力。
それらを最大限利用してなんか良い感じのタイミングの一撃で、ゲルドアルドの新ジョブ、蜂の巣内部の時空を支配して異空間を構築する【蜂巣神界】が生み出した異空間と通常空間との境界を無理矢理突破してきたらしい。
「御主、中身は子供だと思っておったが外側も子供だったのか?成長期なのか?妬ましいのじゃ」
ペチペチと小さな手がティータの記憶よりも随分と大きいゲルドアルドの頭を叩く。その身長が妬ましいと。
彼女の身長はここ数年、一切成長がないらしい。
儀式が終わったのか、罠蜜蜂達はディラックに率いられて何処かに去っていった。横になるレディパールにゲルドアルは包まれるように寄りかかり、ティータはゲルドアルドの肩に勝手に乗っていた。
レディパールが「この女邪魔だな」という視線をティータに送っている。
「肩が大きく、乗りやすくなったのは誉めて使わすのじゃ」と言いながら肩の上でペチペチと頭を叩き続けるティータがレディパールに排除された。
顎で加えられてペイっと空中に放り投げられる。
その動作は小さく軽いものだったが、レディパールはレガクロス並の巨体である。そしてゲルドアルドの【蜂巣神界】によって強化もされている。
ブォンと空気が唸り、身体が小さく軽いティータが砲弾のように飛んでいった。
現在ティータはゲルドアルドに排除されていないだけで、この空間に異物として認識されている。死なない程度に弱体化中だ。
死んでもこの空間を支配しているゲルドアルドならどうとでもなるが、放って置くのも面倒だと考え、彼女が飛んでいった先にいる大蜜蜂に助けるように命令した。
◆
「モグモグこの異様な空間、ここの時間はクロックロードの出力でも抗えぬ力で支配されておる……御主は一体何を手にしたのじゃ!モグモグ」
「簡単に言うと、自身に支配権がある蜂蜜の内部を自由に作り替える力ですよ。そして貴女が手にしたのは大蜜蜂達のオヤツです」
大蜜蜂にしがみついて戻ってきたティータ。
その手には空に浮かぶ蜂蜜色の雲からむしってきた、フワフワとした大きな塊が握られていた。
瞳は真剣。表情は引き締められているが、片手にフワフワとした甘い香りの蜂蜜色の物体を鷲掴む姿は、綿菓子片手に祭りに浮かれる場違いな姫様であった。
「ほぉ?やけに素直に白状するのだな?モグモグ」
形の良い眉が片方が、彼女の知るゲルドアルドらしからぬ言動で疑問に跳ねる。そしてモグモグと蜂蜜色の綿を食べる。
付き合いがそこそこ長い彼女は知っている、ゲルドアルドの腹芸技能は壊滅的だと。
「それ、一杯浮いてますけど勝手に食べないでください」
彼女の探るような態度をゲルドアルドは意に介さず、勝手に人の家のオヤツを食べる淑女らしからぬ行動を咎める。
いつも淑女とは程遠い行動をとっているのは知っているが言わずにはいれない。
レディパールはティータがペチペチと手で叩いたゲルドアルドの頭を念入りに磨いていた。ティータは真珠色の爆蜜蜂の体毛で編んだ手袋をしている。
何もついていないはずだが彼女は執拗にゲルドアルドの頭をキュッキュッと音を立てて磨いていた。
ティータが食べているのは現状ここにしか存在しない、世にも珍しい空を飛ぶ蜂蜜の綿菓子だ。
至高の蜂蜜ではないが、アニメートアドベンチャーの養蜂を志す生産職の憧れ、高品質な大蜜蜂の蜂蜜製である。
「モグモグ……良いではないか、妾では食べきれないほど浮いておったぞ……モグモグ」
実際に雲が形成される高空。天高く投げ飛ばされたティータは目撃した。
雲海の如く広がる蜂蜜の雲と、海のように広がる蜂蜜溜まりを。
埋め尽くすように立ち並ぶ、サンダーフォーリナーに酷似しているが見たことがない無数のレガクロスの軍団を。
ギラギラゴールドの趣味の悪い黄金の輝きで武装したその数は、目測だけでも軽く万は越えていた。
「おぉ、怖い怖い……動じぬなゲルドアルドよ?」
「……?」
「言わずともわかるぞ?御主は……妾のことをどうとでもできると考えておるのじゃ。そして一切動じぬ様子がそれが真実だと語っておるのじゃモグモグ」
「何でもない感じで、コッチの内心を言い当てるの止めて欲しい」
ゲルドアルドが少し思案のために黙っていると、心でも読んでいるのかという精度で言い当てられてしまった。
「これほどの力が空間を満たしているのにも関わらず、クロックロードで突破できるモグモグ」
「…………………………」
「これは内に引きこもる、御主のジョブの性質が、全知全能と思えるほどに引き上げられた結果。内部を完全に支配する万能性と引き換えに、範囲外から来る力には脆くなっていると考えられるのじゃ」
「もう止めて!?」
その通りだった。
この世界を維持するには蜂の巣という外殻が必要。外殻が一部でも壊されれば、そこから綻びが生まれる。
内部に入ったならば好き勝手に……殺すも、生かすも、記憶を奪うも、その姿を変質させて大蜜蜂に変えることすら、ここに入った時点でゲルドアルドの自由。
しかし、蜂の巣を貫く一撃。クロックロードのように境界を無理矢理抉じ開ける力に同時に襲われると内部の空間が崩壊する危険性があった。
それを実行するには現状の巣の防衛力を考えるとかなり難しいが、それでも外からの圧力をかけられると案外脆いのは事実で、ゲルドアルドはそれを思い知る。
【蜂巣神界】は蜂の巣の内部という閉じられた世界で神として君臨する、完全に引きこもり専用のジョブなのだ。
引きこもる部屋を破壊されれば引きこもりは外に出るか。
そのまま部屋の残骸を墓標にするしかない。
声を荒げるゲルドアルドを見たティータは「くっくっくっく」とわざとらしく笑う。ニヤニヤと金のルージュが目立つ、彼女の唇がつり上がる。
非常に腹立たしいが、その様子は妖精のようでレディパールとは別の美しさがあった。
突然レディパールがゲルドアルドの丸い頭を前脚で掴み、無理矢理、視線を自身の方向へと向ける。
「…………………」
「…………………」
無言で見つめ会うゲルドアルドとレディパール。
蜂蜜結晶の檸檬型の眼がピカピカと点滅し、長い触覚が趣味の悪い黄金の輝きを先端でコツコツと叩く。
悪寒と殺気を感じたので、ゲルドアルドは頭を元の方向に戻しながら今考えていたことを放棄した。
ゲルドアルドの頭を離したレディパール。彼女は巨大だがフワフワで真珠色の体毛に包まれた細長い前脚を、今度はティータの頬をブニィと押すために使った。
「ぬも」
図らずも【蜂巣神界】が蜂の巣内の時間すらも支配していると知れたのは、ゲルドアルドにとっては僥倖だったが、二周り年齢の低い相手に少しの会話でここまで見透かされるのは非常に気分が悪い事である。
ゲルドアルドに腹芸は難しい。
決して知性に自信があるわけではないが腹立たしい。
完全にティータの生殺与奪を握っても、絶大な力を手にしても、小心者のゲルドアルドには分が悪い。
そして明らかに知性で負けているので気分が悪い。
腹いせにゲルドアルドは、レディパールの前脚で頬を挟まれたティータから、無言で蜂蜜綿菓子を取り上げた。
非常に大人げない、子供っぽい反撃である。
「ぬもぉ何をするのじゃー!」
オヤツを取り戻さんと、フワフワで巨大な前脚から脱出し、ゲルドアルドに飛びかかるティータ。
今度は大蜜蜂よりも大柄で、赤いモフモフの灼蜜蜂に取り押さえられ、彼女は本日二度目のクッコロを披露した。
次回の更新は明日の昼12時です。
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