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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
遊戯世界からの蜂巣X編

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72/115

蜂さん

お待たせしました。

 

 ◆ゲシュタルトシティ。ゲルドアルドの蜂の巣。




「蜂さんフワフワー」


 ゲシュタルトシティ在住の住人(NPC)の憩いの場にもなっているここゲルドアルドの蜂の巣……通称【大蜜蜂園(ハニービーパーク)】は今日も盛況。

 ギルドの事務職として雇われている住人の子供が、たまたま地面に降り立った大蜜蜂(ハニービー)に抱き着いて、その黄色の毛並みを堪能していた。


 平和な光景だ。


 とても、先のグナロークが起こした隣国を巻き込んだ内乱で、一度焼き払われたようには思えない。




 ゲーム時間で九ヶ月前。グナローク第三王子の叛乱……対外的には、信じるものは少ないが、発掘したレガクロスオリジン・オブシディウスと、それを研究し量産に成功したジャベリン軍団の暴走すると隣国を巻き込んだ大事件。

 戦いの最中、不幸にも犠牲になったグナローク第三王子と、隣国ビースウォートの要塞……。


 白々しいが対外的にはそうなっている。


 全ては不幸な事故だったのだと、強弁できる力と理由、材料があるなら国としてやらない理由はない。

 材料は主に不幸な犠牲になったグナロークと、一年と三ヶ月前に戦争で奪い取っていたビースウォートの領土だ。


 コチラも犠牲あったんだよー。


 領土も返すし許してねー。


 無論返す物以上の利益をアイゼルフ王国が獲ているのは、言うまでもない。


 大きく後退させられていた国境線を、戦争の傷を癒しきれないどころから、傷口に斧を叩き付けられ、元に戻った国境線を守るために、軍の派遣や新しい砦の建設をしばければならないビースウォートはとても大変だったと記しておく。


 モンスターが居るアニメートアドベンチャーの世界で、豊かで人の居ない土地を監視もなく放置するのは危険なのだ。




 そのような生臭い国の暗闘が裏で行われている表では、ジャベリン軍団の襲撃を受けて燃やされ、滅茶苦茶になった花畑と果樹園を人海ならぬ蜂海戦術で、ゲルドアルドは一万人以上の住人が暮らす巨大な城塞都市ゲシュタルトシティの四分の一を占める蜂の巣と花畑がある占有区画を数日で元通りの姿にしていた。


 更に住人の住宅街や、それほど高度な生産技術が必要無い、破壊されたゲシュタルトの施設の修復も、一週間で終わらせている。


 巣があれば、無尽蔵に労働力を生み出せるゲルドアルドの【無限の雑用係】の通り名は伊達ではなかった。


 だが、残念なことにその労力に見合った報酬は受け取っていても、住人のゲルドアルドへの感謝は微妙だった。

 普段から巣に引きこもり、露出が少ないゲルドアルドは、プレイヤーであるギルメンはともかく、ゲシュタルトシティの住人からの認知度が低い。

 本人は特に気にしていないどころか、面倒だと考えているので功績を主張することはなく。交流がないので、そもそもする機会もない。


 住人の感謝の多くは、ジャベリンの襲撃、グナロークの私兵の暴力から住人を保護を行った住人の避難場所のシェルターを護衛していた大蜜蜂(ハニービー)向かっていた。


 全身が金属の厳めしいモンスターの多いアイゼルフ王国。フワフワで丸々とした体型と外見の大蜜蜂(ハニービー)は、大人しいこともあって、老若男女問わず大人気で愛されている。


 グナロークの一件で益々その人気は更に高まっていた。


「蜂さん、バイバーイ!」


 黄色の毛並みを堪能した少女が大蜜蜂(ハニービー)にさようならの挨拶をしている。母親が迎えに来たのだ。片手を母親に握られ、自由な反対の腕を精一杯降っている。


 母親は自分の娘の様子を笑顔で見ていた。




「……………………」


 ゲルドアルドに指導されていた通りに、愛想よく可愛らしい動きで前脚を少女に振り返えしていた大蜜蜂(ハニービー)は、なんの感情も浮かんでない複眼から、名残惜しさの欠片も宿らない視線を少女と母親から外し、背中の翅を広げ、巣に向かって飛翔を開始する。


 大蜜蜂(ハニービー)確かに温厚な性格をしているが、その情の殆どが巣に対して……つまり彼女が所属するゲルドアルドという巣に注がれている。

 そう命じられているので、愛想を振り撒き、時には、蜂蜜に関係する対象を蘇生できる蜂蜜精霊(ハニーエレメンタル)が居ることが前提で、命がけで守ることもあるが、全てはゲルドアルドのためだ。


 少女に対する情は皆無である。




 彼女に割り当てられていた、住人向けの彼女達の可愛らしさアピールタイムと化している蜜採取や花粉集めの仕事は、今から10分前に少女に捕まった時には終了していた。

 腹部には蜂蜜が溜め込まれ、脚には固められた花粉塊着けている。


 割り当てられた仕事が終われば、以前は外でも巣の中でも、自由に過ごしていたが、外の花畑や果樹園の維持管理、蜜や花粉採取の仕事が、ただの可愛さアピールと成り果ているのと、同じ理由で彼女達は仕事が終われば必ず巣に戻っていた。


 ブーンと彼女の翅が鳴らす、蜂らしい羽音が静かに響く。


 敷地の中央、ビルのように巨大で長いゲルドアルドの蜂の巣の真ん中辺り。大蜜蜂(ハニービー)用の複数ある出入口の一つへと彼女と、彼女と同じく仕事を終えた大蜜蜂(ハニービー)達も帰っていく。

 同時に今から外で活動する個体が出入り口から次々と飛び立っていた。

 もう日が沈み始めているが、ただの蜜蜂とは違い、彼女達は夜間でも活動する。植物に負担がかかるため、夜間は〈蜂式魔法〉による採取活動は行わない。

 花畑と果樹園はゲルドアルドがジョブスキルで作成し、彼女達が管理を任されている物なので警備のために夜間も彼女達は飛び回る。巣の周囲だけではなく、ゲシュタルトシティ全体の夜間警備業務も引き受けていた。


 少女に別れを惜しまれた大蜜蜂(ハニービー)は狭い通路で飛翔をやめ、床を歩き始める。その上では外に出る大蜜蜂ハニービーが天井を歩いている。帰還する者が床、外出する者が天井を歩くと決まっている。


 狭い通路にはあちこちに大小様々な穴があった。その殆どが通路や空気を循環させるための穴で、中には通路なのに大蜜蜂ハニービーが通れそうにない細い通路もあったが、それは普通の蜂にしか見えない彼女達の小さな姉妹の大蜜劣蜂(プチハニービー)達用の通路だ。

 彼女達のお陰でこの巣は文字通り(のみ)一匹も見逃さない警備体制が整っている。


 それでも、侵入できない訳じゃないのが、このアニメートアドベンチャーの恐ろしいところだ。


 擦れ違う姉妹達と、触覚で挨拶を交わし通路を歩き続ける大蜜蜂ハニービーだったが、周囲には大きな変化が起きていた。


 通路が段々と広がっている。進めば進むほど、通路は広がり、最終的には通常のレガクロス三機が横に並んで余裕を持って歩けるだけの通路にまで通路が広くなっていた。


 これは大蜜蜂(ハニービー)の巣の構造上、かなりおかしな広さだ。


 大蜜蜂(ハニービー)の巣は、普通の蜜蜂と同じく、蜂蝋や植物の繊維作成されたハニカム構造で建造されている。

 普通の蜜蜂と違う点は、ハニカムの小室を満たす蜂蜜が、巣を維持するための重要な魔法装置の役割を果たしている点だ。

 その為、大蜜蜂(ハニービー)の巣はどうしても内部は複雑に入り組む。

 巣の規模が大きくなるほど、彼女達にしか理解できない大小様々なハニカムの小室で組まれた、複雑で巨大なハニカムの魔法装置と満たす為の蜂蜜が必要になる巣の内部はどうしても狭くならざる得ないのだ。


 巣の内部に十メートルの鋼鉄の巨人が歩き回れるサイズの通路など、強度も考えれば、ゲルドアルドの蜂の巣の規模で存在できる訳がない。


 しかし、実際には存在していた。


 広い通路を歩いていた大蜜蜂(ハニービー)は翅を広げて再び飛翔する。本来はあり得ない巨大通路は天井も広く、その高さは通常のレガクロスの二倍ある。


 飛翔する先には日が沈みかけている外よりも、遥かに明るい光が彼女を迎えるように差し込んでいた。




オゾフロは生産職の統括、ダイ・オキシンは実質ギルドを取り仕切り、ブラウリヒトは戦闘班それぞれ、ギルメンや住人(NPC)の部下がいたり訓練などで交流がありますが、ゲルドアルドの役割はゲルドアルドとハニービーで完結しているので、ゲシュタルトシティの住人との交流が皆無です。




次回更新は未定、今月もう一度更新を目指しますが、更新は怪しいです。今月に更新がなければ来月の頭になります。


評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。

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