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ゲルドアルド─蜂の巣の魔人と機械の巨人─  作者: 産土
遊戯世界からの蜂巣X編

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71/115

皆の隠し事

五章のタイトルを微妙に変更しました。


蜂巣と書いて「ほうそう」と読みます。

 

「そんなことよりも……ゲルさん!無事だったのですね!!ガハラ市が爆発事故で壊滅状態になってから、全く音沙汰無いので死んでしまったのかと思ってましたよ!」


「……何ですと?」


 驚愕の事実。あまりに濃厚な非日常を送るゲルドアルドがスッカリ忘れていた、ゲルドアルドの自宅が知らない間に消えていたらしい。


「え、ボクの住居が……いや、ガハラ市が壊滅?」


「そういえばゲルさん、雹庫県と言ってたニャ……ガハラ市住みだったのニャ?」


 横から投げ掛けられる「え、ゲルさんなんで生きてるニャ?」とウミネコの言葉。

「生きるとは何か」と高尚な哲学ではなく、あの惨状でなんで平然とゲームできてるの?という驚愕と疑問である。


 ウミネコは、ジョブやスキルが勝手気儘に取得されてしまう魔人族で有りながら一流の生産職を目指し、そして成し遂げている世情に疎い廃人プレイヤーだが、ログアウトができず「コマンドメニューが爆発するかもしれない……!」と恐怖し、ネットニュースの確認もできないゲルドアルドよりは世情に詳しい。




 自分の住居のマンション……ガハラ市に一体何があったのだろうか?


 無くなったと聞くと今まで全く気にしてなかったのに自宅が恋しくなってくる。単純な頭をしているゲルドアルドは今のやり取りで遅すぎるホームシック陥っていた。


(あ、部屋に置いてあった映画ソフトどうなったんだろう?)


 ウミネコの疑問の言葉は、衝撃の事実に混乱しているゲルドアルドの存在しない耳を通り抜け気にも止められず、ゲルドアルドは別の事が気になってしまう。


「壊滅したというのは……どの程度?」


 趣味のコレクションがどうなったか気になったゲルドアルドは、思わずマヌケな質問をダイ・オキシンに問う、現実の話なのに彼には全く現実味が無い。

 ゲシュタル・ゲル・ボロスにMP(マナ)を提供して、間接的に小国程度なら楽々収まる広大な森を更地に変えたばかりなので尚更だ。


 生まれ育った世界の筈なのに随分と遠い世界の事に思える。




「ニュース見てないのですか……跡形も無いそうですよ?」


 体感時間が三倍になっているアニメートアドベンチャーでは半年、現実では二ヶ月。世間はガハラ市壊滅の話題で持ちきり。

 ただし、廃人揃いのゲシュタルトでは世間の話題に疎い&興味が無いプレイヤーだらけで、それほど話題になっていない。

 ギルドにはガハラ市に住んでいるギルメンも居たが、全員が意識不明で病院送りか、死んでいたので、話題にすることは不可能。

 ギルメンの幾人かが「アイツ最近ログインしてないなー」と気にしているくらいである。


 尤もギルドで話題になっていても、オリハルコンを消費することで手に入れた新しいジョブに夢中になり、ゲーム時間で半年もの間、蜂の巣に引きこもっていたゲルドアルドは気付かなかっただろうが。




「……さようなら、ボクの映画コレクション」


 ダイ・オキシンの言葉に、ゲルドアルドの脳……ではなく蜂蜜が詰まった頭を、再版も配信もされなくて中古ソフトがやたら高値で取引されているレアなモンスターパニックのタイトルが次々と駆け巡り、悲しみに満ちた言葉が漏れる。

 名作から笑える駄作まで、ゲルドアルドの頭の蜂蜜の中で、コツコツと集めた映画のタイトルが次々と浮かんでは泡のように弾け、思考の闇の彼方へと儚く消えていく。




(帰還方法わからないし、というか探してなかったし、しょうがないかー、しょうがないなー、あー)


「あぁー……」


「本当に知らなかったみたいですね。ホッとしました、ゲルさんが無事で」


「また、出張ですか?」とダイ・オキシンに問われた、頭の上に「?」浮かべてゲルドアルドはオバケカボチャサイズの丸い頭を傾けた。動きに合わせて、ギギギーと木材を擦り合わせたような音がなっている。


 ゲルドアルドは、アニメートアドベンチャーに帰還した直後にダイ・オキシンに「言葉も通じない国に急な出張で出向いて大変な目にあった」と咄嗟の言い分けをしたことを完全に忘れていた。


「何の話……?」




 ◆




 ゲルドアルドの嘘を確信したダイ・オキシンは、適当に誤魔化して話を反らすと、気になる体型の変化の原因を聞き出そうと疑問を投げ掛ける。半ば確信していたが、やはり魔人族であるゲルドアルドの体型変化はやはりジョブチェンジだったと素直な答えが帰ってきた。

 ジョブの内容についても「蜂の巣を色々弄りまわせるようになった」と答えを得られたダイ・オキシンは、露骨に帰りたそうなゲルドアルドにやんわりと帰還を即してやると、彼は素直にそそくさと帰り支度を始め、その場から去っていく。




「色々というのはどの程度なんでしょうねぇ」


 ダイ・オキシンは、姿の見えないディラックに股がり、引き連れていた様々な大蜜蜂種達と離れていくゲルドアルドの背中にむかって呟くが、小さな呟きは特に身体能力が高いわけではない彼には届かない。

 ディラックのスキル効果が適用されたゲルドアルドと大蜜蜂種達の姿が、空間に溶けるように消えて見えなくなる。




「サブマス、いいのかニャ?ゲルさんジョブスキル聞き出さニャくて、あれはなんか凄いこと隠してるニャ」


 実験のために魔人族になり、ゲルドアルドから〈Unlimited〉秘密を聞き出すために度々接触を繰り返しているウミネコは、それを命じた張本人であり、ここでも現実でも上司であるダイ・オキシンに疑問をぶつけた。


「ええ、何やら色々、尋常じゃないMP(マナ)量も含め何かを隠していることは明らかてです。変異魔法言語地域への出張なども真っ赤な嘘でしたし……というか自分がついた嘘覚えてないって」


 然り気無く、魔法スキル行使して遮音や見た目と会話の偽装を済ませたダイ・オキシンは多分に呆れを含んだ視線をゲルドアルドが消えた方向に向ける。


 ゲルドアルドの腹芸技能はマイナス判定だ。




 ガハラ市の壊滅。円卓に席を持つダイ・オキシンとって他人事では済まされない大事件だった。

 大陸の真実を知らないディセニアンが多数暮らすベッドタウンの壊滅は、アイゼルフ王国最大ディセニアンギルドであるゲシュタルトに少なくない犠牲を出している。


 所属人数の多さが仇となった形だ。有能なディセニアンの損失や離脱にダイ・オキシンは頭が痛い。

 そして、最近の彼を最も悩ませる頭痛の種は、稀有な才能を持つ幹部の喪失だった。


「ちょっとですね、複雑というか不思議なことになっているんですよ」


「ん、どういうことニャ?」


「ゲルさんね、死んでいるんです」


 しかし、何故か喪った筈の幹部であるゲルドアルド本人と出会ってしまったが。


「ニャ?」


 ウミネコの雲丹の体表と朱珊瑚の瞳を持つ猫顔が疑問で歪む。

「何言ってんの?頭大丈夫?」と無言で雲丹の蠢きが語っていた。

 ゲルドアルドが死んだと言われても、先程普通に会話したばかりである。


「実はガハラ市を調査した荒谷班が、ゲルさんの死体を見つけたらしくて」


「ニャ??」


「DNA鑑定で本人だと確認され、死亡届けも受理されてまして」


「それはあれかニャ?たまにやる事故死に見せかけてコッチ(運営者側)に来て貰ったりする奴かニャ……?」


 希にある事だった。


 運営は巨大である、所属する者達は目指す場所は同じであるが、手段や目的が派閥が幾つかあり、その派閥のなかでも保守派や過激派と別れている。

 中には運営や派閥の中で優位にたつために、有用なディセニアンを拉致して取り込んだり、消したりと真っ黒な手段を行使することも非常に少ないがあった。

 しかし、ディセニアンの数と活動は重要なリソース源であるため、萎縮の原因になるような脅しや暴力、こちらの正気を疑われ敬遠されかねない真実を告げての協力を仰ぐような行動は、控えるのが過激派でも常識であり、滅多なことでは行われない。


 特に、その身に宿す膨大なMPで派閥を越えて注目を集めているディセニアンであるゲルドアルドには、間違っても行われない筈の行為だ。


「いえ、普通に死亡です。ゲシュタル・ゲル・ボロスをまともに稼働させることができる、優良極まりないリソース源になるディセニアンの喪失に派閥を越えて運営全体に衝撃が走っているところです」


「ニャー」


 訳がわからなくなったウミネコはただの猫になった。


「人の言語を忘れないでください、私も大混乱ですよ」


 大陸で死んだのなら驚きはないが、現実で死んだ人間が普通にゲームで遊んでいるというのはホラーである。




「ウミネコさん、業務連絡です」


「唐突ニャ?」


 ウミネコは嫌な予感を感じ、ダイ・オキシン真面目な表情に釣られて無意識に顔の雲丹をモゾモゾと引き締めた。


「ちょっと、現実の方で荒谷のクソガキ……じゃなくて荒谷のクソジジイを締め上げにいきます」


 その滅多に行われない行為を軽率に行いそうな人物が荒谷だった。


「マジかニャ」


「マジです、ハンモウさんにも連絡します」


「武力行使前提ニャー!嫌ニャー!」


 ハンモウはゲシュタルトでも現実でも、ウミネコと同じくダイ・オキシンの部下であり、荒事担当であった。

 現実で建造されているアニメートアドベンチャー産とは比べようがない、低性能なレガクロスのテストパイロットでもある。


「ふふふ、もしもの為ですよ?逃れることはできませんよぉー既に動き出してますからね」


 ダイ・オキシンは笑う。

 怒りの感情を胡散臭い笑顔の仮面の下でドス黒く燃やしている恐ろしい陽炎の笑いだ。


 荒谷はダイ・オキシンから見ても才能豊かなのだが、ヘタクソな立ち回りで録に評価されない彼は、自分と違って輝かしい称賛を受ける、同じアイゼルフ担当であるダイ・オキシンに度々ちょっかいをかけてきていた。

 録に実績はないし家柄は良くても荒谷家は落ち目なので、適当にあしらっていたが、ここに来て荒谷にゲルドアルドが誑かされているかもしれない非常事態だ。


 しかも、運営にそれを隠している疑いがある。


「詳しくは秘匿回線で連絡します」


「了解ニャ……」


 最後に短くやり取りを終えたダイ・オキシンとウミネコは、ほぼ同時にログアウトし、光の粒子になって消えていった。


今月はもう一回更新したいなーっと思ってます。

遅くても来月の1日には更新します。


評価、コメント、ブクマ等あればとても嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ゲルさんあなたの秘密基地ごっこは外では大事になってるみたいですよ。 子供、内緒の場所で時間を忘れて遊ぶ。 親、誘拐や事件に巻き込まれたのを疑う。
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