捕虜の癖に生意気だ、リズミカルに叩いてやろう
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◆???
蜂蜜に沈む夢とは、自分らしいのだろうか?
明晰夢。
夢の中で夢だと自覚する事をそう呼ぶ。
ゲルドアルドは明晰夢を見ていた。
その内容は蜂の巣の魔人として適切なのか、蜂の巣として不適切なのか……ゲルドアルドが見ている夢は、大量の蜂蜜で満たされた部屋に沈んでいるという物。
そして、その夢に安らぎを感じると同時に激しい不快感を感じている。
安らぎは蜂蜜に包まれていることに対して。
自分は赤子の時に、蜂蜜まみれで森に捨てられていたらしい。
それで蜂蜜に包まれて安らぐのはどうかとゲルドアルドは自分でも思ってはいるが……今のゲルドアルドにとって、蜂蜜とは長年連れ添ったパートナーのレディパールや配下の大蜜蜂達を養い、マイホームであり力の源である蜂の巣を運営するための食料であり資金。
そして、ゲルドアルドの肉体を満たす血だ。
大量の蜂蜜があるというだけでゲルドアルドは安心できる。
不快感は周囲を満たしている蜂蜜を、自分の許可なく何処かに運び出されていること。
何処かもわからぬ深く広い場所を蜂蜜が満たし、ゲルドアルドが沈んでいるが、遥か上方には人工的な複数の灯りをを感じている。ゲルドアルドの許可なく、幾つも蜂蜜の挿入された巨大なホースが機械的に蜂蜜を吸い込み何処かに蜂蜜が運ばれている。
不快だった。
彼にとって実に不快なことだ。
そして、それはゲルドアルドの配下である大蜜蜂達も同様らしく激しく憤っていた。
ゲルドアルドが檸檬型の蜂蜜結晶の目で見回しても姿は見えないが、彼女達は確かに存在し憤っていた。
(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)(殺。)(怒。)
怒りと無数の大蜜蜂の殺意が夢を満たしていく。
しかし、ゲルドアルドには不思議な事があった。
どうやら大蜜蜂は場所や敵を把握できないでいるらしい、血眼になって探しているのをゲルドアルドは感じている。夢の中とはいえ、仕事熱心な彼女達が敵を把握、発見できないとは、非常に不安になる。
(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)
(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)
(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)
(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)(不明。)
(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)(索敵。)……………………………(発見。)
(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)(発見。)
どうやら、見つけてくれたらしい。
ゲルドアルドは彼女達の頼もしさに安心した。
(準備。門。建設。)
ゲルドアルドは夢の終わりを感じた。
夢の景色が薄れていく。
(侵攻。目的。)
これは夢だが、起きたら働き者の彼女達に至高の蜂蜜を振る舞おう。
(敵。殲滅。至高巣。奪還。)
◆
◆アイゼルフ王国。ゲシュタルトシティ。ゲルドアルドの蜂の巣。
「よもや、クロックロードの力を持ってしても抗うことすら出来ぬとはな……よかろう!」
覚悟を決めた彼女の両目がカッ!見開かれる。
可愛らしい姫様が出しては行けない、獰猛な肉食獣を眼光だけで追い払えそうな凄まじい眼力。流石は狂金の娘だとゲルドアルドは思う。
「妾とて一国の姫なのじゃ、敵に屈した姫がどうなるか心得ておるのじゃ」
彼女の子供らしい薄い胸の上で鬨を上げる一匹の大蜜蜂の足の下。美しい爆蜜蜂の真珠色の体毛で編んだドレスを着こなす彼女は紅金色の艶やかな長髪を広げ、大の字で倒れたまま堂々と言い放つ。
「煮るなり焼く好きにするといいのじゃ!!」
姿は可愛らしい姫。しかし、その言葉には物理的圧力が伴っているのかと言うほど重く、気高き王族の血筋と戦士の誇りと覚悟が込められている。
そんな彼女の気迫に気圧されることなく整った顔の左右にブーン!降り立った大蜜蜂達。彼女達は眼力凄まじい姫とは相反する可愛らしい頬を、フワフワの毛で覆われた前脚でブニっと押した。
「ぬも」
左右から押されてムニィと歪むティータの顔。形は良いが趣味の悪い金のルージュを塗られた小さな唇から奇妙な声が漏れる。
ゲルドアルドの位置からでは大蜜蜂が邪魔で見えていないが、きっと面白い顔してると彼は理解した。
変な夢を見た起きた直後。
知り合いの姫様にクッコロをされたゲルドアルドはとても困惑している。一体どういう状況なのか、寝てる間に何が起きたのか。
夢の内容は思い出せなかった。
「何をしているのですか?ティータ姫」
というか、どうやって入ってきたのかとゲルドアルドは不思議に思う。
ここはゲルドアルドの巣の中だが、巣であって巣じゃない。彼は彼女に【蜂巣神界】のジョブスキルで生み出したこの空間に入る許可を出していない。
上を見れば青空が広がり、蜂蜜色の雲が浮かぶ。
どうみても蜂の巣の天井ではない。
下は青々とした柔らかく短い草が道を作り、それ以外の場所はそれぞれが別々の季節に咲き実る筈の植物の花畑と果樹園が広がっていた。
とても材木や蜂蝋を固めた床には見えない。
その広さは、明らかにゲシュタルトシティにある蜂の巣よりも大きく、広大な蜂蜜色の湖や川までも存在している。
見渡せば空と大地が繋がる地平線が確認でき、まるで蜂の巣の中に天空と大地がそんざいしているかのような光景だった。
そして、それは事実だった。
「ぬも……そういうおぬしは、下克上をされておるのか?それはなんらかの魔法儀式の生贄にされるところか?」
なんとか首の動きで、左右から頬を押す黄色いフワフワの圧力から彼女は逃れ、ティータ姫のクッコロを指摘したゲルドアルドは逆に問われた。
ゲルドアルドの周囲には、大小様々な蜂の巣が彼を囲むように浮かんでいる。
一番大きく、レディパールと一緒に横に寝かされている彼の真上に浮かぶ蜂の巣には、魔法系スキルを行使しているのか淡く光る、レガクロス並の巨体を持つ新入りの女王種の女王罠蜜蜂のディラック。
その下には、大小様々な六角系の小室が紋様を描くハニカム構造の円形台。
その中心にゲルドアルドは横に寝かされ、台の周囲では黒い体毛と暗殺と呪術を得意とする罠蜜蜂が、拝むように前脚を擦り合わせたり、踊るような動きをしている。
ティータ姫の言う通り、その光景はゲルドアルドが大蜜蜂達に下克上され、なんらかの魔法儀式の生贄にされているようにしか見えなかった。
「なんでしょうね……?」
彼が受け入れた故の光景だったが、疑問と困惑でゲルドアルドの蜂蜜結晶の眼がピカピカと光る。ダイ・オキシンやウミネコの追求から逃れるために巣に帰ってきたゲルドアルドは、いつになく強引なレディパールに則されて現在の状況になっていた。
何をやっているのか聞いていないのでサッパリだ。
そのレディパールは起きたゲルドアルドの体表面に蜂蝋を塗布して、無言で自身の真珠色の体毛に覆われた脚を駆使して磨いている。
ゲルドアルドの趣味の悪い黄金の輝きが一段と強くなる。
満足したのか、彼女は首をゆっくり上下に揺らしていた。
間違っても下克上や生贄の儀式ではないので、問いただす気は今のところ彼にはない。聞けば答えるだろうし必要なら言ってくる。
中心となっているのが罠蜜蜂達なので呪術だと思うが……呪術系スキルには詳しくないので彼には彼女達が何やっているのか、ザックリとした推測しか出来ない。
たぶん、何かを探して繋げようとしている……?
それにここ最近は沢山いるが、大蜜蜂が外敵から隠れ棲む為に育てられる罠蜜蜂は、ゲルドアルドには必要性が薄く、実はあまり育てた事がない。
彼も生態を詳しく知らないのだ。
彼女達の本能に関係する行為かもしれない。
「ゲルドアルドよ、冥土の土産にその至高の蜂蜜を寄越すのじゃ」
(クッコロ姫の癖に図々しい)
何故か至高の蜂蜜を彼女達に振る舞わなければならないと感じ、スキルで巨大な蜂蜜の球体を産み出しているゲルドアルドにティータは図々しくいつも通り蜂蜜を要求してくる。
「捕虜の癖に生意気だ!」言わんばかりに大蜜蜂達は、未だに大の字で草の上に倒れるティータの柔らかい頬を再びフワフワの前脚で左右から押した。
「ぬも」
更に胸の上で鬨を上げていた大蜜蜂が、前脚でティータの額をモフモフとリズミカルに叩き始めた。
「ぬおっおっおっおっ?」
リズミカルに可憐な声が鳴る。
「て、どうやって入ってきたんです?」
次回更新は未定。たぶん来月になります。
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